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月へ唄う運命の唄
熱砂に溶ける氷壁5

――コツコツと、仲間達の足音が神殿内に響き渡る。時折現れる巡回の僧兵をエミリオと手分けして手早く無力化させては大聖堂へと向かう。
…意識を切り替えよう、切り替えようとは思うもののどうしても上手くはいかなくて、今はエミリオの顔を見るのが辛く感じる。下手に自覚しちゃったせいで、"いつもの自分"が思い出せない。多分エミリオも私の様子がおかしいのは気付いてるとは思うけど、時折心配そうな視線を寄越すだけで深くは訊いてこない。…今はその心遣いがありがたい。

そうこうしている内にやがて、大きな美しいステンドグラスに彩られた広間へ出た。

「此処が大聖堂?本当に地下へ通じているの?」

「調べてみます。私に任せて下さい」

フィリアが祭壇とおぼしき場所で何かの装置を作動させると、大聖堂の床が円形に沈み、暗く地下へと伸びる階段が姿を現した。

「さすがフィリア。よく仕掛けがわかったね」

「幸い、セインガルドのものと同じ仕掛けでしたから」

成る程、それなら納得。…ていうか、神の眼を封印するためだったセインガルドの神殿はともかく、ここは何のために隠し通路なんか作ったんだろ…?
そんな疑問もふと浮かんだけれど、とにかく私達は視界の悪い足元に注意しつつも先を急ぐことにした。


――「グレバム、もうやめなさい!」

フィリアの、必死に懇願するかのような悲痛な叫びが隠し通路を抜けた先にあった地下室いっぱいに響く。その声に振り向いた厳めしい顔つきの壮年の男性は表情を不快に歪めると、巨大なレンズを背にこちらへと向き直った。…どうやらあれが神の眼らしく、その禍々しい気配に寒気を覚える。覚悟していなければ気圧されてしまいそうだ。

「誰に向かってそんな口を利く。偉くなったものだなフィリア!」

「もはやお前に逃げ場はない、覚悟しろ」

シャルを鞘から抜き放ち切っ先を向けるエミリオ。それに倣うように隣で私も無言のまま姫を手に、刀身を創り身構える。

「そのソーディアン……貴様、リオン=マグナスか!!その横に居るのはクノンだな。貴様らが私を追って来るとは……"そういう事"か。全て飲み込めたぞ」

「お前、何を言っている?」

一人で何かに納得した様子のグレバムに訝るエミリオ。

「何に納得したのか知らないけれど、あなたの後ろにあるソレは返して貰います」

「フン、小娘が。所詮貴様もリオンも人形、神の眼を持つ私に恐れるものはない。好きにやらせて貰おう…出でよバジリスク、まずは貴様ら全員血祭りに上げてやろう!」

その言葉に呼応するかのように神の眼が凄まじい光を放つ。やがて光が収まり開けていられなかった目を開けると、そこには地下室を埋め尽くさんばかりの夥しい数の魔物が溢れかえっていた。
その種はバジリスク。その体液には浴びたものを石化させる力を持つ魔物である。

「――ひっ」

魔物と目が合ったらしいフィリアはその場で腰を抜かしたようにふらついた。…成る程、こいつがフィリアを石化させた犯人か。

「ちっ、目眩ましの隙を突いて逃げられたか」

苛立ちを隠さないエミリオの声にグレバムが立っていた場所を見るともぬけの殻。神の眼の気配もどんどん遠ざかっている。

「今ならまだ間に合う、急いで追いかけなくちゃ!」

しかし、こうも四方八方と魔物に囲まれていては追跡もままならない。まずは道を確保しなければならないし、万が一この魔物達が地上に出ようものならば待っているのは無防備な一般人を襲う地獄絵図だ。

「〜〜〜っ!もう!!リオン、スタン、マリー、まずは出口までの道を拓いて!!ルーティはフィリアを支えて三人についていって」

飛び掛かってくるバジリスク達を一匹、また一匹と退けつつも指示を飛ばす。単体を相手にしていては埒があかない。

「クノン、お前はどうするつもりだ!?」

「ちょっと大きいので一網打尽にする!リオンは私が合図したら、私に向けて滅焼闇を撃って」

「…は?」

「いいからっ!!」

思わず硬直しかけたエミリオの背中を叩いて促すと、手を後頭部に回して髪留めに触れる。

「"空舞"!!」

髪留めに描かれていた羽根が光ると、クノンの背に生える一対の白い翼となってその華奢な身体を宙に浮かせる。
そのまま地下室を時計回りに一周しながら呪符を壁に貼り付けると、部屋の中央・空中で制止する。

「――、リオンっ!!」

「どうなっても知らんぞ、浄破滅焼闇っ!!」

クノンが呪符を貼り付ける間に出口まで退避していたリオンから闇の炎がクノン目掛けて飛んで行く。それを紫桜姫の刀身で受け止めると、そのまま炎を振り払うように勢いよく真下へと振り下ろした。


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