NARUTO
十
ひやりとしたのが額に乗っかって、冷たさに瞼を震わせそろりと開く。
熱で溶けたような瞳で捉えたのは、シカマルの背中。
熱い手を伸ばし、シャツを掴むと肩が揺れ振り向くシカマル。
「・・・起きたか?」
『・・・ん。』
返事をした声すら掠れ、ナルトは額に乗っているタオルを取り、すり寄るように身体を動かし彼の胸に額をくっつける。
「どうした・・・?」
頭を撫でる手と、声は優しく、ナルトの胸はこんな時でも高鳴り口許を笑わせた。
今日だけ。今日だけでいいから。熱が出ると何時もと違う事が出来てしまう事が恐ろしい。
素直になってしまうのが、熱のせいにしてこんな事をしてしまうのが
『・・・無理』
もぞり、布団から出て立ち上がろうとすると眩暈がした。
「何したいんだ?」
『・・・トイレ』
瞳を彷徨わせて呟くとシカマルは立たせてくれる。ふらふらしながらナルトはトイレに向かうと、彼は溜息をついて天井を眺める。
いくら熱だと理解していても、あんな濡れた瞳で見られてしまえばたまったもんじゃない。
熱がでて素直なのはいいが、あまりにもギャップがありすぎる。
「・・・まいったな」
溜息を零して瞼を閉じたが、廊下から何かが落ちた音がしてシカマルははっ、とする。
「ーーナルト?」
倒れたのか。音のした方に足を向ければ、壁に額をつけて身体を支えているナルト。
「なにしてんだ」
『いや・・・喉乾いた、から・・・した』
キッチンに行こうとしたが眩暈には敵うはずも無く、悔しそうに眉を寄せるナルト。
「んなもんあるから戻るぞ」
『・・・ん。んん?』
ひょい、と抱き上げられてナルトは目を丸くさせる。
『やだ、歩ける・・・っ』
「そんなんで良く歩けるとか言えたもんだな」
ぐうの音もでない言葉に返せるものがない。今日は本当にどうかしている。
『・・・覚えてろ』
恥ずかしさから無意識に彼のシャツをにぎった。
虚勢を張ってみてもシカマルにはみえみえで、くすりと笑って、そうか。と返すだけだった。
スポーツドリンクを半分になるまで飲むと、体温を測った。
『・・・買い替えだな、これ。』
「なわけあるか」
取り上げると熱は変わらず、少しでも食べさせようと作った粥をシカマルは持ってきた。
彼の手作りだと分かっているが、食が進まない。折角作ってくれたのに、と感じるナルトはジワリと瞳が滲む。
感情すら脆くなってしまい、嫌になる。
「ナルト」
『・・・ん?』
力なく返事をすると、レンゲが口許にあてられる。まさかと思ってシカマルに視線を向けると、顎を動かして食え、と告げる。
『・・・食べなきゃ、だめ?』
「もう少しな。」
無意識に上目で甘えた声は質が悪い。目を伏して眺めてから粥を食べた。
こんな事はもう、二度と無い事だと思うとやはり涙が零れそうになる。
「――・・・ナルト?」
『・・・・・・』
熱のせいなのか、感情のせいなのか、じわりと浮かんできた涙を見られたくなくてナルトは何もかえさない。
陶器が置かれる音だけが耳に届いて、何かを言わなければと思っても出てこない。
「ナルト・・・お前な」
飽きられてしまっただろうか。きゅ、と瞼を閉じて謝ろうと口を動かしたら頭を撫でられた。
「食えないぐらいで、怒ったりなんかしねえよ」
『・・・っ、ちが、そじゃ、なくて・・・っ』
そんなんじゃない。感情が先走りポタポタ落ちる涙がシーツに染みを作る。
「・・・馬鹿だな、お前」
目尻についている涙を、優しくシカマルの指が拭い覗き込もうとすればそれを避けるようナルトの身体が動く。
『・・・ばか、いうな・・・っ』
震えた鼻声で言い返すが、シカマルはナルトの手を掴み指を絡ませた。
「熱があると、甘えたなのな」
『・・・っ、知らねぇよ・・・っ』
言われた言葉が恥ずかしくて、布団の中に潜りたくて繋がれた手を振りほどこうにも力が無くただ揺れてるだけ。
足の爪先で布団を寄せようとすれば、意地が悪くシカマルがそこに座った。
「逃げ場所、なくなったろ。」
『うー・・・、意地わりぃ・・・』
悔しくも無いのにポタポタ落ちてきた涙が腹正しくて、自分よりも冷たいシカマルの手が気持ち良かった。
空いている彼の手がナルトの額に触れてピクリと肩が震える。
「下がらねぇな」
『・・・やだ』
離れようとする手が嫌で、それを掴み頬にするりとくっつける。
甘えたと言われたばかりなのに、そうしてしまうのは身体が冷たさを求めているから。
『・・・きもちー・・・』
「そうか」
シカマルからすれば顔を上げてそれをして欲しかったが、言ってしまえば離れる事に気付いて好きなようにさせた。
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