NARUTO
三
練習試合当日
ナルトは自分の道着はあるが、部活に入っていないため部員の道着を借りなければならず、更衣室で着替えていた。
『久しぶり、だな・・・』
その声は懐かしみと悲しみを含ませたもので、ナルトは目を閉じた。
空手を始めたのはまだ幼稚園に入る前、三歳に近い頃。最初は怖くて、自分より大きな人ばかりで中に入る事が出来ず、良く母親の後ろに隠れていた。
けれど直ぐに馴染み稽古を重ねていくうちに、自分より強い相手との組手が楽しくて仕方が無かった。
暇があれば庭で鍛錬して、弱点である身長に負けないようナルトは勝てる秘訣も考えたり、生活の殆どが空手の事ばかり。
諸岡とであったのは、小学四年の頃。学区が違って道場でしか会わなくて中学に進学した時一緒になった。
互いに稽古をして、練習もした。
けれどナルトが道着を着なくなったのは全国大会の優勝が終わった日におきた。
よくあるもので、目指すものが無くなってしまったから。
団体、個人戦も優勝してナルトは死守する側になったのだが、冷めてしまった。
諸岡のように一直線でもなく、目標も無い。無いのにやる意味なんてあるのだろうか。
そう思うように。
『――・・・。』
三年振りに袖を通す道着はブカブカではあるが、帯をしっかり腰に巻いて締めた。
道場に行くと空手部に所属している者は揃っており、諸岡がナルトに気付いて近づくと、懐かしい顔をするが直ぐに眉を下げる。
「・・・ごめんな」
『きにすんな。お前を行かせる訳にはいかないしよ。』
苦笑を浮かべてナルトは肩を叩いて一礼をしてから中に入った。
懐かしい記憶が次から次へと思い出し、自然と笑みが零れる。
『懐かしいなあ・・・』
大好きだった空手。相手が繰り出してくる攻撃をかわしたり防ぎ、身体に沢山の痣が出来たこともあった。
「ナルト。もしものために一ついいか?」
『・・・ん?』
部長と三人で話し合いが始まり、練習相手の生徒達もやってくると空気は少しぴりつく。
副部長の引き抜きがかかってる以上、どうしても感情が興奮してしまう。
「見ない奴がいる。」
対戦相手の部長がナルトに気付き呟くと、部員達も視線を向けるとくすくす笑う。
「あんなチビで見た目馬鹿そうなやついたの?」
「でも顔はかなりなもんだ」
「かなりって・・・かなりだな」
後ろを向いていたナルトが前を向くと、他校生部員達はまじまじと見つめる。
そんな視線に慣れている二人は懐かしいと笑いあい、気にもしていなかった。
試合時間になれば整列して、ナルトが助っ人であることを告げれば、知らない者からするとただの人数合わせとしか感じなかった。
休みだと言うのにナルトの試合を見ようと道場に集まり静かにそれを眺め、そこにはシカマルとキバの姿もある。
部員達の試合は五分五分で、ナルトが立ち上がり一礼をしてから場に入ると自分より身長さのある生徒がナルトを見下ろしていた。
「そんなんで試合できるのか?」
『なにが』
「なにがって、ブカブカで足もと大丈夫かっていう優しい心配だよ」
揶揄を含ませた言い方にナルトは動じる事はない。ナルトは相手を見上げた。
『空手ってのは、身長さで勝敗が決まる訳じゃないだろ。』
言い捨ててナルトは瞼を閉じ深呼吸をする。
どくどくする心臓は、怖さか、興奮か
審判である教師が手を翳す。
「両者、構え」
重心を前後3対7の割合で保ち、後ろ足に7の体重をかけ、前足は踵を床につけないでつま先で軽く立つようにした猫足立ちをする生徒に対し
ナルトは猫足立ちから前足を上に持ち上げ1本足で立っている立ち方。
1本足で立っているので安定は悪いが、相手は攻撃がしにくい立ち方であり、相手の攻撃に対して出会い頭の蹴り攻撃も容易で、次の立ち方への転身が自由自在の鷺足立をしていた。
