NARUTO
六
中間テストが近いせいか、教科課題のプリントに誰もが溜息をこぼす。
「・・・同位体」
『と思いがちだけど同素体だ。』
わかんねぇ、キバは机に突っ伏した。
先程化学の授業でアスマは課題プリントを渡し、彼はそれを早く終わらそうとナルトを頼る。
『同じ元素の単体で、性質の異なる物質を違いに同素体って言うんだよ。』
「なんでそうなんだよー・・・」
『黒鉛は柔らかいだろ?じゃあダイヤモンドは?』
硬い。ぶーたれた顔を向けるキバ。
ナルトはそれを見てからかいもせず言葉にする。
『そう硬い。お互い性質が違うだろ?』
「だから?」
なによ、と言うがキバは目を丸くしてはっ、となる。
「両方とも炭素単体か!」
『出来たじゃん。』
頭をわしゃわしゃ撫でればキバは照れ笑いを浮かべる。
「俺すげぇっ!」
『なら酸素で出来た同素体は?』
問題をふっかけると、キバは腕を組んで考えるが次第に眉間の皺が増えていく。
『一つは酸素だろ?もう一つは何だ』
「あー・・・オゾン?」
正解。彼はふぅ、と息をはく。
『スコップだ、キバ』
「スコップ?」
いきなりスコップ何か関係あるのか?そう言いたい顔をする。
『琉黄のs炭素のc酸素のoリンのpの四種類だから覚えとけ。』
「ナルトォォーッ!!」
感極まったキバはナルトに勢い良く抱き着く。
それを宥めるようにはいはい、と頭を撫でた。
弟って、こんな感じなのかな。
ナルトは頭の片隅でそう感じた。
『甘栗うまいのに・・・』
ナルトはスーパーへ立ち寄り茶碗蒸しの材料を調達していた。
甘栗・・・ああ、甘栗・・・
後ろ髪を引かれる思いだが、二人分で一瓶は多い。
それから茶碗蒸しに合うよう魚とサラダに使う野菜等を買った。
色々冷凍されてはいるが、それを頼るのは時間が無い時にしようと考えているナルト。
早く帰って作ろうと袋に詰めていると声がかかり、顔を強張らせた。
「ナールート。」
『ーー・・・っ!』
背後からの声がナルトの嫌なものが溢れて来る。
「随分成長したねー、先生驚いちゃった。」
『・・・方向逆じゃねぇの、カカシ先生』
隣に立った男にナルトは平常心を保とうと袋詰めしていく。
「今日こっち安いのよ、お酒」
『へえ、チラシなんて見るんだな。』
興味ねぇけど。詰め終わりカゴを所定の場所へ入れる。
「ねぇナルト、数学は良くなった?」
『それ、あんたが言う台詞じゃねぇだろ、変態教師』
「ひどいねぇ、可愛いと思った生徒には、可愛がるものでしょ?」
変態じゃねぇか!
腹の中は色々な感情が渦巻いて、脂汗がじわりと浮かんでくるのが分かる。
『・・・・・・っ』
店を出てナルトは震える指先を見た。
やっぱり、治ってなんかいない。ただ記憶が奥へ奥へ行っていただけ。
早く家に帰りたくて、足速に歩いた。
帰宅して直ぐに着替えてから夕食の用意をするが、手つきは遅い。
何処か上の空で、何度目か解らない頭を左右に振った。
『・・・ムカつく』
相変わらずマスクをしていても、綺麗な銀髪に大人の色香を持っているカカシ。
性的な事をされていなくても、植え付けられたのは一年半も及んだ。
忘れた頃に、記憶を蘇らせるように現れたカカシ。
嫌で堪らなかった。
「ナルト?」
『・・・っ!あ、お帰り』
ぼうっとしていたせいか、物音に全く気付かず料理も進んでいなかった。
「何か言われたのか」
『な、なにをだよ』
まさかカカシと話しているのを見られたのではないだろうか。
ひゅっとナルトの身体が冷える。
「普通果物包丁で味噌溶かないだろ。」
それくらい様子がおかしいナルト。
誤魔化そうと頭の中でぐるぐる考えても、今のナルトには思い付かない。
『それはその・・・っう!』
「何があったんだ」
顎を捕まれ彼の方へ向かされる。
瞳は鋭く怒りの色が現れナルトの身体を強張らせた。
『だって・・・言ったら・・・っ』
「言ったらなんだ」
『もっと、しそうだから・・・』
目を伏せて長い睫毛が陰影を作り、きゅっと固く唇を閉じる。
「それは数学の点数か」
『・・・・・・。』
反応からして違うが、サスケはもう一つの方だろうと気付く。
「教師と会ったんだな」
『ーー・・・っ』
ぎゅ、と眉根が寄り歯を噛み締めるナルト。
声を出さないようしても、彼にはそれだけで理解が出来た。
「何もされなかったか?」
『・・・っ、うん』
どうも誤魔化すのが上手く出来なくて、隠すのが下手だとナルトは痛感した。
「ならいい、無理して作るな。怪我するだろ」
『・・・ごめん』
顎から手に移り、手の甲に唇を落とされた。
胸がきゅんとしてしまい、ナルトはどうしてか自然と彼の胸元へと身体を寄せた。
「どうしたよ」
『わかんね・・・しらねぇよ』
背に手を回し、ぐりぐり胸元に顔を擦りつけるナルト。
サスケに抱き着きたい、と脳が身体を支配した。
サスケの体温や、規則正しい鼓動の音、香りが今のナルトを落ち着かせてくれる。
『ご飯、作る』
「無理するなっつったろ」
抱き着いたまま気恥ずかしそうな声で言葉にする。
それでも作ると言うナルトだったが、離れようとしない。
「このまま作るつもりか」
『うう・・・っ』
耳まで赤く、どうせ恥ずかしくて動けないだけだろう。
本当に分かりやす過ぎるナルト。
「茶碗蒸し、作るんだろ」
『・・・っ、作ってやるってばぁっ!』
「・・・・・・。」
ナルトは意を決して両手で顔を隠し、彼に見られないよう背を向けた。
行動がいちいち計算されていない素直さで、サスケは微笑を浮かべていた。
「時間無くなるぞ」
『分かってるってば!』
早くおいきなさい!指を後ろに向けて精一杯告げた。
はいはいと言いながらサスケは部屋へ向かう。
『もー・・・何してんだよ俺ぇ・・・っ』
キッチンに両手をついてうなだれる。
なんて恥ずかしい事をしたんだ。ぐるぐる回る。
安心してしまった事も恥ずかしく思えてしまい、自分はどれだけ子供くさいのだろうかと。
彼を前にすると、自分はこんなにも感情のきっぷが激しいとは思っていなかった。
熱くなる頬を数回叩いて、ナルトは遅れた夕食作りに専念した。
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