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NARUTO


良く晴れた放課後

ナルトはただ黙って目の前に居る女子を眺めていた。

俯き恥じらう姿に、待ってもなかなか言葉が出て来ない女子生徒を和ませようと、少し開いているカバンからある物を取り出した。

『なあ、肝油、たべる?』

「え・・・い、いらない・・・」

『美味いんだぞ、身体にいいし。』

一粒口の中に入れて咀嚼すると、女子生徒は深呼吸をしてから顔を上げた。

「――渦巻君、好きです」

やっぱりこうなるのか。頭の中で呟き、ナルトは相手の視線をそらさず言葉にする。

『・・・気持ちは有り難く受け取る。けどオレは同じ気持ちを篠山さんに返してやれない。ごめんな。』


「・・・・・・っ」

これで泣かれたのは何度目になるんだろう。

ナルトは帰り道を歩きながら考えた。

その言葉にどれだけの勇気を詰め込んで、伝えてくれたか。

どれ程悩んで決めてくれたのか。

だから、ごめん、だけで返すのは相手に申し訳がなくて。

今の自分にも、同じようなものを抱えてしまっているから尚更だった。

とぼとば歩いていると友人の声がする。

「あーっ!ナルトだ!ナルトがいたーっ!」

『・・・は?』

なんだよ。声がした方を見て、ナルトの表情は今の気持ちを消すように軽く笑った。




とあるベンチに女子達の固まりがあった。

しくしく泣く友人を宥めている姿が。

「ほら、泣かない泣かない」

「だっ、だってぇ・・・っ」

先ほどナルトに告白をした可愛らしい女子生徒だった。

「次があるんだから大丈夫だよ!」

「ちがうんだってー・・・」

ちがうの、ハンカチで目元を押さえて肩をひくつかせる。

「もっ、カッコ良すぎて・・・っ」

「「はい?!」」

なにがあった。そんな目で彼女を見れば、深呼吸をした。

「同じ気持ちを私に返せなくてごめんねって・・・カッコ良すぎるよ渦巻君っ!!」

自分の身体を抱き締める姿を見た友人達は、そっちなの?!と突っ込みを入れる。

ただ、もっと気まずいのはその後ろの茂みで昼寝をしていたシカマルだった。

「・・・・・・。」

帰りたいのに帰りにくい状況に、彼はバスケットコートの方へ視線を向けると目を瞠る。

見慣れた姿にシカマルはふっ、と目元を笑わせた。

『邪魔だ村岡ーっ!』

「俺のガードは鉄ぺ・・・ぶへっ!」

両手を大きく広げる友人にたいして、ナルトの脚がもつれてそのままダイブしてしまい、ゲラゲラ笑う友人達。

「どんくせー!ナルトまじどんくさっ!」

「はっ、腹いてーっ!!」

「そっ、れは、おっ、おれだ・・・っ」

『・・・・・・。』

笑う友人達と、ナルトに頭から突っ込まれて腹を痛めた村岡。

ナルトは気にもせず立ち上がりカバンの中から肝油を取り出し食べる。

『村岡、一粒で回復だ!』

「おーっ!これさえ食べれば痛みも消えて体力が回復・・・するかーっ!!」

べしんっ、とナルトの頭を叩く彼にナルトはむう、と唇を尖らせる。

「あの漫画の真似か、真似なんだろ!!」

『お前肝油馬鹿にすんなっ!!』

「滅多にいねーわっ!」

ぎゃいぎゃい騒ぐ二人に、友人達はやはりげらげら笑うばかり。

「ナルトは肝油好きだからなー」

ベンチに座ってシャツを仰ぐと、ナルトは缶を揺らした音が軽いのに気付き中身を見た。

『肝油もうない・・・』

「そこの薬局に売ってんじゃね?」

道路向こうにある薬局には余り行かないナルト。

『いや、何時もの所で買う』

「近いから楽じゃね?」

「あ、あのお兄さんの薬局か!?」

そうそう、と肝油を閉まってお茶を取り出した。

『俺物心つく前からお世話になってんだよ。』

「そんな昔からあったの?」

あったの。頷きナルトは続ける。

『別に拘りとかじゃなくてさ、普通の薬局なら確かにあるけど、あそこは無いんだよ。俺が来る頃にちゃんと必要な個数だけあんの。』

「誰かに買われたら終わりじゃね?」

『無いんだよ。それってちゃんと見てくれてるんだな、って思ってさ。それに好きなんだ、店の雰囲気がさ。

今の薬局に比べたら古臭いって感じる人はいるだろうけど・・・俺、あそこ大好きなんだ。』

年期のある木製の商品棚や、薬品を入れている棚や引き出し。

薬を作るための、古くからある器具や薬本来の香り。

『必要な物だけあって、誰がこの薬を何時も買うとか、ちゃんと分かってくれてて、薬湯も作ってくれんだよ。』

なんか嬉しいじゃん。だから他の薬局にはあまり行かない。

「薬湯って・・・にがくね?」

『苦いけど、効くから平気』

飲んでみる?尋ねれば全員が首を振る。

