NARUTO
荒れ模様
寒くなると身体は温かさを求めてしまうけれど、この場合は無かったらこうするしか無い訳で
『ヒリヒリするー・・・』
「どうしたの?」
両手で口元を覆っているナルトに、サイが不思議な顔で尋ねれば、手を退かすと現れた真っ赤な唇。
『ヒリヒリすんだってー・・・』
「リップ持ってないの?」
ねぇ。顰めっ面を浮かべてナルトは唇の回りを舐めた。
「ダメだよ、それ。さらに乾燥を促すみたいだから。」
『サイ持ってねぇの?』
僕も無いなぁ。言葉と表情が一致しないサイを流し見て、ナルトは唇を口の中に引き込んで舐める。
乾燥しなければこれでいい。
単純な発想で舐めるがヒリヒリ感は止まらない。
これが通りすぎればカサカサしたものに変わって、ひび割れるのかと思うと嫌になる。
女子みたく常に塗る訳でも無く、荒れたら塗る。
それで充分だと思うが、今の男子も常備している者が多い。
「ナルト、遂に口紅でも付けたのか?」
『荒れてんだっつーの!』
担任のサスケにからかわれてむきになって返すナルト。
真っ赤な口紅を塗っているように見えて、良く目立つ。
「普通持ってるだろうが」
『持ってねぇよ!』
「私の使うー?」
隣に座っている女子がリップを持ってナルトに尋ねれば、どうした事か他の女子達が私のいいよ。と言い出してきた。
「それって明らかにナルトとの間接キスを狙ってるみたいだよね。」
サイの有無を言わせない笑みがその騒ぎを静めた。
「あ、こっそり取り出してるクソヤローもいたね。」
にっこりと笑みを深めるサイに、無害な生徒達すら言い返す事が出来ない。
『サイ変に考えすぎー』
けらけら笑って返すが、サイはその笑みを浮かべたまま言葉にする。
「ほんとナルトって、鈍感に馬鹿が付くくらい可愛いよね。」
『・・・それ貶す言葉だって、知ってっか?』
「鈍感馬鹿ナルトにも解り易い言葉を選んだつもりだよ?」
この笑みでどれだけの人が騙されて、打ちのめされただろうか。
『お前ってほんと・・・黒いよな。』
「いい加減にしろクソガキ共。特にナルトは終わったら来い。」
『えー、なんでー』
ぶーたれるナルトにサスケはぎろりと睨めば、何かを思い出し突っ伏した。
『またかよー・・・』
嫌そうな呟きにナルトはただ顔を顰める。
早めに切り上げて二人は担任室へ向かい、サスケに手渡されたものを見ると、溜息が零れた。
「なんだその進路希望のラーメン屋って」
『・・・ほんとマジで考えつかねぇんだって』
自分が何をしたいのか。
進学か就職か。
何一つ思い付かなくて、ナルトだけが進路希望が決まっていない。
「大学行っとけばある程度の就職口はあるだろうが」
『・・・そうだけど』
俯き用紙を眺めた。
思い付かない。
思い付きたくない。
困らせたくないけど、一緒の時間を少しでも欲しくて。
けどそれを続ければ自分じゃなく彼が周りに言われるのを知ってる。
この気持ちも潮時だと言うのも、分かってる。
『・・・明日まで時間くんね?』
「ラーメン屋の次はうどん屋か?」
皮肉を告げるとナルトは儚い笑みを浮かべていた。
『・・・内緒。』
じゃあね、とナルトは踵を返しドアに手を伸ばしたがブレザーを強く引かれる。
『・・・うおっ!!』
転びそうになったがサスケの胸元でそれを免れ平坦な声が投げつけられる。
「お前・・・何考えてる」
『考えてるって・・・進路の事じゃん』
見上げたサスケの顔は奇妙に平静な表情が、恐ろしかった。
誤魔化すように前を向き視線をさ迷わせるナルトに、少し冷たい彼の指が頬に触れる。
「内緒って事は明日まで時間はいらないだろ」
『・・・っ、気持ちの問題なんだよ!』
手を払いのけてナルトは担任室を後にした。
気持ちの問題。
進路の問題の他にある、サスケに抱いた恋心に蓋をする問題。
ナルトの進む道は就職なんかじゃない。
けれど最後の悪あがきをしたくて、ナルトはいい加減な進路を書いて提出していた。
『・・・っ、くそ・・・』
胸も唇も痛くて、ナルトはしゃがみ込み膝を抱えた。
『どうすりゃいいんだよ・・・っ』
帰ればきっとまた聞かれるであろう言葉。
『もう・・・やだ。』
ぽとり、と床に落ちた涙は弾けて滲んだ。
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