NARUTO
自分しか見えない
冬の寒さから、春の暖かさを感じるようになった。
草花は芽吹き、気は蕾を持ち始め美しい花を開かせようとしている。
季節の変化は毎年あっても、ナルトの変化は余り無い。無かったが、今日のナルトの酷く落ち着いていない。
辺りをきょろきょろ見ては安堵の息を吐く。
一体今度はどんな物を持ち込んできたのやら。
そう口々に噂が出回り、仲間達にも知れ渡る。
先にナルトを見つけたのはキバで、ナルトは背中を向けたまま振り返る事はしなかった。
「今度は何やらかしたんだ?」
『なんもしてねえよ・・・』
見れないだけだ。
呟くとキバはナルトの正面に回り込み、顔を覗き込む。
それに焦ってナルトは退け反るとバランスを崩して壁に当たる。
『・・・いっ、てえ・・・』
「・・・なんも持ってねえじゃん」
両手で痛む頭を摩ってしまったナルトは、彼の指摘にハッとなってまた右手を隠す。
「怪我、したのかよ?」
心配そうな顔で問いかけると、ナルトは戸惑いを浮かべて右手をキバの前に翳した。
『なんか・・・みえるか?』
「・・・手のひら、だな。」
怪我してねえじゃん。ぺしんと叩かれて、ナルトはホッと胸を撫で下ろした。
どうやら他人には見えていない事が分かって、ナルトは一つ安心する。
一体ナルトに何が起きたのかといえば、今日の朝に遡る。
******
休暇のナルトは少し遅めに目を覚まして洗面所に向かった。顔を洗い、歯を磨いている時に鏡に映った物が気になって手を止めた。
『・・・なんだ?』
右手を翳し見れば、細い赤い糸が第二関節についていたから。
外そうとしても、切ろうとしてもびくともしないその糸。
もしかして誰かが自分に術でもかけたのか。
それが良いものなのかは分からないが、ナルトからすれば不安でもあった。
確かめようと外に出てみたが、この赤い糸を誰かに見られる訳にはいかず、右手を隠していたがどうしてか誰にも外に出ている糸の事は言われなかった。
この糸が何処に繋がっているのか知りたくてナルトはそれを辿っていた時に、キバと出会ったが彼では無かった。
「・・・それ、運命の赤い糸ってやつじゃね?」
『・・・は?』
なんだそれ。事情を説明したナルトにキバはおそらくそれだろうと確信したが、彼にはその糸が見えていない。
「前女共が言ってたんだよ、人と人を結ぶいつか結ばれる糸なんだとよ。」
『・・・勘弁してくれ』
「誰なんだろうな、お前の伴侶になる奴!!」
羨ましいぜ!笑顔で肩を叩くが、本人からすれば知りたくないことだった。
もし知らない誰かだとしたら。自分の知らない未来を知るのが嫌だった。
『・・・消えねえかな』
「知りたくねえの?」
『知りたくねえよ、そんなもん』
どうして自分にこれが見えるようになってしまったのだろうか。
本当にこれがキバの言った通りだとすれば、ナルトは探すのを諦めたいと感じた。
手を空にかざして眺めると、きらきらと輝き、綺麗だとナルトは思う。
運命の赤い糸。
いつか結ばれる二人には、この赤い糸がついていると言われてきている。
それだけ赤い糸には強い力が宿されている。
『・・・ほんとうかねえ』
年齢の割に恋愛すらしていないナルトに、どうしろというのだろうか。
したくても、出来なかった。
余りにも色々な事があって、修業ばかりしていたせいで。
だからなのか、恋愛すらせずに仲間と遊んでいる方が好きになってしまった。
わいわい騒いでいる方が楽しくて。
「にしても、なげーな・・・」
『どこに向かってんだろうな・・・』
キバと二人で糸を辿る事になったが、ずっと地面に着いたま伸びていた。
曲がったと思えばまた曲がって戻って。
ナルトは立ち止まり小指を眺めた。
『・・・運命じゃないかもな、これ』
「そーかあ?他にあるとすればなんだ?」
『・・・誰かが掛けた術?』
そうだと思っていたから。
術にせよ、運命にせよ、害があるのかすらも分からない。
結局言い出したキバは結果の見えない糸に飽きてしまって帰り、ナルトは一人その糸を辿っていった。
何処までも続く長い糸。
何処に終わりがあるのか、誰に行きつくのかすら分からない。
『・・・なんだろうなあ・・・』
もう一度手を眺めると、糸が太くなっていることに気付いた。
『・・・太くなった?』
あんなに細かったのに。
もしかしたら近いのかも知れない。ナルトは急ぎ早に糸を辿っていった。
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