月へ唄う運命の唄 不器用に4 ちなみに今は絶賛戦闘中。隠し扉から侵入し、まずは捕らわれとなっているはずの牢屋を目指し、無事に到着。…が、そこに居たのはフェイトさんの奥方のリアーナさんだけだった。 事情を聞けばフェイトさん本人はバティスタにより別の場所へと移送されてしまったらしい。そこでせめてリアーナさんだけでもと脱出を促してみるが、夫を残してはここを離れるわけにはいかない、と拒否されてしまう。 そこで仕方なく鍵だけを破壊し、彼女を残してフェイトさんを救出するため、居場所を知るであろうバティスタを探し上階を目指している最中なのだが、城の内部は恐らくグレバムが生み出していったのであろう魔物がうろつく魔窟と化していた。 「怒られちゃったので行きますが。大丈夫ですか?」 「ああ問題ないさ、こう見えて多少の護身術は身に付けている」 そういって横合いから噛み千切ろうと飛びかかってきた狼型の魔物の牙をひらりと躱し、手にしていた楽器を叩きつけては数メートル以上も吹っ飛ばす。身のこなしが素人じゃない。そしてそれ以上に。 「……それ(楽器)、何で出来てるんですか?」 「いい男には秘密がつきものさ。いいから行ってきな」 そういう問題なの?という疑問はさておき。では、と一言断りを入れてエミリオ達前衛に追い付くと、そのまま脚力を強化。さらに速度を上げ異様に四肢の発達した巨大な雄牛のような魔物へと突進する。 向かってくる私に気付いた魔物はその筋肉の塊のような太い腕を振り回し、私を文字通り叩き潰そうと何度も地面にクレーターを作るが、その全てを難なく回避し続け、お返しにその腕を斬りつける。 魔物が私に気を取られ追い回していると、突如頭上に展開した闇色の魔方陣から全長十数メートルはあろうかという巨大な槍が出現した。 「囮ご苦労。デモンズランス!!」 エミリオが放つそれはそのまま魔物の頭部に突き刺さると肉体を容易く貫通し串刺しにする。槍が降り下ろされた際の衝撃波は凄まじく、危うく吹き飛ばされそうになった。 「わぷっ、リオン、もうちょっとタイミング考えてよ。危うく私まで巻き添えになるとこ…」 「問題無い。お前には当たらん」 つい、とそっぽを向かれてしまった。あれ、また機嫌悪い? 『坊っちゃん、もしかしてジョニーさんと話してたからって嫉…あぶっ!!』 「黙れっ!!」 がつん、とコアクリスタルに拳一発。何事かを言いかけたシャルを黙らせると、そのまま鞘に収めて先へと歩き出してしまった。 「……?」 なんだかこの間から彼の様子がおかしい気がする。いや思えば随分前から時々変な時はあったのだが、ここ最近は特にそれが顕著だ。 「あらら、もしかしてあの少年、お嬢さんの"コレ"かい?」 「…っ!!!!ち、違います。彼は、私の兄…がわりの人です」 エミリオの妙な態度に首を傾げていれば、背後からいきなり声をかけられて心臓が跳ねる。私に気配を悟らせないって…本当にこの人は。 「といいますか、ジョニーさんって結構意地悪ですね。護身術"程度"の使い手さんなら普通、気付けるんですけど」 「ん〜?いやいや、たまたまさ。考え事をしていたせいじゃないかい?まるで恋する乙女、みたいだったぜ」 「!!…冗談はやめて下さい。…ほら、置いてかれちゃいますよ」 熱くなった頬を見られないようにジョニーさんの背後へと回り、ぐいぐいと背中を押して歩かせる。そんな私に対して彼は妙に楽しげに笑うばかりだ。 「わかったわかった、噂にゃ聞いていたが、噂以上に可愛らしい」 「はい?噂?」 「おっと、まぁあれだ。お嬢さん、あの姫騎士…だろ?さっきの戦闘で見せたあの光る刀。アクアヴェイルの外で刀使いとなれば、セインガルドのイスアード将軍か、ここ数年で人気上昇中の客員剣士のどちらかだ。さらに言えば、その色の変わる右眼と女の子、となると魔剣士とも呼ばれる客員剣士で確定だ」 しまった。エミリオに受け入れて貰った事を始めとして、この世界ではこの眼が原因で異物扱いされるような事もなかったために隠すのをやめていたのが仇になった。 「まぁ、そんな客員剣士御一行がなんでまたこんな所で助っ人なんてしてるのかは気になるが。聞かないでおこう。そちらさんにも事情があるのだろうし、こうして手を貸して貰ってるだけで十分だ」 「すみません、助かります」 「代わりと言っちゃなんだが、やっぱりあの少年を好きなのかい?」 「ぶふうっ!?」 「おいおい、年頃のお嬢さんがはしたない」 「ジョニーさんのせいです!!」 「ははは、正直で可愛いねぇ。その様子だと片想いか」 「………」 あまりにも意地悪なので黙秘権を行使。というかなんでそんな話題になったのだろう。私は再びジョニーさんの背後に回り無言で背中を押す。 [*前へ][次へ#] [戻る] |