月へ唄う運命の唄 不器用に2 「あの者達を捕らえよ!」 ――モリュウ領へと入った私達は、まずはと情報収集の為に聞き込みを開始する。色々な人達から話を聞く限り、やはりシデン領で得た情報の通りで穏やかとはいえない状況のようだ。 そうして大王であるティベリウスが港で演説を行うらしいという情報を得た私達は、そこにグレバムが居る事を期待して演説を聴きに来た町人に紛れて潜り込んだのだけれど、ここで誤算が生じる。 どうやら参謀として迎えた際に私達の事を知らされていたらしいティベリウスによって、罪人として追われる事になってしまった。 …その罪状は、窃盗。それもアクアヴェイルに伝わる宝剣のシャルティエを盗んだ者として。シャルが千年前の戦争の後に現在のアクアヴェイルへと渡り宝剣として奉られていた、など私達にとっては寝耳に水だった。 どういう理由かマスターであるエミリオ自身が一番驚いていたくらいで、どうしてシャルがそれを話さなかったのかはわからないけれど、今はそれを確かめている場合ではない。もしここで捕まって拘束されてしまえば、最悪の未来が待っている事は容易に想像がつく。 私達は追手を振り切るために全力での逃亡を余儀なくされていた。 「はぁ、はぁ…くっ」 「くそ、まさかこんな事になるとは計算外だ」 殿を走るエミリオはちらと後ろを見やりつつも愚痴を溢す。 「本当に…!どこか隠れられる場所は…」 と、その時前方を走るスタンの目の前に、やたらと華美な装飾の施された衣装を身に纏う金髪の男性が現れる。港へ向かう直前、広場で弾き語りをしていた人だ。 「こっちだ!!ついてこい!」 スタンは微塵も疑う素振りを見せずに彼に従い走り出す。…無用心な、とは思うけれど、スタンが信用した人なら多分大丈夫な気がする。不思議とそんな気がしてしまうあたり私も人の事は言えないのかも知れないけれど。 そうして街の船着き場付近まで来た私達は、金髪の人の指示通り建物の陰へと隠れ息を潜めた。一人表に残った金髪の人は楽器を構えて仁王立ち。当然追い付いてきた追手に怪しまれていたが、彼らの質問を尽く聞き流した挙げ句、その場で楽器をかき鳴らし歌い始めたものだから、追手は話にならないと諦めて去って行ってしまった。 「なんていう力技…」 正直、私は勿論隣でエミリオも呆れの溜め息を吐いていた。 とりあえずの安全を確保した事を確認し、歌の途中で去ってしまった追手に肩を竦めていた金髪の人の所まで行く。 「どなたかは存じませんが、ありがとうございます。助かりました」 「なぁに、大した事じゃないさ」 前髪をさっと払って白い歯を見せる。物凄い気障な仕草だけど、不思議と嫌悪感はない。 「俺からもお礼を言わせて下さい。ありがとうございます。俺、スタン=エルロンって言います」 笑顔で自己紹介をしたスタンを見て、何を感じたのか金髪の人は一瞬きらりと目を輝かせ(たように見えた)、ふわりと優雅に舞うかのような動きで鮮やかにポーズを決めると、ここぞとばかりに。 「愛と夢の狩人、"道化のジョニー"とは俺の事さ」 じゃん、と弦を鳴らし、いかにもキラーン、とかそういう効果音が聞こえてきそうな程に眩しい笑顔で応える金髪の人改め道化のジョニーさん。…………なんていうか、またキャラの濃い人だなぁ…あのタコの人とはまた違った方向で。 「……うわぁ……」 『気持ちはわかるけれど、声に出てるわよ』 「安心しろ、僕も感想は同じだ」 エミリオもさすがにドン引きらしい。黙っていれば見目麗しい美青年なのに、いい大人がこれっていうのはなんというか凄く残念だ。前言を撤回するようだけれど、何事もやりすぎは良くないといういい例だと思う。 そんなジョニーさんの自己紹介を見てルーティはやっぱり怪しい、と疑いの眼差し。そんな彼女を笑って受け止めながらジョニーさんは話を切り出した。 「ティベリウスとの会話から察するに、お前さん達はよその国からやって来たようだな…国許が送ってきた助っ人、か」 「それではあなたが、シデン領の"若"ですか」 「そんな所だ。だが変だな。確か三人組と聞いていたが…まあいいさ。中に入るとしよう。ここで立ち話して見つかるのもなんだ」 シデン領で一緒に話を聞いていなかったルーティがひたすら話が見えないとごねる中、私達は苦笑いで誤魔化しつつジョニーさんについて一軒の家屋へと足を踏み入れた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |