NARUTO
3
奈良との家庭教師は順調に進んで、少しずつ理解していくナルト。
最初からうまが合うのか、終始楽しい時間を過ごしながら今日も教わっている。
「Not only does Michel say what should;he also does what should be done.」
奈良の流暢な発音は聞いていて何時も惚れ惚れしてしまう程上手で、海外生活をしていたのかとナルトが聞けば、奈良は幼少の頃過ごした事があると言って驚いた。
『あー・・・マイケルはやるべき事を・・・やり通した?』
「惜しいな。マイケルはやるべき事を言うだけでは無くやる。」
今日はリスニングで、ナルトは頭を抱えながら頑張るが、どうしても奈良のリスニングに聞き惚れてしまって最後まで入ってこない。
ネイティブ過ぎて、怖い。
「次は少し長いか・・・」
『えー、勘弁してってー・・・』
いやだー、とテーブルに突っ伏したナルトの頭を奈良は柔らかな笑みを浮かべながら撫でた。
「これ、俺の時は教科書に出てきたことあんだよ。」
『むーりー・・・』
奈良の撫でる手が気持ち良くて、ナルトの目は細まってしまう。毎回されるようになってからは気持ちが良くて、ナルトは恥ずかしくなってしまう。
「Never in all my life have I been so strongly attracted to any man.」
『・・・はいんねえって』
本当に入らない。
奈良の声が耳の中で残響して、頬が熱くなってしまう。何だか囁かれているような、甘い響きを持っていたから。
『私は生まれて以来・・・も一回言って?』
首を傾げると奈良は苦笑しながら、ダメ。と返される。
「リスニングは一回だけって言ったろ?」
『長すぎるんだってばー・・・』
はい次ー、と奈良はナルトに用紙を渡した。
「そう言えばナルトこの前この近くのバーガーショップにいた?」
『いたよー、もう暑くて俺頭クラクラだったからさ・・・』
どしたの?
聞き返すと奈良はナルトの毛先に触れる。
「知り合いがこの制服を着た金髪の子が凄かった、っていってたから。」
凄い事なんてしただろうか?
これと言って思いつく事が無くてその日の事を告げると、奈良はクスクス笑う。
「テストの事か、なんか周りの視線を集めてたって言ってたから」
集めていたのはナルトの気怠く艶っぽい表情だろう。
けれど本人はそれだとは気付いておらず、テストの事だと奈良に言うものだから、彼は敢えて言わなかった。
「今は大丈夫か?」
『んー、先生来る前に水浴びたから。』
そうでないと身体が怠さを訴えて、力が入らず勉強所では無かった。
「辛かったら言えよ・・・?」
『ん・・・ありがとう。』
また頭を撫でられて、ナルトは微かに頬が赤くなってしまう。それをこの暑さのせいにして誤魔化すのはもう何度もある。
自分が女なら、惚れていたのかもしれない。
それくらい奈良は魅力的で、親切だから。
なんて単純なんだろうとナルトは思うが、それは家庭教師だからそうしているだけだと理解している。
こういう人ほど遊んでいたり、相手が居るもんなんだと。
********
今日も暑くてナルトはダラダラと歩いていた。
汗でナルトの髪の毛はしっとりと湿り気を帯び、暑さで瞳に膜が張っている。
蒸気した頬はピンク色で、肌に張り付く髪の毛が邪魔くさくて掻き上げた。
『・・・水、買うか。』
コンビニの中に入ると涼しさがナルトの身体を包み、目を細める。
水を手に取って、それから友人にも言われた塩分を補給する飴を取った。
レジに行って会計を済ませると、その人にナルトは声を掛けた。
『すいません・・・この袋切って下さい。』
力が入らなくて開けられない、と付け足すとバイトの男性は数秒遅れて切ってくれた。
『お兄さん、これも・・・切って?』
「は、はい・・・っ」
個別包装された飴を出して、ナルトは掠れた声で告げると、相手は耳を赤くしながら切ると、ナルトはふにゃりと笑ってありがとうと告げる。
(あぶねえ、危うく未開の世界に入りそうになった。いや、あの子ならありなのかも・・・)
だなんてバイト君が思っていたとは知らずに、ナルトは外へと出た。
コンビニを出るとナルトは店前にある少し高めに作られた煉瓦の花壇の縁に腰かけて、口の中で飴を転がしながら水を飲むと喉から胃に流れていくのを感じる。
ふと、道路の反対側を見るとナルトは目を丸くする。
『・・・奈良さん?』
奈良が女と歩いている姿。
その女は楽しそうに奈良に話しかけ、奈良を見るとナルトは不思議に感じた。
『無表情だ・・・』
あんなに表情が変わるのに。
と言ってもほんの少しなのだが、今の彼は本当に感情が何も現れていなかった。
『まあ・・・ほっとく人は居ないよな。』
なにか理由を付けて歩いたり、頼んだりしてまで歩きたかったんじゃないのか。
けれど胸がツキリと痛んだのはどうしてなのか分からなかった。
ペットボトルを頬に当てて、ナルトは俯いて瞼を閉じる。
(早く帰ってシャワー浴びたい。)
でも身体が中々動いてくれない。
ガリッ、と少し小さくなった飴を噛み砕く。
『・・・あっちー』
毎日の事ながら嫌になる。夏は好きだけれど、この暑さが苦手で、ナルトは毎年一回は必ず体力が落ちて熱を出してしまう。
まだ来ていないが、油断はしたくない。こんな暑い日に熱なんて地獄過ぎて。
頬から額にペットボトルを移動すると、ヒヤリと首元に冷たいのを感じて驚きで肩が揺れた。
『・・・っ!』
「こうなってる訳か」
最近聞きなれた声に顔を上げると、奈良だったことに驚く。
『奈良さ・・・なんで?』
女の人と歩いて無かった?そんな疑問を感じながらも、胸が喜んでいる事がまず分からない。
「見慣れた制服と金髪みりゃ分かんだろ。」
『いや、人違いだったらどうすんの・・・』
呆れ声で言葉を返すと、奈良はくつくつ笑って自信ありげに告げる。
「まちがわねえな。」
『は・・・奈良さんスゲー自信家じゃん、それ!』
けたけた笑うナルトに、奈良はある意味な、と返す。
「帰る途中?」
『そうなんだけど・・・ばてた。』
へらりと笑みを浮かべると、奈良はナルトを見詰める。それを不思議な顔でナルトも見返すと、ナルトの頬に触れた。
『・・・ん?』
「お前頬っぺた桃みてー」
ピンク色をしているからそう言われても仕方が無い。もう何度となく言われてきた言葉なだけあって苦笑する。
『完熟しきれてないから食べないでね。』
冗談を言えば、頬を抓られる。
痛い痛いと腕を叩くナルトに、奈良は目を細める。
「俺は完熟してない桃も好きだから、食べる事は可能だ。」
『・・・その返しずりー』
頭を抱えて俯いたのは、奈良の言葉にどきりとして顔を見る事が出来なかったから。
なんか自分の胸がおかしくなってる。
ナルトはそう感じながらも平常心を保った。
「みんなが完熟好きとは限らないだろ」
通用していた事が、彼には通らなかった。
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