「ーー始め!!」
手が下げられるとナルトの瞳は鋭さを帯びて相手を捉えると、諸岡はぞくりと背中を震わせる。
懐かしいナルトの空気に、ブランクさを感じなかった。二人で毎日のように励んだ鍛錬が思い出される。
激しくぶつかり合い、拳と拳が互いの身体に痣を作り、痛くて翌日に響く事がしょっちゅうあった。
本気になってやりあったり、喧嘩だと勘違いされたこともあった笑える思い出も。
道着の揺れる音すら何かの音にきこえるよう、素早い足技が相手の肘に当たると、顔が少し歪む。
「・・・っ!」
予想だにしてなかったナルトの強さに相手は守りに入ってしまうのは、隙が無く間合いがうまく取れない。
『・・・・・・。』
連突きしてから相手を後ろへ追いやり、蹴りを入れようとすると、間合いを取られ止まったが、すぐにナルトの足が相手の脛に当て転ばせ、腹に拳を寸止めで入れて一本取った。
三分間の組手でも、ナルトの額からは汗が浮かぶ。
見据える瞳は更に鋭さをまし、相手もナルトを見据え足刀蹴りをだし防げば直ぐに脛を狙う。
それをするりと流し相手の隙をついて攻撃するが大きく離れた。
『・・・ちっ』
戻り始まると直ぐに相手はまた脛を狙うが当たらず、膝を腰まで上げて間合いを詰め足ではなく拳の中段突きをして一本取った。
諸岡は場に似合わず一人くすくす笑っていれば、部長が尋ねる。
「何がおかしい?」
「・・・ナルトの奴、相手が脛ばっか狙うから腹立ってんすよ」
「・・・未熟者め」
飽きれる部長だが諸岡からするとナルトらしい、と呟く。延長戦が決まると彼は両手を合わせた。それが何の意味を表しているかは、彼しか知らない。
相手は転ばせようとするが膝がナルトの腹へいくと、手で払い回り込み膝裏を蹴り、バランスを崩して道着を掴まれる。
『あめぇよ・・・』
そのまま相手を倒すと二回腹に拳を入れた。
一分間の延長戦はナルトが制して組手が終わった。
「・・・畜生っ!!」
悔しさから拳を床に打ち付ける相手に、ナルトは声を掛ける。
『足ばっか狙うから逆手に取られんだよ。』
身長が低く体重も軽いナルトは良くそれを狙われていた。だからこそ倒れないように特訓した。
『部長さんよ、あんた諸岡を引き抜くって本当だったのか』
「そうだ。諸岡はここに居ては育たない。」
何だそれ。一度諸岡に視線をむけ戻し、しゃがみ込む。
『それ無理じゃね。あいつ、此処が良くて頑張ってきたんだ。部長に憧れて、その人のもとで空手やりてぇって、空手馬鹿が必死こいて勉強して受かったとこなんだ。』
育たねぇよ。立ち上がるとナルトを呼ぶ声がした。
「ナルト―、お前すげーな!!」
キバが笑顔で告げると、ナルトはきょとんとした顔をするが直ぐに、気恥ずかしそうに笑う。
「・・・ナルト?お前、あの渦巻ナルトか・・・?」
部長の問いかけにナルトは誤魔化すようにヘラりと笑う。
『俺、波風ナルトだから。』
父親の名字を態と告げてそこから去った。
「良く言う。足殺しの渦巻ナルト・・・だろ」
ふっ、と笑いナルトの背中を眺めた。
強い小学生がいる。
あちこちの道場でその話は出て、純日本人の金髪碧眼の少し小さな少年は、大会連覇の実力者でありその身長差と体重差で転ばせようとする者が多かったが、その弱点を克服したのが、足殺し。
倒れないよう鍛え、継ぎ足をさらに鍛え逆手にとるやり方を。相手を追い詰め転ばせ有効を取るやり方。
けれどぱたりと姿を現さなくなり、落胆する者が多かった。自分もその中の一人であり理由を知る者。
「諸岡の為、か・・・」
一人呟いた。
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