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NARUTO
距離

後の事なんて考えていなかった

今思えば、自分のエゴだったんじゃないかって思う時がある。

本人の意志だったのかと。

本当はこの里に留まる事をしないで、自由を求めていたんじゃないか、とか。


そしてもう、あの頃のようには戻れないと分かった時は、涙が出た。

居るのに、けれどそれはもう違うもので逆再生なんか出来やしない。


『サスケ、もう任務終わったのか?』

「・・・・・・」

戻らない。

会話すら成立しなくなっていた。

戻れない。

あの賑やかだった日常に。

愚か者だと、おもった。

サスケが戻って来て、辛いのは本人で俺はそれを拭えるんじゃないか。

だって仲間だから。

そんなんじゃない。そんな簡単な事じゃない。

あの日から止まった時間はとても長くて、距離ばかりが離れていった。

手を伸ばしても届かない距離で、想いだけが強まって。

今は伸ばせば掴める距離なのに、遠く感じるのは、越す事の出来ない壁があるからだと思う。

踏み込んでも、軽々と跳ね返ってしまう拒絶があるようで。

『・・・長期戦かあ』

言葉が返ってくるのは何時になるんだろう。

「サスケ君とは話すわよ?」

『・・・そうですか。』

サクラの言葉にナルトは鈍器で頭を叩かれたような気分になった。

「あまり続かないけど、どうしたの?」

『いや、なんでもねえよー』

あはは、と笑ったが痛かった。

会話すら成立しない自分は随分とサスケに嫌われたんだと思って。

『シカマルー、髪留め貸して』

「持ち歩けっつってるだろうが。」

ほら。差し出されたヘアピンを受け取り伸びて邪魔になった前髪を横へ流して留めたが、するりと抜ける髪の毛。

「・・・下手くそ」

シカマルの手が伸びて触れる髪の毛。

「ただでさえサラサラしてんだからこれじゃあ意味ねえよ」

『にいさーんっ!!』

ナルトはシカマルの胸元に額を擦り付ける。それを見た周りはくすくす笑う。

「こんな世話焼きいらねえよ・・・っ」

くすくす笑うシカマル。慣れた手付きで髪の毛を弄り出来上がるとスッキリしたものになり、事務仕事をやった。

「あらー、ナルトまたシカマルにやってもらったの?」

『うん。切ろうと思ったら休みだったからさ。』

イノと話していると任務から帰ったサスケが現れた。

『お疲れ、サスケ』

言葉なんて返らないのは分かっていても、掛けずにはいられない。

「サスケ君見てよこれ、ナルトの頭」

シカマルにやってもらったのよ。笑うイノにナルトはただ困った笑みを浮かべる。

『近々切るって・・・』

じゃあな。手を振り詰所を出た。

「・・・サスケ君?」

入ってきたサスケはまた出て行って、イノは首を傾げてた。

指先に当たる冷たい雫。

地面に落ちて吸い付き色を変え、同じ色に染まっていった。

『・・・雨かよ。』

晴れていた空は薄曇りになり、ナルトはうなだれ家路へとつま先を向ける。

どうせ濡れてしまうのだから、急ぐ必要もない。


「・・・ナルト」

耳に届いた声にナルトは身体を震わせ足が止まる。

幻聴だ。サスケな訳がない。

戻ってから名前すら呼ばれなくなった。だから今のは幻聴なんだと。

けれど喜んでいるように動く胸の鼓動はなんなのか、ナルトは振り返ると目を丸くした。

『サ、スケ・・・?』

自分と同じ様に濡れている彼が目の前にいて、ナルトは喉が震える。

すっ、と伸びた手は頭へと向かい、痛みがはしった。

『いっ・・・何やって、いてえよ!』

遠慮なんかみせない手付きにナルトの髪の毛が時々ぷちり、と切れたり引っ張られたりして眉根が寄る。

「気に入らねえ・・・」

呟いた言葉にナルトの頭がかっ、と熱くなった。

『ああそう、それを言いにわざわざ来たってか・・・』

いろいろ考えていたのが馬鹿らしくて自嘲な笑みが浮かんだ。

音を立てて落ちたヘアピンに視線を向けると、肩を押されて壁にあたる。

見上げれば雨に濡れて頬を伝い落ちる雫が艶めいていて、どきりとした。

「・・・軽々と触らせてんじゃねえ」

『は?別に今に始まった事じゃな・・・っ!』


言葉を遮られ重なった唇。

逃げられないよう頭に手を回され、ナルトは驚愕の眼差しをむけていた。

指で顎を引かれ自然と開く口に彼の舌が入り込み、ぞくりと身体が総毛立つ。

『・・・っ、ふ、んっ』

ぬるりと動くそれが違うものに思えて目頭が熱くなり、膜が張る。

離れたくとも強く腰を抱かれ身動きが取れない。

『サ、スケ・・・っ、あ・・・なに・・・っ』

後頭部から項へと下がり、そこを優しく撫でられるのが。

唇が離れると、そのまま抱き締められた。

「・・・触らせんな。」

誰にも。耳元で囁かれ、噛まれる耳朶。

『・・・シカト人間が何言ってんだよ』

ナルトはそれが気に入らなかった。

気に入らなくて、胸が痛んだ。

「昔のままが嫌だっただけだ。お前はそれを重ねてただろ。」


『俺の中ではずっとサスケは仲間だと思ってた。仲間で、ライバルで、大切なそんざいだって。』

誰よりも大切だった。

『・・・けど、それは俺のエゴでしかなくて、サスケは里に残るのを望んでなかったかもって、思った。』

鳥のように自由を求めていたのかもしれない。

サスケの背に手を回し、ナルトは瞼を閉じた。

『思ったさ。昔のように戻れたらって。けどそれは無理なのも解ってた。また、サスケと話したり笑ったり・・・けど・・・っ』

余りにも距離が遠すぎる。

じわりじわりと瞳が濡れて、誤魔化すよう強く服を掴んで深いシワを作った。


馬鹿だな。首筋に触れる唇は優しくて、冷たい雨が二人を濡らしていく。

「お前はそうやって、何時も俺の事だけ考えてればいい。」

血液までも。重なった視線に冷たさはない。

「──・・・俺だけを見てろ」

『・・・なんだよそれ』

なんなんだよそれ。瞳からは涙が流れた。

そんなのまるで

まるで好きだと言っているもんだ。

「そしたら笑ってやる、いくらでも、お前が俺の隣にいるなら。」


素直な瞳からナルトは逸らす事が出来なくて、恥ずかしげに微笑んだ。



数日たってからナルトは思い出しサスケに尋ねた。

『何で毎回無視してたの?』

「・・・・・・」

言葉は返ってこなく、気まずそうな表情を浮かべるサスケ。

ナルトどうしても引っかかっていた。

サスケは膝に肘を乗せ、口元に指をあててナルトを眺めた。

「──・・・抱き締めたくなるから」

真摯な眼差しに嘘など無くて、ナルトの頬は赤らみ身体ごとサスケから逸らす。

そんな理由で俺は悶々と悩んでいたのか。

嬉しいやら複雑やらで、頭の中がぐるぐる回る。

背中にあたる体温に胸がどきりとした。

「・・・そっち向いたらキスできねえ」

『うっ、うるさい・・・っ』

耳まで赤くするナルトがサスケには愉しくて、胸が暖かくなる。

そしてもう一度呼ぶと

「──・・・ナルト」

『・・・っ、ずりぃ・・・』

真っ赤な顔で振り向くのを。

サスケはそれを解っていて微笑んで、口付けを交わし合った。




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あきゅろす。
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