NARUTO
五
なぜ汁粉の話しになるのか。
シカマルはそれを食べていた時の姿が脳裏に焼き付いていたから。
「汁粉なら食えるんだろ?」
『今はいらない・・・食いたくねえ』
食欲が沸かない。
「なら、お前が安心出来るようにしてやる・・・」
してやるから
細くなってしまった肩に顔を埋めてシカマルは言葉を続けた。
「もう一人で泣くな・・・」
『泣いてねえ・・・』
慈しむよう次がれた彼の声に、ナルトの喉が熱くなり腹が震える。
ナルトもまた気付く。
その言葉で身体が安心して、喜んでいるのを。
「一人で抱え込むな・・・」
頭に触れて撫でる手が、今のナルトを眠気へと変えていく。
『も・・・言うな・・・っ』
涙が浮かんできた事に気付かれたくなくて、震える喉をぐっと堪えながら言葉にした。
『なにも・・・すんな・・・』
朦朧と薄れいく意識の中で、ナルトが見たのは誰かの足だった。
がくり、と頭が垂れ下がり全身の力が抜けるのを感じたシカマルは、違う気配に視線を向けた。
「あ・・・っ、シカマルさ・・・っ」
シカマルの隣を歩いていたくの一の姿。
その顔は驚きと戸惑いがあり、涙を浮かべている。
同性同士が向かい合っていなくても、抱き合っている姿は強烈で。
「──・・・なに」
「あの、わっ、私・・・っ」
冷たい声で放たれた言葉と、同じ瞳が女の身体を強張らせた。
「今日はなんだ」
「シカマルさん、私は貴方が好きです。だから私・・・っ」
女の言葉にくすりと笑うシカマル。
「遊びでいいって言ったのアンタだ。俺はそれ以上のモノなんかアンタにはねぇ」
眠ったナルトを抱き上げシカマルは女を見下ろす。
「じゃあ、じゃあ付き合って欲しい、私シカマルさんが好きなの!」
「ねぇって言っただろ。」
涙を流す女を見てもシカマルの表情は変わらない。
どこまでも冷たい彼に女は嗚咽する。
「あんなに、あんなに求めあったのに・・・」
「ただの処理な。」
面倒くせえ。
身体だけの関係でもシカマルはそこに感情が芽生える事は無い。
女はそれを理解していながら望むのだ。
遊びでも彼の隣に立てて、身体を重ねられる喜びに。
だから気付かない。
簡単に捨てられる現実を。
「いや、シカマルさん私・・・っ」
「こいつ起きる」
じゃあな。泣き叫ぶ女の声を背に感じながら室内へ入っていった。
場所は変わりヤマトは火影室へ戻ってきた。
「悪かったね、手伝わせて。」
プギプギ鼻を鳴らしながらトントンは綱手の机の上へ飛び乗る。
「決まりそうですか?」
「まぁ目星は付けたが、根本的な解決にはならないだろう。」
ふう、とため息をだしトントンを膝に乗せる。
「住家が変わろうが被害は変わらないだろう。」
「そのうちナルトが危うくなりますね。」
早く何とかしなければ。
室内に明るい声が入り込んだ。
「いやーナルトの家酷い事になってますね。」
カカシが現れ告げると綱手は眉を寄せる。
「あんなの見たら・・・ナルトだって住みたいとは思いませんよ。」
あーいやだいやだ。
カカシは軽く言いながらも業腹だった。
自分の大切な生徒であり、大切な忘れ形見が苦しめられ、明るく元気な眩しい笑顔が消えてしまっているのが。
「アイツの噂は回るのが早い。行動には気をつけるんだ。」
二人は頷き一瞬で消えた。
温かくて柔らかいものに包まれながら、ナルトは瞼をゆっくり開く。
『──・・・何処』
見知った場所にいたのに、今は殺風景な部屋。
真ん中に置かれた大きなベッドと、サイドに置かれたテーブル。
『・・・シカマルの部屋じゃねえ』
誰の部屋だ。
頭が覚醒しきれないままベッドから下りようと動いたら、ドアが開いた。
「起きたか」
『・・・ここ、何処?』
ベッドサイドに座りシカマルを見上げると、手が伸びて頬に触れた。
「俺の部屋・・・」
『・・・は?全然違う・・・けど?』
部屋を見れば全く違う。
首を傾げれば触れられている頬が軽く抓られた。
『・・・いてぇ』
「部屋は随分前に移動してんだ。あそこはあんまり使ってねぇよ。」
言われた言葉が引っ掛かってナルトは疑問に感じる。
『だってこの前・・・』
「こっちでなんかしたくねえ。」
使い分けている台詞にナルトは呆れうなだれた。
『・・・あぁそう』
頬から手が離れ立ち上がる。
『寝かせるなら此処じゃなくて良かったのに・・・』
二階に運ぶの疲れるだろうと思って告げた言葉だが、シカマルはふっと笑う。
「ぐっすり寝れただろ」
『まあ・・・ありがとう。』
照れ隠しをして礼を告げると、ナルトは窓の外を見て目を丸くする。
『え・・・もう夜になんの?!』
夕暮れの空にナルトはどれだけ寝ていたのか解らない。
ぐっすり寝たのは確かに久し振りですっきりしている身体。
『わりぃ、俺旅篭戻るわ。』
風呂に入りたいし。背伸びをしてからシカマルを見れば手を前に出していた。
『・・・なに?』
「手、寄越せ」
なにさ。手を前に出すと金属の音がした。
『・・・鍵?』
「お前当分此処で暮らせ。」
『お断りします。』
返そうとしたが受け取る様子が無いシカマル。
「旅篭なら金かかるだろ。」
『金なら幾らでもある。シカマルこんな事すんなよ。』
する必要なんて無いし、噂だって流れるのも広まるのも早い。
『家見付けっから大丈夫だって。』
ほら。鍵を受け取りやすいようにするナルトに、彼はその手を掴む。
「旅篭変えたって危ないだけだろうが」
『そこまで入る馬鹿いねぇから』
堂々巡りを繰り返し、シカマルは一度息をはく。
「・・・知らなとここまで無知だとはな・・・」
からかいを含ませた真っ黒な瞳に見下ろされ、細い手首を掴んだ。
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