NARUTO
二
赤い糸を辿ると森の中に入ってしまった。
これは運命なんかじゃなくて術に掛けられた、が正しいと考えたナルトは周りに誰かいないか気配を探る。
『・・・いない』
一体なんなんだ。さっきよりまた太くなった糸を眺めて歩いていくと、畔が見えてきた。
少し疲れた。休もうと思った時、葉っぱの揺れる音がして見上げると、ナルトは目を丸くする。
『・・・シカマル?』
「なにやってんだ?」
木に登って読書をしていたシカマルがそこから飛び降りて来ると目の前に立った。
『・・・さんぽ、してた』
見えないと分かっていても、ナルトは自然と右手を隠してしまう。
「此処に来るの珍しいんじゃね?」
『あー・・・そうかも』
ここはシカマルがお気に入りとしている場所であり、よく本を読んでいたり昼寝をしていたりしている所。
自分とは違って頭の出来がいい彼は、仕事の内容も違う。
「お前、なんか変じゃね?」
『・・・へん?』
「そう、何かしっくりこねえ」
いたって普通にしているのに。ナルトの中で少しの焦りが生まれ、嘘が下手なせいで瞳が忙しなく彷徨う。
『いや、何も変わってねえよ・・・?』
なに言ってんだよ。空笑いを浮かべながらシカマルの肩を叩く。
「・・・ナルト」
『ん?・・・なに?』
手首を掴まれていつもより低い声のシカマルに、ナルトの頬が少し強張る。
けれどナルトの視界に映ったものが信じられなくて目を瞠った。
『・・・っ!』
掴んでいるシカマルの小指には、自分と同じ赤い糸が付いていたから。
「お前だったのか・・・」
『え、シカマル、見えんの・・・?』
キバには見えなかったのに。
本当にこれが運命の赤い糸だとすれば大きな誤算としか言いようがない。二人とも同性で運命なんてそんなもの関係ないのだから。
「ああ、右手出してみろ」
『・・・うん』
隠していた手をシカマルに見せると、間違いなくそれは彼のと繋がっていてナルトはホッとした。
『これ、なんかの術なのか?』
相性とかの。不思議な顔で糸を眺めていると、シカマルは指を絡ませる。
「・・・運命なんじゃねえの?」
『い、いや・・・ないだろ、同性で・・・』
くらりとした。自分を見つめるシカマルの瞳の強さに。
ばくばく鼓動する胸が、ナルトの呼吸を乱し喉が震える。
「じゃあ、なんなんだよ、これ」
『俺が・・・しりてえよ・・・っ!』
さらりと髪の毛を耳に掛けられて、ピクリと震えた。
顔を見る事が出来なくて、ナルトは伏し目になりながら瞳が落ち着かない。
知らない誰かだと思った。
なのに同性で一番親しい者だったなんて。
自分だけ見えてればよかったのに。
「知ってるか、これの意味」
『・・・運命の糸?』
ちげえよ。
シカマルは楽しそうな顔を浮かべながらナルトの顎を持ち上げ視線を合わせる。
「切れることの無い糸。生まれた時から見えない糸で結ばれて、どんな境遇だろうとも必ず二人は結ばれる・・・」
するりと頬を撫でると、ナルトの唇に触れた。
「同性だろうとも、運命ってのはあんだよ・・・」
『――・・・っ!』
自然な動作でナルトの唇は塞がれ、目を丸くする。
驚きで呼吸をする事すら忘れて、ナルトは頭が白くなった。
「・・・見えるってことは、確実だろ」
『そんなの・・・うそだ、だってこんな・・・んっ!』
離れた唇は直ぐに塞がれ強く抱きしめられる。
こんな事がある筈ない。ナルトは内心思いながら逃れようと身体を動かす。
「往生際がわりい・・・」
『や、あ・・・むぅ・・・っ』
やだ。言葉にする前にシカマルの生温かな舌が中に入りそれを消す。さらに強く抱きしめられてナルトの身動きは難しくなり、されるがままになった。
どれくらいされたか分からない。
唇は麻痺して、眩暈がしてきて身体の力なんてとっくに抜けてしまった。
「――わかったな?」
『・・・っ、なん、なんでそんな・・・受け入れられんだよ・・・っ』
こんな迷信かもしれない事を、どうして聡い彼が信じてしまっているのか。
「どうしてだろうな、ただ、姿が見えた時、ナルトで良かったって、思った。」
『なっ、なんだよそれ・・・っ』
確かに自分も安堵したが、これとは別物だ。
こんな、どうにかなってしまいそうな事をされて、ナルトの頬は赤くなる。
『そんなの、俺にはわかんねえよ・・・』
運命なのかすらも。
これから始まってしまうのかすらも。
「こうして繋がってんなら、運命なんじゃねえのか?」
『割り切るの、はえーってば・・・』
こっちは恥ずかしくてどうしようもないというのに、さらにそうさせるような言葉を言わないでくれ。
「小指はな、契りの意味もあんだよ」
だから運命の赤い糸と言われている。
『迷信だとか、思えよ・・・お前なに損する事ばっかいってんだよ!』
「損?お前と知り合った時点でそんなもん、意味ねえんんじゃねえの?」
『少しは戸惑えよ!同性だとか子孫を残すだとか!!』
なに言っちゃってんだ!思った事をシカマルに告げると、表情すら崩れなかった。
「別に、ナルトは逃げても俺に掴まるだけだろ。」
『うー・・・っ』
何をしても捕まるのは昔からだった。
面倒な事も、付き合ってくれたのも、悪さをするのも。
いつもいつもシカマルの存在があった。
『にっ、逃げてやる・・・っ』
簡単に答えなんか出なくて、ナルトは悪あがきをした。
「捕まったらお前、俺のだぞ・・・」
いいんだな?
最終確認までされてナルトは頷いてしまった。
その時、シカマルの口許が笑っていた事には気付かないで。
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