NARUTO 八 睫毛についた涙を、赤丸は舌先で舐めた。 心配な鳴き声を聞いて、ナルトは赤丸を抱きしめ顔を埋める。 『やだ、赤丸にあんな部屋・・・絶対にいやだ』 首に手を回して抱き付くナルトの肩にカカシが触れた。 「大丈夫だよ、何も部屋に行かなくても触れた物を持ってきたから」 『・・・入ったんだ?』 ごめんね。カカシの謝罪にナルトは頭が痛くなってくる。 綱手は一度深呼吸をしてからナルトに声をかけた。 「不法侵入の他、何か盗まれたとなれば窃盗、猥褻物陳列、暴漢未遂、ストーカー行為・・・十分過ぎるほどの犯罪をお前はされているんだからね。」 『・・・っ、なんで、それ・・・』 机の上に置かれた物を見てナルトは動揺し、胃からせり上がるものを感じて腹をおさえる。 「カカシが行った時にあったらしい・・・お前、私にこれは言ってなかったんだね。」 何度も捨てた手紙。身体から力が抜けて床に両手をついた。 『・・・っ』 「追い討ちをかけるが、宿にも昨日届いてた。危なかったんだよ、ナルトは。」 なぜここまでされなければならない。 じわりと瞳が潤んだ。 「お前には、お前の仲間はこの里の実力者が揃っているんだ、何も恐れる事は無い。」 『・・・だって・・・っ!』 何処からか木が割れる音がして肩が震えた。 「だっても、へったくりも無いっ!」 居ない筈のサクラの怒鳴り声がして顔を向けると、ナルトの瞳からぼろりと涙が落ちる。 「こんな事してたら何時までたっても・・・っ、あんたが笑えないじゃないの!」 解ってんの!?涙を堪えながらサクラは告げると、ナルトの胸倉を掴む。 「ナルトが、笑えて安心出来る場所ぐらい、私達が作ってやるわよ!」 『サクラちゃん・・・っ』 「こんなに痩せ衰えて・・・馬鹿なんだから」 ナルトの胸元に顔を埋めるサクラを見てから、壊れた衝立の向こうにいる仲間達を見た。 『・・・良く入れたね』 「そこかぁっ!」 黙っていたキバが鋭くツッコミを入れながら頭を叩くと、ナルトは柔らかく笑った。 「だから何時まで経っても馬鹿って言われるのよ、ナルトは。」 「ナルト、困っていれば助けるのが当然だ。何故なら、俺達はナルトの仲間だからだ。」 「それ、ただ単にシノが何故なら、を言いたかったから変えた感じがするが・・・」 「ネジ、正解だ。」 「ナルト君のボディーガードは僕がしますっ!」 「リー、それはシカマルがいるから大丈夫だって・・・」 「じゃあ僕はご飯作るよ、ナルトの栄養が落ちてるからね。」 「糞虫野郎共を見付けたら、殺さない程度で痛めつけておくから安心してね。」 「ナルト君はゆっくり休んでて」 ナルトに言葉を告げると、堪えていたものが一気に溢れてきて自分の身体を抱きしめてうずくまった。 「うすらトンカチ、泣く暇あるならお前はへらへら馬鹿みたいに笑ってろ」 くしゃり、指に髪の毛を絡ませながらサスケは頭を撫で机にある手紙を読む。 『ばかばか言うな・・・』 掠れた涙声で不貞腐れたように返すが、照れ隠しもあった。 「先に赤丸がやってからだ、その後は手分けして潰すぞ。他にも違う事に絡んでる奴もいるだろうから、噂好きの女達にイノ達が探りを入れれば大丈夫だろ。」 「任せてよ!女同士なら出そうだしね」 シカマルが告げ終わるとうずくまったままのナルトの腕を掴んで立たせる。 『あ、りがとう・・・皆、ありがとう』 傷つけてはいけないと、おもった。 何時かは飽きると思っていた物は、終わりなんて無くて広がっただけ。 正しい道を進んでいれば、もっと早く終わっていたのかも知れない。 「にしてもナルトって同性に好かれやすいのかしら?」 休憩所に行ってイノは感じた事を呟く。 