NARUTO
七
ぽかぽか暖かい。
その温かみをずっと感じていたいと思うが、どうしてか息苦しく身体が重たい感じがして瞼をゆっくり開いた。
『・・・・・・真っ暗』
そして暑苦しい感じと息苦しさ。
どうして腹周りが苦しいのか。
ナルトは寝ぼけている頭で考えると直ぐにはっ、とした。
『・・・っ!』
布団敷いてねえ。布団の中に潜っている事が分かり顔を出すと、ナルトは更に驚く。
『・・・・・・』
自分は夢遊病にでもなったのか。脱力感を抱いたまま眠っているシカマルを見て呟いた。
『・・・馬鹿か、俺』
「潜るの癖か・・・」
『・・・っ!』
びくりと肩を震わせ相手を見れば、ぱっちりと開いている瞼。
ナルトは両手で顔を隠し溜め息をついた。
『んな癖、ねえよ・・・』
あったとしても息苦しさで必ず起きるだろう。けれど此処に来た記憶すら無いナルトからすれば、朝からダブルパンチをくらったのと当然だった。
「クナイなんか持って寝るな」
『俺・・・記憶ねえんだ・・・ごめん。』
うなだれた姿にシカマルは、ああ、と一人納得の声をあげる。
「お前を運んだのは俺だ。」
『・・・は?』
驚きの眼差しを向けるとシカマルは寝ころんだまま頬杖をついた。
「此処にいる限りクナイを持って寝る事は無いし、布団敷くのが面倒だっただけだ。」
『起こせよ、軽々男を持つな!』
「軽かったら関係ねえだろうが・・・」
かぁ、と赤くなった顔はシカマルの返答にショックを受ける。
そんなに軽くなってしまったのだろうか、と。
けれど感じるのは、久し振りにぐっすり眠れたというほど身体が軽くてスッキリしている事。
ナルトは綱手に呼ばれ火影室に続く廊下を歩いていたら、呼び止められた。
「・・・渦巻上忍」
どこか聞き覚えのある声だが、低い感じがして振り向くと視界に何かが映ったすぐに乾いた痛みが頬にはしる。
『・・・は?』
なんで叩かれんの。ナルトは忌々しそうな顔をしているシカマルと一緒にいた女を冷めた目で見下ろした。
「そうやって、そうやってるから噂がでてるのよ・・・っ、シカマルさんにまで、私からシカマルさんを奪って!」
『・・・意味わかんねえんだけど』
女の荒げた怒声に見ていた者すら驚くが、ナルトからすれば全く解らない事でただ静かに耳を傾ける。
「私とシカマルさんの邪魔して、奪って何とぼけた事言ってるのよ!男なら誰でもいいなら他のひとにしてよっ!」
しん、と静まり女の荒い呼吸だけが響くが、すぐに寒々とした空気に包まれた。
『お前、なに勘違いしてんの、邪魔とか奪うとか・・・誰でもいいとか・・・』
ぎりっ、と強く握られた拳。
知らない者からすれば女からシカマルを奪った者と思われてしまうが、そう思う者はそういない。
「女の勘違いって落ちる所までいくと惨めだなぁ・・・」
楽しそうな声でナルトの肩を叩いたのはキバ。
「あのよ、お前ただのお遊びに何マジになってんの?」
「私は違う!私は一度だって思ってなんか・・・っ」
彼女じゃないのか?キバをみるとがしがし頭を撫で回される。
「遊びでいいって言って女気取りは滑稽だ。」
それによ、相手を罵るキバにナルトはただ戸惑った。
「ナルトはシカマルの親友だ。それを奪っただの邪魔しただの・・・馬鹿か、お前」
さめざめとしたキバの雰囲気に、ナルトは驚き咄嗟に服の袖を掴んでしまう。
「・・・どした?」
ナルトに向ける眼差しは優しく、何時もの彼でほっとする。
『あ・・・いや、なんかキバが・・・っ!』
がしり、と頭が誰かに掴まれ言葉を失う。
振り向こうとすると視界が奪われ真っ暗になったまま引きずられるよう歩かされた。
『ちょ、何だってばよ・・・っ!』
「火影室行くんだろ、いってこーい!」
背後から明るい声でキバが言うが、こいつ誰だよ、とナルトは言いたくてたまらない。
『おー、まえっ、だ、れだって・・・ばはぁっ!』
立ち止まろうと力む足がずるりと滑り、ぽすりと支えられる。
キバは二人を見送ると、女の方を向き口を開いた。
「あれがシカマルの答えだ。」
「・・・っ」
「遊びと恋愛を一緒にすんな。」
キバはそう言い捨てて、そこから立ち去った。
ぴたりと止まるとドアが開く音がして、ナルトの身体が勢い良く引かされる。
『ぬぅおっ!!』
ぱっ、と明るくなった視界には綱手とシズネ、ヤマトにナルトの腕を掴んでいるカカシがいた。
振り向く余裕を与えず歩かされ、何だか悪者扱いされている気分になってしまう。
『ばぁちゃん一体なんだって・・・ん?』
視界の片隅に入る大きな衝立に首を傾げると、綱手が言葉にする。
「気にするな、後で私が使うものだから。」
そうなんだ。視線を元に戻すと、綱手は言葉にする。
「ナルト、お前が仲間を頼らない本当の理由はなんだ?」
『・・・・・・』
じっ、とナルトを見る綱手の視線からナルトは俯き視界を暗くした。
『・・・大切だから、じゃない。』
その言葉は周りの者を驚愕させ、ずきりと胸を痛ませる。
『違うんだ、俺にとって皆は、大切よりも・・・宝物だから、それを傷付けられたくなかった。』
「それは俺達だって同じなんだよ、ナルト」
馬鹿だね。カカシはナルトの頭を抱き寄せた。
ナルトは目を伏して自分のつま先をじっと見る。
『分かってたんだ、言ったら匿ってくれるって。でも言えなかった。何処で聞かれて見られてるか解らない現状で、もしサクラちゃん達になにかあったらとか、シカマル達が傷付けられたらとか・・・』
我慢出来なかった。小さな声の呟きにカカシはナルトを包み込んだ。
「こんなに細くなって・・・」
『まあ・・・しゃーないってばよ』
もう止めて。苦笑を浮かべて告げればカカシもくすくす笑って腕を外す。
「だがもう言っていられないのは理解できただろう?」
『・・・誰かだなんて解んねえ』
綱手に返すとナルトの表情は陰る。
「兎に角犯人を探さなきゃならないが、お前に関する噂は早いから、周りが何をしているのか直ぐに広まるだろう。」
そこで、と綱手は言葉を続けドアに視線を向けるとタイミング良く開いた。
「俺と赤丸がいれば家に入った奴は分かるだろ」
『・・・っ』
あの家に入るのか。一瞬にして過ぎった部屋の光景に寒気がする。
寒気がして、肩や喉までもが震え出し俯いた。
『・・・家は、ダメだ、入るな・・・っ』
「お前何言ってんだ?・・・でないと解んねーんじゃ・・・」
キバがのぞき込むと彼が驚き言葉が消える。
ぽたりと床に落ちる水滴は、朝露のようにゆっくりと次の水滴を作っていた。
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