良薬は苦いものだと思っているナルトは、苦そうな顔をうかべている友人達を呆れ顔で眺めた。

『肝油あっかなー・・・』

立ち上がり背伸びをして思い出す。

『あー、頭痛薬も無かった。』

何せ入っている量が少なく無くなりやすい。

友人達と別れて、ナルトはそのまま薬局へ向かおうと歩き出すと、首がしまった。

『ぐへ・・・っ!』

フェンスにでも引っかかったのか。振り向こうとしたら見慣れた姿にナルトの胸はとくり、と鼓動する。

「古臭い薬局に肝油と頭痛薬でも買いにいくのか?」

『えー・・・聞いちゃいやーん』

引きつりながら笑うナルトに、シカマルは掴んでいた襟首から手を離し額を指で弾いた。

『いっ・・・いてぇ・・・っ』

指で弾かれた額を押さえシカマルを睨み付ける。

「さっきは見事なまでにタックルしてただろ」

『そっからかよっ!』

恥ずかしくなって頭を抱えて俯くと、シカマルは楽しそうにくすくす笑う。

その姿がいつも、綺麗な笑い方をする人だとナルトは感じる。

「だいたい豆であって、肝油じゃね・・・」

『もー喋んないでっ!』

恥ずかしさの限界に達したナルトはシカマルの口を手のひらで塞いだ。

からかわれているのは分かっているが、嫌だと思わなくて、楽しいと感じてしまう。

きっとそれは彼に恋をしてしまったからだろう。

最初は解らなくて、戸惑いもしたがすんなり受け入れる事ができた。

出来たけど、不毛な恋なのだと同時に感じて胸が痛んだのも覚えている。

相手は大人で、ただの弟感覚としか思っていない。けれどそれはそれで良かったと感じるしかなかった。

それだけしかナルトにはないのだから。

「最近また酷いのか?頭痛」

『いや、後一回分しかなくて早めに買おうかと思って。』

棚を見てナルトは思い出し薬を取った。

『最近鼻水出るようになっちゃったんだよね。』

季節の変わり目だからかな。ポケットティッシュではなく、ナルトはボックスティッシュをカバンの中に入れるようになっていた。

「あんまり酷かったらこっち飲むか?」

『あー・・・そうしようかな、熱出ても困るし。』

それは本当に困るもので、彼からすれば不思議だった。

その年代は休める事を喜ぶ者が多いから。

「嬉しくねえの?」

『やだよ。今母ちゃんいないからご飯作らなきゃならないしコンビニまで行かないとならないし・・・』

そうなった時に、親のありがたみを感じてしまう。

独りだと食事すら作れず、食べたい物は買いにいかなければならない。

頭を冷やしてくれるのも、果物を持ってきてくれるのも。

「なら連絡しろ」

『何でわざわざ母ちゃんにすんのさ。』

「俺にだっての」

ほら。携帯を出されるとナルトも取り出し赤外線で交換した。

『連絡ってさ、大学じゃん。』

「だとしてもメール入れとけ 」

アドレス入ってんだろ。告げられて携帯に視線を落とす。

『んー・・・場合によって?』

登録が完了するとポケットに入れて財布を取り出した。

嬉しい言葉ではあったが、熱が出ても彼にメールをいれる事はないだろう。

『これ飲んでたら風邪なんか吹っ飛ぶから大丈夫! 』

「なる時はなるんだから、休んだらちゃんと連絡しろ。」

『大丈夫大丈夫』

へらりと笑って返した。


まさか交換するだなんて思っていなかったナルトは、嬉しいやら複雑やらが入り混じる。


ソファーに座ってナルトは手のひらをじっと眺めた。

『・・・柔らかかった』

ぽつりと呟くと、ナルトの顔は一気に熱を持ち羞恥心がわいてくる。

恥ずかしくなって両手で顔を覆ってソファーに倒れ込んだ。

『なんだよこれ・・・』

こんな事、無かったじゃんよ。

どくどく鼓動する胸

考えただけで顔が熱くなる熱

瞼を閉じれば浮かび上がる姿

『あー・・・駄目だ、ゲームだゲーム!』

考えるものか!勢い良く起き上がってテーブルの上にあるゲーム機を取ると、動きが止まった。

『・・・っ、シールまでもが俺の思考を邪魔するのか』

肝油に貼られたシールが可愛くて、ナルトはゲーム機本体に貼り付けていた。

たかが鹿のシールを見ただけでこうなってしまうなら、次会った時はどうなっているのか怖かった。

きっと普通ではいられない。

『いつも通りでいなきゃ・・・』

それに必ずしも会う訳ではない。

シカクがいるのだから大丈夫だと、ナルトは鼻水を啜りながらゲームをはじめた。





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あきゅろす。
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