NARUTO
苦悩
渦巻ナルトにとって彼の声は、耳に甘い滑らかな響きだった。
滑舌のいいすっきりとした発音は心地良く、ひそめていても良く通る。けれど艶めかしい吐息に混じれば腹の奥をじんわりと熱くするようなものを秘めていた。
そう感じるようになってからというもの、渦巻ナルトの苦悩の日々が続いた。
クラスに着いて友人達と挨拶を交わし席に座ると、ナルトは自分の席でゲーム機を取り出して始める。
『・・・・・・』
大きな瞳は画面を見て、けれど聞こえる耳は色々なおとを拾いピクリと手が震えてしまう。
かたりと前の席から音がして顔を上げると、高校入学当時から友人になった奈良シカマルの姿。
『おはよう、シカマル』
「・・・はよ」
瞳だけ向けて声が返ると彼はそのまま机に突っ伏し、ナルトの表情は陰る。
仲は良かった。けれどそれは進級した時から少しずつ距離が開いていった。
楽しかった思い出が、いつもナルトの頭の中でぐるぐる回る。笑いあい、食事をしたり帰ったり、遊んだり。
シカマルと過ごした楽しい記憶がいつもナルトの頭の中を支配する。
それはナルトが彼に抱いた感情のせいだろう。
異常だといえるその感情に、聡いシカマルは気付き、気持ち悪くなってしまったのだろう。
まだ、言葉を返してくれるだけまし。
目の前にある曲がってる背中を眺め、またゲームを始めた。
昼休みになると、幼馴染である、犬塚キバがクラスにやってきて軽く言葉を交わしたら、寝ているシカマルに声をかける。
「シカマル起きろよー」
「・・・起きてる」
二人のやり取りを一度だけ見て席から立ち上がると、廊下から賑やかな声が近づいて来た。
「ナルトーーッ!!」
『・・・は、ぎゃあっ!!』
確保だ!ナルトに突進してきた生徒にタックルされバランスを崩し、がたがた机が動きシカマルの背中に当たり目を丸くする。
「・・・いっ、て」
『ご、ごめん・・・はな、離せーっ!!』
ぎゅう、と抱きつく生徒の肩をばしばし叩くと、他の生徒が床に正座をしている姿。
「たのむナルト!!」
『・・・何をだよ』
がす、と抱きつく生徒の頭を叩いて引きはがすと、小学時代からの友人である諸岡が両の手を胸の前について頼み込む。
「今週の土曜日練習試合があんだけど、葛西が怪我しちまって、出れなくなったんだ・・・」
『――補欠がいるだろ』
ピクリと一瞬震えた眉。ナルトは普通の言葉を告げるが、諸岡は首を左右に振る。
「補欠じゃダメなんだ・・・」
『俺は部外者だ。てか明日だろうが!』
「頼むナルト!!」
食い下がらない相手にナルトの表情が少し歪む。意地が悪いとかで否定をしている訳ではない。
「お前がそう言いたいのは良く分かってる。分かってるけど・・・っ」
ナルトしかいないんだ。苦しみを浮かべた声は、ただナルトを苦しめる言葉でもあった。
「ただの練習試合と思うだろうけど、どうしても勝たなきゃならない理由があるんだ。」
異様な雰囲気を破る声がナルトの背後からした。
「それ、お前の引き抜きかかってんだよな?」
キバの問いかけに他の部員達が首を縦に振り、諸岡がナルトを見つめる。
「俺、此処にいたいんだ。此処で、部活してたいんだよ!」
引き抜きが諸岡だと知ったナルトの瞳は見開かれ、苦しげな顔をしている彼と視線が重なる。
「頼むナルト・・・助けてくれ」
『――・・・。』
悲しみを滲ませた震えた声は、ナルトの世界を一度暗くさせた。
『・・・勝てば此処に居られるんだな?』
「――ナルト」
安堵の顔を浮かべた諸岡と、困った笑みを浮かべるナルト。けれど忘れてはならないのが、彼は空手部副部長であり、感激屋な事を。
「ナルトーッ!!」
『ギヤァーッ!!』
がしっ、とナルトを正面から抱きしめ感激する諸岡にナルトは叫び、机が大きな音を立てた。
「・・・うるせぇ」
『ご、ごめん、シカマル・・・』
寝起きのシカマルにはただの騒音でしかなくて、眉を下げて謝るが、ズキリと痛む胸。
見下ろす冷たい瞳が嫌で、ナルトは顔を背けた。
「ナルト、道着は葛西のしかないんだ」
『・・・殴ってもいいか。』
ぼかり。言葉とともに出た拳。
此処に入学するのが今の目標だとやる気に満ちた瞳があった。
尊敬する人と共に、大好きな空手がやりたいと、語ってくれた言葉に嘘など無かった。
自分とは違う高みを目指そうとする直向きな姿に、羨ましさを感じた。
きっともし諸岡ではなく、行きたくないと悩む者がいれば、仲間を大切にする彼なら同じ事をしたただろう。
『・・・明日か』
明日は大丈夫だろうか、と少しだけ不安に感じながら、ナルトは窓の外を眺めた。
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