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月へ唄う運命の唄
不器用に5

「わかったわかった、照れなさんな。しかし片想いねぇ。告白はしないのかい?」

「こく…っ!!…そんな事、出来ません。私と彼は兄妹で、ともに剣の道を行く客員剣士ですから」

「ほう…"出来ない"、ね。つまりあれか、少年には誰か別の相手が居るから、とかかい?」

びしり、と大事な何かに亀裂が入るような鋭い痛みに、思わず背中を押していた動きが止まる。

「ん…?もしかして図星だったかい?」

地雷だったか、なんて言いながらこちらを振り向こうとするジョニーさんを慌てて止め、三度背中を押し無理矢理歩かせる。何か言わなきゃいけないとは思いつつも、言葉がまるで浮かんでこない。その代わりに心の奥底に沈めた筈の感情が、暗い色を帯びて浮上しようとするのを抑えるのに精一杯だからだ。

「…悪かった。踏み込む距離を見誤った事は詫びよう」

「…いえ、気にして、ませ、ん」

なんだろう、うまく喋れない。声が、ちゃんと出てくれない。一呼吸する度に、心臓が絞られるように息苦しさが増していく。

「本当にすまん。だが、それでいいのかい?…いずれ後悔することになるかも知れないが」

「………」

その覚悟なんて出来ている、だなんて言ったら嘘になるのはわかってる。出来ていないからこそ、今こうして少し突つかれただけでこんなにも苦しいのだから。それでも、

「…もう、決めた事、なんです」

兄妹でいられればいいと。傍に居て二人を守れればと満足だと。だから、

「もう、この、話は終わり…です。急がないと、また、怒られちゃいます」

押していた背中から手を離してジョニーさんを追い越すと、後ろを振り返らずにそう告げて先を歩き出す。少し先ではまた侵入者除けの仕掛けに四苦八苦しているスタン達の姿があった。
…追い付くまでに、ちゃんと"いつも"の仮面を被り直さなきゃ。大丈夫。ちゃんと出来る。私は、剣士なんだから。

「…俺とした事が、迂闊過ぎるな、まったく。…笑わないでくれよ、――」

後ろでジョニーさんが何ごとか呟いていたような気がするけれど、集中していた私にはその音の意味が理解出来なかった。


――暫く後、モリュウ城に仕掛けられた侵入者除けの水圧を利用した仕掛けの数々を攻略し、漸く最上階とおぼしき階層へと到達した。
長い階段を昇りきり、開けた視界の先で座り心地のよさそうな椅子に腰を掛けていたのはバティスタ=ディエゴ。
私達の姿を確認し、不敵な笑みを浮かべた顔の上に、あの悪趣味なティアラは存在していなかった。…不正に取り外そうとすれば致死量の電流が流れる筈のそれをどうやって外したのだろうか。そしてさらに不自然なことに電流に焼かれたような焦げ痕も見受けられず、彼の肌は綺麗なままだ。

「よく来たな」

「フン、まるで一国の主のような態度だな。滑稽だ」

「その通り、これから俺はこの土地を治める代官だ」

エミリオの辛口に対して、まるでそれを意に介さずに一笑に伏すバティスタ。仮にも一度負けた相手らに対して妙に自信ありげな様子に違和感が加速する。

「ティアラは、どうしたの?」

「ケッ、あんなもんひん曲げてぶっ壊してやったさ。女のお前の方が似合うだろうぜ。男が着けるもんじゃねぇ」

ちらりとスタンに視線をやるバティスタ。その色は僅かに哀れみがこもっている気がする。
に、しても…壊した?安全に外したのではなく。つまり故障でもしていなければ、ティアラの電撃を受けて尚、無傷って事?

「不思議そうなツラしてんな、グレバム様に与えられた力を使えば、あんなオモチャなんざ目じゃねぇんだよ」

与えられた、力?
それは何かと問おうとした所で、滑らかな艶のある男声がそれを遮った。

「新しい代官様とやら、フェイトはどこにやった」

一歩進んで割って入ったジョニーさんの目が、静かな怒りに満ちている。一見落ち着いて見えるけれど、全身から発せられる気配は怒気そのものだ。

「知らねぇなぁ、まぁ知ってても教えてやる義理はねぇよ」

「バティスタ、お願いですから、もうこんな事は…」

フィリアの声に、一瞬バティスタの片眉がぴくりと反応する。次いでまるで意図して無視していた相手に強引にとりすがられたかのような嫌悪感をわざとらしい程表情に浮かべ、舌打ちをする。

「チッまだ居やがったのか。グズのフィリアに俺が止められるなら考えてやってもいいが…まぁ不可能だろうがなぁ。怪我しねぇ内にセインガルドへ帰るんだな。…さもなきゃ」

――話しながら武器である鉄爪を腕に装着していたバティスタの姿が、軽い音とともに唐突に消えた。


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