NARUTO
六
シカマルって呼んでみ。
頭の中で木霊する彼の声と表情に、胸が高鳴るのに気付いて押さえた。
「・・・なんなんだ、これ」
強く服を握りしめて俯く。
この良くわからない感情にナルトは戸惑い、悩む日が続いた。
買ったばかりの肝油もカラカラ軽い音を出していて、無くなりそうなのが分かる。
けれど気持ちが乗らない。会うとは限らないのに、躊躇うことが。
「かんゆー・・・」
明日の分がない。
溜息を零してナルトは外に出た。彼は大学生で帰りは遅いと考えて。
避ける事なんか何一つ無いのに、ただ恥ずかしい気持ちがあるだけで。
「何で言っちゃったんだろう・・・」
勢いとかではなくて、ただ自然と出てしまった言葉にナルトは驚いたのを覚えてる。
薬局のドアを握る手が強張り、深呼吸をして開いた。
『シーカークーさーんっ!』
相変わらず人気の無い店内。今のご時世からすれば物騒としか言えない。ナルトは毎回そう感じながらもう一度呼ぼうと口を開く。
『シーカー・・・あぁ?』
カウンターに目をやった時に言葉が止まる。
何時もなら無い肝油が置かれているのに。
『・・・忘れ物?』
その缶には可愛らしい鹿のシールが貼ってあり、くすくす笑った。
『子供の忘れ物?』
しっかし可愛いな。
手に取り眺め、表情が緩むと、かたん、とした音がして顔を上げれば見知らぬ誰かが二人居て驚く。
「肝油の子じゃない・・・?」
「ああ・・・ってそうじゃねえ!」
相手側も驚いたまま呟いて、ナルトは首を傾げる。
『あの、店員さんですか?』
「いや、俺達は怪しいもんじゃねえ!」
『じゃあ強盗?』
慌てる男にナルトは胡乱な眼差しで尋ねる。
もう一人の全身からほのぼのしてしまう男が言葉にした。
「僕達は知り合いだから怪しくないよ。」
『そうですか。あの、シカクさんは?』
シカクの姿が現れなくて尋ねれば、明るい声が耳に届いた。
「なに騒いでんのよ・・・ってお客さんじゃない!シカマル呼んで来るわね!」
綺麗な女性が現れてナルトはどうしてか胸が痛んだ。
「イノ!シカマルに肝油って言えばすっ飛んで来るぞ!」
悪戯な笑みを浮かべ女性に告げると目を瞠り、にやりと笑う。
全くついて行けずにただ眺めるだけのナルト。
「シカマルー!肝油よ、肝油ーっ!」
大きな声で彼を呼ぶ中で、ナルトは商品棚を見ると声をかけられた。
「お前のこれだぞ」
『・・・は?』
鹿のシールが貼ってある肝油に指をさす男。
『だってそれ忘れ物とかじゃ・・・』
「違うよ、イノが楽しんで貼っちゃったんだ。ごめんね。」
『たのしむ?』
意味が解らず肝油を眺めると、また女性の声がする。
「早く来なさいよっ!」
「うっせーな、ガミガミ言うなっつーの」
がりがり頭を掻きながらシカマルが現れた。
「肝油だろ?」
『うん。』
うなずくとやはりそれを手渡された。
「シール貼られちまって悪い。」
『いいよ、可愛いから。』
財布を取り出すナルトはシカマルに尋ねた。
『シカクさんは?』
「親父は薬の納品に行ってる。」
そっか。支払いを済ませて缶を取ると、イノが尋ねた。
「ナルト君、よね?」
『・・・はい。』
微笑を浮かべながらも探るような瞳が嫌だった。
「やーっぱりね、アスマ先生が言ってた通りよ!」
『アスマ先生?』
「この三人もあそこの卒業生なんだよ。」
シカマルが説明するが、ナルトは眉根を寄せる。
あのクマヒゲ何言いやがった。
「近所に目立つ後輩が此処に良く肝油買いに来るって言ってたんだ。」
お前だろ?と犬歯を見せて笑う男。
返ってきた言葉にナルトは安堵した。
以前アスマの前で失態をおかしてしまった事があったから。
しかもアスマだけではなく目の前にいるシカマルもいた。
だからそれじゃなくて安堵したのだった。
『まあ・・・髪の毛目立ちますからね』
自身の毛先に触れると、それに触れる誰かの手。
「でも地毛なんでしょう?綺麗よねぇ・・・」
イノがまじまじ眺めるといきなり近付いてきて後ずさった。
「睫毛ながーい・・・羨ましい!」
「イノはつけまつげだ・・・もがっ!」
黙れ!イノが思い切り肩を叩く。
「キバ、女はツケマツゲばっかりなのよ!」
「・・・ヒナタはそんなもんしてねぇ」
痛む肩を押さえながらキバは眉を寄せる。
「お前はまずそのガミガミ直せっつーの・・・」
あーいてぇ。キバの言葉にイノの目が吊り上がる。
「お前らやるなら外でやれ。」
邪魔くせえ。威圧感を出して言うと二人は静かになる。
「イノ、お前サクラの所行くんじゃなかったのか?」
「あ、そうだった!」
行かなきゃ!イノは慌ただしく中へ入っていった。
『賑やかだね。』
「昔からあぁだから、慣れちまってんだ」
自分の回りも賑やかではあるが、いい具合にバランスが取れているとも感じる。
「チョウジ、予約間に合わなくなるぞ。キバもあんだろ。」
「あ、ほんとだ。」
「チョウジ急ぐぞ!」
じゃあな!と二人は走り出していった。
賑やかさは一気に無くなって、ナルトはもう一度肝油缶を眺める。
『次、いつ納品されるの?』
棚に無かったのに気付いていたナルトは尋ねる。
「いつ無くなりそうなんだ?」
『・・・さあ?』
明日かもね。くすくす笑うと
腹壊すぞ。苦笑されてしまった。
この胸の動きは一体何なのだろう。
痛かったり はやかったり
ナルトは壁に寄り掛かって肝油缶を掲げた。
『・・・バンビはバンビじゃん』
なら頑なに呼べない自分はなんなんだ?
『シカマルに・・・シカマルさん・・・っ』
薬の袋を見ながら呟くと、ナルトは目を丸くして床に倒れ込んだ。
『・・・嘘だろ』
有り得ない。
頬に集まる熱を感じ手の甲を口許にやった。
『なんだそれ・・・っ』
彼の名を呼んだ瞬間、強くうつ胸の鼓動にナルトは驚き頭を抱えた。
『何かの間違いだ・・・間違いなんだ!』
ああー・・・。一人悩むナルトでも、肝油や薬が無くなるのは待ってなどくれない。
次会う時は肝油か薬が無くなった時。
ナルトはどんな反応をするのだろうか。
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