NARUTO
七
片付けが終わってナルトは奈良の方に身体を向けると、長い足を組み、頬杖をついて窓の外を眺めている姿に目を離せれなかった。
ナルトは団扇が言っていた言葉が頭の中から消えなくて考え込んでしまう。
被っているとは、いったい何をだろうか。
「・・・渦巻さん?」
『・・・・・・。』
奈良がどんな人なのかはナルトには分かりきっていないし、間違いなく奈良は本性を出していないことぐらいナルトにだって分かっている。
相手は獣医師で、自分はその患者の飼い主なのだから。
ただ奈良が此処に来たことが何より驚きと同時に嬉しかった。
「うーずーまーきーさーん」
『・・・へ?』
やばい、考え込んでた。
ナルトは我に返って目をはっとさせるが、頬に痛みがある事に手を添えた。
『・・・意識ぶっ飛んでました。』
「柔らかいんですね」
肉球みたいでしたよ。彼の言葉に恥ずかしくなってしまい俯く。
『別に俺のは普通ですよ・・・』
「いや、十分柔らかいですよ、マシュマロみたいで」
『ちょっ、やめてくださ・・・っ、うおっ!』
また触られてナルトは逃げ腰になって足を引くと、テーブルに当たった。
『・・・痛い。』
膝が当たってしゃがんでそこを抑えると、影が強くなって顔を上げれば奈良の顔が視界に広まっていた。
『・・・奈良さん?』
「渦巻さんって、案外おっちょこちょいなんだね。」
『おっ、や、ちがう!』
顔を真っ赤にして立ち上がるナルトに、奈良はくくっと喉を鳴らして笑う。
『笑う事ですか?』
「見てて飽きない、かな。」
からかわれてるんだろうか。ナルトは目頭を押さえて俯いた。
『まあ・・・それは言われますね。』
「渦巻さんって、生徒に好かれてるんだなって、実感しました。」
『いやいや、あれはもうやんちゃな弟みたいなものですから・・・』
ほんとうにその通りだと思って、ナルトは無意識に笑ってしまう。なにもないのに此処に来て無駄な話や、悩みを聞いたり、愚痴を聞いたり恋の相談までもされる。
それでも生徒の笑う姿が可愛らしくて、思い出すだけでふわりと笑った。
『――馬鹿可愛いですよ。』
無邪気な顔や声が。
奈良はそれを見て一瞬目が見開いてしまう。
**********
ナルトは奈良に自宅まで送ってもらい、着替えるとそのまま彼とクラマの物を買いに連れて行ってくれた。
知識がないナルトには有り難くて、色々と聞いてしまう。
『俺、部屋があまってるからクラマの部屋作ろうかと思ってるんです』
「贅沢すぎない?」
そう言いながら笑う奈良に釣られて笑ってしまう。
『このタワー欲しい!トンネルも欲しいです!』
「初孫を喜ぶお祖父ちゃんみたいですね。」
『だって俺の息子ですから!』
満面の笑顔を浮かべて言葉を返すと、奈良はふわりと笑みを浮かべた。
「早く家に連れて帰りたいでしょう?」
『はい、でもそうなるとこうやって奈良さんと会えなくなっちゃいますね・・・』
それはもの悲しい気持ちになってしまう。
「別に何時でも会えますよ、近いんだし。」
『時々すれ違うくらいですしね』
笑みを浮かべて、ナルトは胸にちくりとした痛みを抱えながら他の商品を眺め始める。
クラマが戻れば、すれ違った時にしか話さないだろう。こうして毎日会う事も、自宅に行く事も無くなるんだろうな。
そう考えたら目頭が熱くなってきて、誤魔化そうにも誤魔化しが利かない。
「――・・・渦巻さん?」
『奈良さん、俺あっちみてきまーす!』
覗き込もうとする奈良よりも早く、ナルトは指をさして奥の売り場へと向かった。
「・・・誤魔化す、ね。」
口許を手のひらで隠して笑わせていた。
『・・・・・・。』
あーぶねえ、まじあぶねえ!
ナルトはしゃがみ込んで頭の中で叫んでいた。
どうして涙が出そうになったのか分からない。ただ悲しくて、寂しいとおもったから。
『・・・だよなあ』
ほんの数日間だけなのに、淡かった色が濃い色に色づいて、好きがどんどん強くなっていっていると。
このままでは本当に奈良の事を好きになってしまい、抑えが付かなくなってしまう。
マタタビの袋を眺めながら自嘲的な笑みが零れる。
『チップより粉末がいいかな・・・』
「粉末は爪とぎに含ませるといいんだって」
『ひいっ!!』
肩にずしりとした重みと、重なった彼の手。
違う香りと背中から伝わる熱に、ナルトの思考は止まってしまう。
「それと、この粉末はあまり子猫に良くないからダメ。そんでこっちのお菓子はまだ早いから却下。」
耳元で説明する奈良はぽいぽいとカゴの中に入れていた商品を取り出し、ナルトの頬は薄く色付きながらただ見ているだけ。
「そんなもん買うなら同じ値段で俺が仕入れた方がいいのあるから。」
『・・・全部却下された』
すっからかんになったカゴを眺めて、ナルトは頬を数回掻いた。
「にしても、渦巻さんは細いですね。」
すっぽり包まれているナルトは、耳元に彼の吐息が掛かってくすぐったかった。
『・・・っ』
店の中で、ましてや同性がこんな事をしてしまって良いわけがない。誰かに見られていないか心配になってしまう。
「あと、これが良いですよ。」
すっ、と彼の腕が伸びて商品を取るとナルトは視線でそれを眺めた。
『・・・ボール?』
「この中に餌やお菓子を入れて遊ばせるんです。身体も動くし、知恵も付きますよ。」
カゴに入れて貰って、他に足りない物がないか確認してレジへと向かった。
後少しでこの楽しい時間が終わってしまうのだと実感すると、やはり目頭が熱くなってくる。
こんな事は無くて、ナルトはただ戸惑う。
『・・・どうしようもないのに』
ポツリと呟いた言葉は、誰の耳にも届かない。
[前へ][次へ]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!