「異性から告白は受けていても、こうまでならなかったし・・・不思議よねぇ」 「でもさ、手紙を送りつけた相手はちょっと異常かも・・・」 サクラとテンテンが話していると、賑やかな声が耳に届き視線をむければ、相手は四人に気付くと駆け寄った。 「先輩!渦巻上忍は大丈夫なんですか!?」 「どの・・・大丈夫?」 サクラにはどれが大丈夫なのかが解らず尋ね返すと、怒りをぶつけるようにテーブルを強く叩いた。 「あの女がっ!あの女が渦巻上忍を平手打ちしたんです!」 四人は驚きの眼差しを女達に向ける。 あの女が一体誰で、叩かれた理由が何なのか詳しく聞いた。 「・・・・・・」 くすり、と、ヒナタが無言で笑みを浮かべている姿に視線が集まる。 「・・・ナルト君の柔肌を叩くだなんて許せない」 「ヒッ、ヒナタ!?」 イノは顔を強ばらせながら俯いたままのヒナタに視線を向ければ、ゆっくりと顔が上がり笑みを浮かべていた。 「ずれてる、何かズレてるよヒナタ!」 テンテンが宥めるが、ヒナタはくすくすと黒い笑みを浮かべている。 「・・・でもその子逆に恥かいた羽目になるわね。」 サクラの呟きに頷く女たちだが、イノは不思議に感じていた事を言葉にする。 「・・・でもどうしてナルトは同性に好かれるのかしら?」 「イノ先輩、それは渦巻上忍が綺麗だからですよ!!」 えー、そう?返すと女は興奮したように話始めた。 イノ達からすれば見慣れ過ぎていて普通だと感じるが、周りからすれば容姿が整っている連中だと気付いていない。 場所は変わり、キバ 赤丸 シカマル サスケ シノ達はナルトの自宅前に来ていた。 外からみた感じは変わり無いが、なぜ平日なのに水道管の工事がされていないのか疑問に感じる。 「どうなってんだかなぁ・・・」 どれだけ荒されているのか。キバはナルトが引っ越しを考えた理由がしりたくて。 玄関前に辿りつくと、赤丸がクンクン鼻を鳴らして後ずさるのにキバが気付き顔を歪める。 キバも赤丸ほどではないが嗅覚が鋭く、空気を吸い込んだときに理解した。 「・・・ひでえ」 分かると袖で鼻を塞ぎシカマルがドアノブに手を差し出した時、カチャリと静かなおとがしてそれを引込める。 誰かが侵入しているのは明白だが、業者の可能性もある。けれどカカシからの話を聞く限り後者が入るとは思えない。 ドアがゆっくり開き、静かに待った。 「・・・ナルト君の、ハンカチ・・・」 すんすん匂いを嗅ぎながら頬を染める男の姿を視界に捉えた瞬間、シカマルが相手の顔面を鷲掴む。 「ひっ!?」 ぎりぎり鈍い音を出し、壁に強く押し当てる。 その素早い動きに驚くが、そこまでした理由を知るのは彼だけで、表情は冷眼さを浮かべていた。 「シノ、こいつのチャクラ吸い取ってから綱手様の所に連れてけ」 「ああ、そうしよう。」 両腕の袖から大量に現れた寄壊蟲達。 男は顔を青ざめ身体全体を震わせるが、一斉に取り囲まれてしまった。 室内に入るとリビングはそう荒らされた形跡は無いが、キバと赤丸は臭いが酷くて外で侵入した男を見張って待つ事にした。 ぐるりとリビングを見渡したサスケが口を開く。 「鍵、開きっぱなしだったのか・・・?」 サスケが尤もな言葉を呟き、シカマルは窓を開いてから返す。 「・・・鍵は業者に預けてたらしい」 「ならそれは、業者が犯人である可能性があると言う事か。」 ああ。シノの言葉に頷き青い空を眺めた。 「・・・だからネジ達に行ってもらってる。」 そこから視線を外し、シカマルは寝室の方へと脚を向ける。 予想なんてもうとっくに分かっている事でも、自分の目で確かめたかった。 確かめたかったのと、彼には他に後悔の文字が重たくのし掛かっていたから。 あの時、変わっていたに違いない 異変に気付いた時にもっと、歩み寄っていたら違っていた。 シカマルは少し開いているドアをつま先で押し開いた。 [前へ][次へ] [戻る] |