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NARUTO


ナルトは昔から肝油が好きで、からんからんと小さな音が鳴る缶を眺めた。

『・・・無い。』

じゃあシカクさんの所に行こう。


財布と鍵を持ってナルトは自宅を出たが、どうしてか他に必要な薬とか無いかを確認はしない。


無くなったらそれだけを買う。

薬局が閉まっていても買わせてくれるからだった。


それは両親が親しい間柄であり、幼かったナルトも良く世話になっていたから。


けれどナルトは最近までシカマルの存在を知らずにいた事が、不思議で仕方が無かった。


『シーカークーさーん!』

カウンターに上半身を乗せて奥のドアに向かって声を掛ければ、シカクが現れた。

「今日はなんだ?」

『肝油ー!』

両手を出して返すと、シカクはそれを置く。


『ねーねーシカクさん』


「どうした?」


肝油缶を眺めるナルトをみおろすシカク。

『あのさ、俺この前までお兄さんの事知らなかったっしょ?』


「そう言えばそうだったな・・・」


椅子に座り頬杖をつくシカク。


「まあアイツ昔から頭良すぎて、爺さんの家や寮生活してたからな。」


『そうなんだ。』


「大学はこっちにしたから帰って来たんだ」


へえー 頷きながらナルトは彼を思い出し感心する。


『じゃあ店つぐの?』

「どーだかなぁ、アイツ面倒なの嫌うし。親戚もいるから微妙だ。」


引き出しから袋を取り出し、シカクは薬包紙に包んだ漢方薬を木箱から取る。


「まあ免許さえありゃ生活には困らねぇからな。」


『・・・そんな頭欲しい』

自然とナルトも手伝い始め、薬を袋に入れて糊を付けていった。


『てかこの前の薬湯・・・苦かった』


「良くなったろ?」


『なったなった!お兄さんに感謝!』


嬉しそうに作業をする姿を流し見て、シカクは口角を上げた。

「名前で呼ばねぇのか?」


『・・・だって同じシカマルなんだもん。』


呼べないよ。目を伏せて薬を入れていけば、シカクはくつくつ喉を鳴らして笑う。


「シカマルがシカマルを作ってっし?」


『同じ事言うなよ!』


むう、と頬を膨らませるナルト。


「ナルトのシカマルだもんな?」


『シカクさんっ!』

からかわれてナルトは頬を赤くなり、声が張る。


自分の失態がいくつもあり、言われてしまうと恥ずかしくなってしまう。


作業をしていくと車が止まる音がして、シカクは口を開く。


「帰って来たか」


『帰って来た?』


きょとんとした顔を浮かべると頭を撫でられる。


「ちょっと待ってな」

『?うん』


自宅の中へ入っていったシカク。

ナルトは糊が乾いたのを確認すれば、袋を束ねていく。


『だって・・・俺のシカマルじゃん、これ。』


鹿印を眺めナルトは唇を尖らせる。


シカマルさん。だなんて呼べるか


頭の中で考えながら椅子をゆらゆら揺する。


『でもこれ四角かったらシカクになるんだよな・・・』


それならシカクさんじゃん。

三角マークなら何になるのか。


『シカサンカクじゃん!』


変なの、と一人で笑い肝油缶の蓋を開け中身を口の中へ入れる。

「じゃあシカサンで良くねぇ?」

『・・・っ!』

耳元で囁かれかかる吐息にナルトは全身で驚き振り向く。

悪戯に成功した笑みを浮かばせるシカマルに、ナルトは耳に手を当て肝油を飲み込んだ。


『え、あ・・・お帰り』

「ただいま。詰めてくれてたんだって?」

『買ったついでに』


肝油に指を差すとそれを手に取り眺めるシカマル。


「懐かしいの食ってんのな。」


『美味いから食べ過ぎちゃうけどね』


一日の摂取量を守った事が無いナルトは、減るペースが早い。

「若いのに変わってるよな、漢方だの肝油だのって。」


それを置くとシカマルは詰めて貰った薬を棚に入れていった。

『変わってるってかさ、効き目ある薬を飲むもんじゃん』


「それが苦い粉末や丸薬の漢方ってのがな」


『お兄さん漢方キライ?』


別に。くつくつ笑いながら背を向ける彼をナルトはじっと眺める。


後ろから見ても均等の取れた身体を羨ましいと感じた。


「そうだった、ナルト」


『んー?』


小首を傾げ見上げれば、ふっと笑うシカマル。

「シカマルって呼んでみ?」


『無理。シカマルはこっち。』


袋に指をさせば彼は一枚取り出しナルトに見えるようにした。


「もうマルはねぇよ」

『──・・・ない』


ナルトは袋を眺め、シカマルを上目で見る。

『何で取っちゃったのさ・・・』


「俺がシカマルだから。」


『屁理屈じゃん』

じゃねぇよ。愛着のあった鹿印を見れなくなった事にナルトはショックを受けた。


「無くなったから呼べるだろ?」


『お兄さんでいいじゃん!俺のシカマル奪うとかずりぃ!』


はぁ、溜息をつくシカマル。

その発言をどうにかならないのか。

周りからすれば自分の事を言われているんだと思われるが

なんせ相手は薬袋のイラストとは思わないだろう。


『まあ、誤解されちゃうしなぁ・・・』


名残惜しそうに旧作の袋を眺め指先でなぞる。


ナルトは何故シカマルを名前で呼ばないのか。


呼ばないのではなく、呼べないのだった。


すっと出て来ない。

出て来ないかわりに胸がとくり、と強く鳴るのを知ったから。


『・・・・・・』


ナルトはそのまま手伝って帰る時、肝油缶を眺めてた。


『多分来週には無くなるから。』


「食い過ぎ」


眉を寄せて笑うシカマルを盗み見て、ナルトは缶を揺らす。


『大好きだからね。』

「はいはい。」


まいどあり。ひらひら手を振る彼をナルトは眺め口を開く。

『じゃあね』


手を振り返してナルトは微笑んだ。

『──・・・シカマルさん。』


店から出て自宅へ向かうナルト。


シカマルはと言えば、口元に指をあててくすくす笑ってた。




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