NARUTO
四
車が止ったのを感じてナルトは首を傾げる。
誰かと会うと思っていた考えが思い切り外れてしまったから。
外に出ると人の視線を感じながら奈良はナルトの手を掴む。
「行くぞ」
『あの、どこに向かわれるんですか?』
全く分からないナルトはただ彼の後に着いて行くしかなく、建物をみてまさかと目を丸くした。
車が止まってその横の建物は映画館で、奈良はそこに歩いて行く。
『社長・・・あの、映画、見るんですか?』
「ああ、面白いんだろ、この映画」
奈良が見ているポスターは、ナルトが観たいと思っていた映画で、朝桐山に誘われたのもこの映画だった。
「一人でいくのも気が引けるし、お前はもう観たのか?」
『いえ、凄く観たかった映画なんです!』
嬉しくてナルトの表情は緩み、笑みを浮かべる。
中に入って奈良は係員と話して直ぐに戻ってきた。
そのままフードコートで飲み物などを買ってシアターの中に入ると、誰もいない事に気付く。
『・・・だれもいない』
「ラストはだれもいないんだと」
見やすい一番後ろの真ん中に座って、ナルトは携帯の音をきった。
これから始まるのが楽しみで仕方が無いナルトの顔は綻んでいて、幼さが浮んでいる。
奈良もネクタイを緩めてだらりと腰かけなおした。
『社長、楽しみですね!』
「――そうだな」
満面の笑みを浮かべるナルトに、奈良はくすりと笑い、頬杖をついてナルトを見る。
仕事の時とは違う、素に戻っている姿を奈良は久しぶりにみたと感じる。
上演のブザーが鳴り、映画が始まった。
「・・・?」
開始から数分が過ぎると、奈良は隣から聞こえてくるおとに気付く。
まだ始まったばかりだと言うのに、すでにナルトが啜り泣いていた。
これには流石に奈良も笑い出してしまいそうになったが、それを堪えてナルトの頭に触れる。
「なに泣いてんだ・・・」
『や、だっ、だって・・・っ』
ハンカチを握りしめながらナルトはボロリと涙を零す。
「だってもなにも、今からこうなってたんじゃ後半どうすんだよ」
『うー・・・っ』
眼鏡を取って目許をハンカチで抑えると、奈良は頬に手を伸ばして流れた涙を拭った。
そういえばこれどこかでびっくりするシーンがあるんだっけ。
友人の言葉を思い出した奈良は何処だったのか考えると、ナルトの身体が大きく揺れた。
「・・・どうした?」
『いえ、びっくりしただけです・・・』
あはは、と軽く笑うが、スクリーンを見ようとはしない。
「みないのか?」
『・・・目にゴミが入りました』
奈良の方を見ようとはせず、誤魔化すナルトに彼は顎を掴んだ。
『へ・・・?』
「どこにはいったんだ?」
薄暗い中で至近距離から見る奈良の顔は陰影を作り、ナルトは目を瞬かせる。
「泣きすぎて睫毛でも入ったか?」
『・・・っ』
指の腹が目尻に触れ、優しく拭われた。
まるで自分が本当の女にでもなったような錯覚がうまれ、胸が高鳴る。
『だ、じょぶ、ですから・・・』
奈良を直視出来なくて、ナルトの瞳は左右に彷徨うだけ。
この薄暗さのお陰で、ナルトの頬が赤くなっている事を彼に知られないのはいいが、この甘い空気がくすぐったくてどうにかしたかった。
「そうか、それならいい。」
すっ、と離れると奈良は胸ポケットから携帯を取り出し立ち上がった。
「電話入ったから見ててくれ」
『はい。』
広いホールの中にナルトが一人だけとなり、なんだか貸切にしたような気持ちになるが、落ち着かない。
『一人で見るのって案外さみしいもんなんだな・・・』
暫く一人で見ていたが、奈良が戻って来ない事が心配になり、ナルトは立ち上がる。
『・・・でもなあ』
入れ違いだったら困る。
けれど奈良に何かあっても困る。
怒られてもいいから姿を確認しようと、ナルトはそこから出た。
『・・・あ。』
出ると直ぐに奈良の姿があったが、上映が終わって出てきた女性客に捕まっていた。
これはどうするべきなのか正直ナルトは戸惑ってしまう。
仕事中なら割り込めるが、今はもうそれが終わってオフなのだから。
奈良のプライベートに割り込む勇気が無かった。
けれどこの胸の痛みは何なのだろうか。
『・・・針でも入ったのかな?』
「針入りのパンでも食ったか?」
するりと背後から回ってきた奈良の腕と、耳元で話す声にナルトは驚く。
『ひぃあっ!』
「・・・あ?」
がくん、とナルトの膝が曲がり奈良に支えられた。
おそるおそる振り向くと、きょとんとした顔を浮かべる奈良。
「お前、声掛けるの戸惑っただろ」
『当たり前です、今は仕事中じゃないですから』
「馬鹿か、俺と居るときは常に仕事中だろうが。」
理不尽すぎる。
こっちは気を使って声を掛けなかったのに。
「なに不満な顔してんだ」
『んーっ!』
