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NARUTO
肩を並べて見たもの

泣きじゃくる子供を抱き締めた。

抱き締めて、頭を撫でてやった。

一人なんかじゃない、今は俺がいるんだよ、って。

そうしたら泣き止んで、笑った。

『母ちゃんも探してるだろうしなー・・・』

動けばすれ違うのは間違い無くて、ナルトは子供を肩車した。

『名前は?俺はナルトな。』

「・・・トウタ」

そっか。ナルトは印を結んで影分身を出した。

子供は驚きの声をあげてきゃらきゃら笑う。

『これで母ちゃん見付かるから安心だろ?』

「お兄ちゃん凄い!」

そうだろそうだろ。得意気に笑って公園に入った。

ナルトは昔に戻ったように、影分身が母親を連れて来るまで遊んだ。

涙を浮かべ子供を強く抱き締める姿をみて、胸が暖かくなって虚しさを感じた。


どんなに成長しようが、心の傷は未だに塞がってなんかいない。

分かっていても心は別物で、何百、何千と願ったものは叶う事なんて無かった。

悲しくて、苦しくて、痛んだ心は塞がらなくてただ広がっていくばかり。

強く抱き締める腕は、己のもの。

涙を拭う指先は、自分の指。

だから、放っては置けなかった。

孤独を知り、悲しみに打ちひしがれる気持ちを知っているから。

今日は小さな良い事をした。

野原に寝転がって空を見上げながらそう思っていると、ナルトは思い出した。

良くシカマルとこうやって眺めていた事を。

何をするでも無くて、ただぼうっと眺めているだけの、ゆったりとした時を。

今では肩を並べて見る事も無くなった。

『成長だねぇ・・・』

里はこんなにものんびりとしているのに。

シカマルは毎日いそがしくしている。

忙しいと暇を望み

暇だと忙しさを望む。

ナルトは軽く笑ってから目を閉じ、流れる水の音を聞いた。

風に乗って香る甘い花の薫りと、草の揺れる小さな音。

どこかで聞こえる誰かの笑い声や物音。

『平和だねえ・・・』

年寄り臭い言い方だ。

意識が遠くなって、ナルトは微睡みの世界へと入っていった。


見慣れた髪色を見掛けて近寄れば、すやすや気持ち良さそうに眠るナルトの姿。

昔は良く肩を並べて空を見てたっけ。

何時も五月蠅いのに、自然を眺めるのが好きだったナルトはこう言う時だけは人が変わったように静かだったのを今でも覚えてる。


くすぐったそうに笑う顔や、気持ち良さそうに泳いでいる鳥を見て微笑んでいる姿。

なのに夜だとそれは悲しみの顔を浮かべていたのは、自分では分かり得ないものがあったから。

当たり前のものが、ナルトには無い。

想像をしたってそう感じるだけで体験なんて出来やしない。

涙を流し、草を強く握り締める姿が今でも離れない。

悲しみや苦しみ、痛みを隠して笑う姿をどれだけ見て来ただろうか。

「・・・変わんねえな」

隣に座り、撫でた頬は相変わらずさわり心地が良くて幼い寝顔。

こんなのんびりな時間はいつ以来だろうか。

ずしりと重たくなった腹部に視線を向けた。

「・・・これもかよ」

くすくす眉を寄せて笑うシカマル。

寝ると必ず腕が巻き付いて離れない、ナルトの眠り癖。

いかないで。ナルトの身体が伝えているようで、シカマルはそのまま身体を倒した。

「そんで次はすり寄って来るんだよな、お前は・・・」

頭に手をやるまえに、シカマルはナルトの髪の毛をゆっくり掻きあげる。


暖かくて、気持ちが良かった。

優しくて、それに包まれているようで。

けど、気付いた頃に現実へと帰る事になるのが嫌だった。

優しい温もりに包まれていたいのに、起きたら思い知らされる現実から逃げていたいと思う時がある。

なのに意識は浮上し始めていく。

『・・・・・・くろ』

寝ぼけ眼で視界に広がった世界。

けれど暖かくて規則正しく上下に動くものに手を伸ばして触れた。

『・・・ガチムニ?』

なにこれ。その正体を知ろうと視線を上へと向けていくと、見慣れた姿に目を丸くする。

『・・・っ、シカマ・・・ッ!』

ぱっ、と口元を抑えたナルト。

彼もまた気持ちよさそうに眠っているのを邪魔したくなくて。

包まれていたのはシカマルの腕

暖かかったのはシカマルの体温

忘れていた。

昔こうなった事が何度もあった事を。

前なら起こす事なんて平気だったのに、どうしてかそれが出来ない。

何故こんなに緊張してしまうのだろうか。

どうして・・・

『・・・・・・。』

ぽすり。シカマルの腹に顎を乗せるナルト。

昔から変わらない優しい温もりに、ナルトの頬が緩む。

手を伸ばし、触れたシカマルの頬は柔らかくて。

『変わんねえのな・・・』

昔のまんま。頭の中で呟くと、急に締め付けられた。

『・・・なんと?』

起こしたか。そろりと彼を見やるとやはり瞼は開き視線が重なる。

ナルトは誤魔化すようへらりと笑った。

「・・・こっちこい」

『・・・は?』

何寝ぼけてんだ。思いながらも胸元近くまで身体をやったら、また強く抱きしめられた。




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あきゅろす。
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