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月へ唄う運命の唄
不器用に6

少なくとも、スタンを始めとしたパーティの面々にはそう映っただろうその中で、ただ一人を除き。
その一人とは、普段0.1秒にも満たない一瞬の時間、常人の数倍程度に生体電気を増幅し、小刻みに加速する事で驚異的な移動速度を実現し、高速戦闘を行うクノンだ。
以前はいくら速さに特化した戦闘をするバティスタとはいえ、所詮は通常の人間の枠内に納まる速さだった。
ソーディアンにより身体能力が強化されたマスター達やクノンには及ばない筈の速度。
それが、唐突に最大速度のクノンと同等の領域で動いたのだ。
想定外過ぎるその速さを目では追えない。それは奇しくも背中を斬られた時のバティスタと同じ現象だった。

――危ない!

声に出す間もなかった。突然信じられない速さで距離を詰めたバティスタが、半歩前に居たフィリアに向けて爪を振りかぶるのが見えた。
それを見た私は慌てて彼女を突き飛ばし、迫り来る爪を受け流すべく羽姫を抜こうとして――

「あぁああああっっ!!」

――間に合わなかった。

大きく引き裂かれた右肩から勢い良く吹き出す紅い鮮血が、突き飛ばしたフィリアの純白のローブにまで跳ねて赤い染みになる。

「クノンさん!?」

「――こうなるぜ」

一撃を貰った勢いで吹き飛ばされて地面を転がった私に一瞥をくれ、再びフィリアへ向けて振り下ろされる爪。
…けれど今度はそれを完璧に受け止めきった広く大きな背中があった。

「させるか!!」

がっちりとディムロスで競り合う爪を押し返すスタン。

「………っキッサマァアアア!!」

血を流し倒れている私を見たせいか、未だかつて見た事もないような鬼神の如き形相を浮かべたエミリオがその首をハネ飛ばすべくシャルを横薙ぎに振るうも、ディムロスを弾いた勢いを利用しバックステップで距離を離したバティスタには届かずに空を斬る。

「あ…ぁぐ……はァッ」

まるで焼きごてでも当てられたかのような焼けつく痛みに、声を漏らすのを堪えるので精一杯になる。せめてのたうち回らない自分を誉めてやりたい気分だ。

「クノン!今治してあげる!…ヒール!」

距離を離したその隙に慌てて駆け寄ってきたルーティが私を抱き起こすと、流れる血で汚れるのも構わずにそのまま治療を始めてくれる。

「…ぅっ」

「〜〜、結構傷が深いわね。完全に治すには時間がかかるわ」

裂かれた肩を走る痛みが徐々に落ち着いてはくるものの、それでも奥の方ではまだまだ痛みは残っている。おかげで普段その速さゆえに傷を負いにくい私だけど、そのせいかみんなよりも打たれ弱い事を再認識させられる。

「〜、痛ぅ、…ごめん。でも、止血さえ出来ればいいから」

体を支え抱かれていたルーティの腕からなんとか立ち上がる…が、血を流し過ぎたのか、一瞬意識が遠のきかけた私は再び膝をついてしまう。

「バカッ!まだ無理しないで、もう少し待ちなさい!!」

怒られてしまった。
あの動きに対応出来るとしたら私と、その私との訓練で戦闘経験があるエミリオくらいしかいない。現に今辛うじて刃を当てられているのはエミリオだけで、他のみんなは辛うじてバティスタの攻撃を防ぐのに手一杯な状況だ。
…それにしても、多少の時間差はあったにしろあの変化は異常だ。
というより、よく目を凝らして見るとどこか見覚えのある"色"がバティスタの全身を循環しているのが分かる。

「短期間での異様な強化。与えられた力、…グレバムが持つ神の眼。………っ!まさか!!」

――レンズと人の融合。

あの悪魔の技術。あの人と同じ事を、まさかバティスタも?
だとすれば、ソーディアンマスターでもないのにも関わらず発揮しているあの異常な程の身体能力にも納得がいく。
けれどあの異常な強さの理由はわかったものの、どう戦うかが難しい。体を休めつつ戦闘の様子を観察していると、バティスタとエミリオが何やら言い争っているような声が聞こえてきた。


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あきゅろす。
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