むにりと唇を抓まれ尖った。
それをムニムニとされてナルトの唇は少し赤くなる。
奈良のこういった姿を見るのはナルトは初めてで、新鮮さをかんじた。
変わらないのだ、自分の周りにいる友人たちと。
そもそも奈良の性格がピリピリしていないせいでもあるが、ナルトからすれば彼は話しやすかった。
楽しかった映画が終わって食事に誘われ二人は個室つきの居酒屋に入った。
古民家を改築して昔風の造りをしていて、そこには掘りごたつになった囲炉裏があり、ナルトは珍しげに眺める。
「珍しいか?」
『はい、囲炉裏は無かったのですが、祖父の家には釜戸があったので揃うとこんな感じなのかな、と。』
パチパチと音を立てながら炭が燃え、ナルトは気になるものがあって奈良に尋ねる。
『あの、この端にある三角の壷みたいなのは・・・炭入れですか?』
「火消壷だな、これが瓶台で鍋とか置いたり、その蓋を置いたりするやつだ。」
奈良の説明を聞きながらナルトはそれを食い入るように近づいて眺めると、炭の熱で顔が熱くなった。
『・・・熱い。』
額を抑えて俯くと、、奈良はおしぼりを手渡す。
「火傷して赤くなったら困る」
『すみません、ありがとうございます』
額をそれで押さえてると、料理が運ばれてきた。
旬の魚介や茸、野菜が串に刺さってあり、他にはお作りと小鉢の料理。
ナルトは楽しそうな眼差しでそれを見つめると、奈良が喉を鳴らして笑う。
「楽しそうだな」
『はい!どうやって刺すんですか?』
「炭の周りに斜めに刺して焼くんだ、後はこの網で焼いたりすんだ。」
奈良がエビを取って差しながらナルトに教えると、言われた通りに刺していく。
「少し時間は掛かるが、それを見るのも楽しいだろ?」
『はい!食べるの楽しみです!』
「そっちかよ・・・っ」
くしゃりと奈良は笑い、ナルトは気恥ずかしくなったが、楽しみなものは仕方が無い。
魚介の焼ける匂いが食欲をそそり、ナルトの腹も食べるのを待ちわびていた。
奈良の酒を注ごうと隣に行けばそのまま座ってろと言われ、焼けたエビを奈良が取った。
『熱くないんですか?』
「竹だから熱くないが、お前は取るな。」
そんな言葉にすらどきりと胸が高鳴ってしまった。
女だと錯覚してしまう程、奈良は優しくて小さな気遣いすら嬉しく感じてしまう。
『あの、自分はあとどれくらいこの格好をしてればいいのでしょうか?』
「・・・もとに戻りたかったら会社を辞めるしかないぞ?」
やっぱりそうなるのか。
入りたかった会社だったのに、元の姿で働けない。
悲しいような悔しいような気持ちがナルトの中で回っていると、奈良は煙草に火を点けた。
「辞めたいか?」
『いえ、秘書の仕事には遣り甲斐を感じています。ですが・・・・その』
「その姿、か?」
こくりとゆっくり頷くと、奈良は煙草を持ったまま頭を数回掻いた。
「お前なんで隠してたんだ?」
『・・・隠す?』
何の事なのか見当がつかなくてナルトは奈良を見上げると、表情は変わらなくともナルトには彼の変化に気付いた。
ほんの少し眉の角度が変わった瞬間、すうっと部屋の温度が下がるような気がして。
「いつからあいつらに言われたり触られたりしてたんだ?」
『それは・・・その、短いと言われただけです』
やはり見られていたのか。
ナルトはその事だけは彼に言わないでいた。
余計な種を増やしたくないのと、自分は男なのだから平気だと言い聞かせて。
けれど嫌なものは嫌で、ましてや女装を知られてしまうと彼に多大な迷惑をかけてしまう事になる。
「だけじゃねーだろ」
ふうっ、と煙を吐いて火を消すと、奈良はナルトの太腿に触れた。
「こうやって触られたか?」
『いえ、一瞬ですから・・・』
さわさわと際どい所を撫でられ、くすぐったい。
彼の指先がスカートの中に入り込んで、もう少しで触れられてしまいそうで、ナルトの足に力が入る。
「・・・ふうん」
『・・・いっ!』
ぱちん、とナルトがしているガーターベルトのホックを引っ張りはなした。
「直ぐに外れないもんなのな・・・」
『ちゃんと止めてるので簡単に外れません』
それを知りたかったのか、分かると手は離れて奈良は焼けた野菜を取った。
すこし乱れたスカートをなおして、ナルトは思う。
もしこれが自分ではなく他の秘書にもしているのだとしたら。
手癖が悪いというか、性格が悪いと思った。
こんな事をされてしまうと、勘違いが生まれてしまうだろうし、期待だってしてしまう者もいるだろうに。
それとも、したいから自分がこんな恰好を強いられているのかもしれない。
考えは纏まる事はなく、疑問ばかりが生まれる結果になった。
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