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月へ唄う運命の唄
不器用に3

案内された一軒家。壁の一画に仕込まれた仕掛けを操作し、隠し階段を降った先にある秘密の地下室にて会談の場は設けられた。
そこで改めて"助っ人"に関しての説明がある…のかと思えば、ジョニーさんの口から出た言葉は「必要ない」というものだった。
アクアヴェイル三領の内二つを手中に収めた以上、彼の故郷であるシデン領も危険なのではないかと訊ねてみても自分には関係のないことだと一蹴してしまう。
あくまで"自由な道化"であると主張する様子は確かに"どうしようもない道楽者"と言って差し支えないと思う。
けれど、それにしては妙に詳しすぎる。関係ない、知った事ではない、その言葉が事実であるならば、ティベリウス大王の動きなどを逐一把握していたのは不自然に感じる。
そんな中グレバムの居るというトウケイ領へ行くには、現在捕らわれの身であるモリュウの主・フェイトさんの持つ黒十字艦隊が必要になるという情報を貰っている時だった。
どたばたと慌ただしくジョニーさんに駆け寄ってきた男性が、件のフェイトさんの処刑が決まったと報告した。そしてそれを決めたのは。

「バティスタだって!?」

なんと彼はモリュウ制圧と同時期にグレバムにより新代官として推薦され、そのまま就任していたらしい。

「そうかい…」

助けに行きましょう、必死に訴える男性の言葉をやはりジョニーさんは俺には関係ないと振り払い、ついにはそのまま面倒事はごめんだとばかりに部屋を出て行ってしまった。

『一瞬見せたあの表情…気になるわね。彼を追いなさい、クノン』

「え?」

『おそらく彼は動くわ、友人を助けるために』

「でも」

「そうだな…よし、僕達も協力しよう」

「リオン?」

「フェイトの持つという黒十字艦隊…救出の恩を売ればトウケイに辿り着くための足を確保出来るかも知れん」

…なるほど、そういう計算があっての発言、ね。脇で「よし、そうと決まれば追いかけよう!」とか最初から助ける気満々の彼みたいに純粋に…とはいかないよね――と、そういう体を装って建前を確保しなければ動けない辺り、素直じゃないというか回りくどいというか。なんともエミリオらしいくてついつい吹き出してしまいそうになる。

ふぅ、と彼に合わせてわざとらしく溜め息を一つ吐いた私は、ポケットから取り出した物をエミリオに握らせると立ち上がる。

「じゃあ、リオンも頑張ってボートに乗らなきゃね。新しい耳栓、ちゃんと着けないと辛いよ?」

「〜〜、わかっている。というかなんだその顔は。ことあるごとにニヤけるんじゃない」

「なーんでも?ほら急がないと間に合わなくなっちゃう」

「おい、何か余計な深読みなどしているんじゃないだろうな。僕は別に奴が心配だからとか考えてるわけじゃないからな。あくまで利用価値がありそうだから仕方なく手を貸すだけだからな。……、だからニヤけるのをやめんか!」

「はいはいわかってるってば、おにーちゃん」

『これは……確信犯ですね』

『えぇ、確信犯ね』

さて、モリュウ領は通行に水路が多く使われている。陸続きの場所もあるのだが、その場合長い橋によって繋がれた場所にしか行けない。
もしジョニーさんが城へ向かったのだとしたら、四方を深い堀で囲まれている上に現在橋を上げて入り口を閉ざしているためにボートで裏口なりなんなりを探して侵入するしかないと駆け込んできた男性に説明されていた。
こういう防衛拠点としての城の構造も、やはり戦国時代の日本を彷彿とさせる。少なくともセインガルドの城とはまるで違っていた。

――そうして約一時間後。ちょうど隠れ家を出る直前に、城へ向かうジョニーさんを見たという情報を得た私達はそのままボートに飛び乗り、城へ向けて直行。
すると積まれた石垣の一画に何らかの細工がしてあったらしい隠し扉の前で侵入の準備をしていたジョニーさんを発見・強引に同行を決める。

「まったく、こんな押し掛け同然の助っ人は聞いた事ないぜ」

「私も、こんな真面目な道化さんは見た事ありませんよ」

「真面目?俺がかい?」

「えぇ。やっぱり、なんだかんだ言っても貴方はきっと、王族なんですね。それに友達思いのいい人です」

「よせやい、俺は自由な一介の吟遊詩人だ。そんな自由とは正反対な王族だなんて柄じゃあない」

「ふふ、それにしては、ちょっと行動に矛盾が多いですよ?」

悪戯っぽく笑ってみれば、表情にこそ出さないものの目を逸らされる。思い当たる節はあるみたい。

「食えないお嬢さんだ」

「試しに噛んでみますか?」

「和やかに談笑してないで手伝え、馬鹿者っ!!」


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あきゅろす。
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