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夜空を纏う銀月の舞
はらり、ひらり。4

――、

――……、〜〜…、

――ユカリっ!

「ぅ……うん…」

「ユカリっ、よかった!目が覚めたのね?」

「あ、あれ?リアラ……?」

がばりと抱きついてきたリアラを受け止めながら、ふと顔に違和感を感じてぺたぺたと触る。

「あ、仮面っ!」

仮面がない。慌てて周囲を見れば、軽く涙目になっているフィオと目が合った。彼女の手には私の仮面が握られており、彼女はそれを持ったまま縦にすると、その手を勢いよく振り上げて思いっきり私の頭にスコーンッ!!と激突させる。

「ふんぎゃっ!?〜〜〜…っ!?……い、痛いじゃないバカっ!」

「バカはユカリさまの方ですっ!!無茶し過ぎです!!死んじゃったらどうするつもりだったんですかっ!」

わぁあん、と声を上げながらリアラの上から半分被さるようにして私に抱きついてくるフィオ。

「あ、う…えっと、相手は骨っこだし、手加減してくれてたし……そもそも死なないように対人戦になったわけだし……」

二人の様子に戸惑い、しどろもどろになりながらもきょろきょろと辺りを見回す。
幸い、医務室には彼女らの他に誰も居ないようだった。

「ユカリは馬鹿よ、朝起きたら何処にも居ないし、手紙には"闘技場行く"としか書いてないし…まさか参加してるなんて思わなかった」

……そういえば参加するとまでは書いてなかったかも。

「探しに来てくれたんだ。…心配させて、ごめんね」

「ほんとにもう…。あんなに傷だらけになって……、一応、痕に残らないようには治したつもりだけど」

確かに、あれだけ痛んでいた傷が痛くない。試しに巻かれていた腕の包帯を取ってみれば、綺麗になくなっていた。
血の滲んで汚れていたそれを丸めて、脇のテーブルへと置いておく。

「ありがと…相変わらずリアラの治癒術は凄いね」

「ううん、そんな事ない。それにいくらわたしが凄かったとしたって、死んじゃったら治せないのよ?」

「あう、ご、ごめんってば」

顔を上げて詰め寄るリアラ。ぷう、と頬を膨らませて、鼻先数センチの距離から睨まれた。
こんな時になんだけど、こういう表情のリアラは珍しくて、なんだか可愛かった。

「もう、反省してる?」

「ふにゅっ!?ふぃ、ひてまふ、ひへまぷっ」

いつかのように頬を両手で押さえられ、ひよこみたいになった口からどうにか肯定の返事をすると、彼女は「それならいいけど」と手を放してくれた。

「もしもーし、リアラ、入ってもいい?」

…と、医務室の外で扉を叩くカイルの声が聞こえてくる。
リアラが私を見て大丈夫?と確認してくれたので、少し待って貰う。一度彼らに見せているとはいえ、まだ抵抗のある素顔を隠すようにフィオから仮面を受けとり装着する。……リアラの前ではあまり抵抗ないんだけど、どうしてだろう。同性だからかな?

「お待たせ、どうぞ」

促せば、カイルと何故か不機嫌そうなロニが静かに入って来た。

「目が覚めてたんだね。大丈夫?」

「うん。リアラのおかげで、ばっちり。……で、なんでロニは怒ってるの?」

「あぁ?……あぁいや悪い、お前に怒ってるわけじゃねぇんだ。ただジューダスの野郎、やり過ぎだろってよ」

「やり過ぎ?なにが?」

きょとんとして首を傾げてしまう。何がやり過ぎなんだろうか。

「いやな、言っちゃ悪いが、お前とあいつの実力差は俺らから見ても瞭然だった。なのに延々と一時間近くも嬲るように格下の女を傷付けやがってよ」

……へぇ、私、一時間近くも戦ってたんだ。もっと短いと思ってたんだけど……そんなに、持ちこたえたんだ。

「おい、何笑ってんだよ?」

「ん。……ちょっと、驚いて」

「はぁ?怒ってねぇの?あんだけ好き放題斬られまくって、遊ばれてたのに」

「全然」

「そういえばユカリ、聞いてもいい?」

「なに?」

拍子抜けしたように戸惑うロニを押し退けながら、割って入って来たカイルは服装の違いや魔法…巫術を何故使わなかったのかについて訊いてきた。
確かに、彼との戦いを見ていたのなら気になるだろう。そもそも私のいつものポジションは後衛・砲撃役なのだから。
そしてそれはリアラも気になっていたようで、私が半身を起こしたベッドの上、くっつくようにして座りながらもじっと見つめてくる。

「魔法を使わなかったのは…うん、修行のため。服装は単純に、いつものだと動きにくかったから」

「修行?」

「そう、修行。もっと強くなりたかっただけ」

「んじゃあ何か?ジューダスの野郎は、お前を虐めてたんじゃなくて、稽古を付けてただけって言うのかよ?」

「…どうだろう。でも、そうじゃないかなって思う。私の悪手に対してのカウンターだけ、容赦なかったから」

それを聞いたロニは「かぁ〜〜っ!」と妙な声を上げながら、自らの額をぺちんと叩いて顔を覆った。……なに?そのリアクション。
カイルに顔を向けて指差し問うてみれば、彼は苦笑いしながら。

「ちょっと勘違いしちゃって…ロニ、ジューダスと喧嘩しちゃったんだ」

と。

なるほど、骨っこが私に対して弱い者虐めしてるみたいに見えたわけね。……ある意味では正解かも知れないけど、それはそれで改めてすっごいへこむ。
でも、ロニはロニで私を案じて怒ってくれたんだね。その気持ちは、正直嬉しい。……嬉しい、んだけど、やっぱりへこむなぁ。だってそれは、彼の中で私はまだ背中を預ける"仲間"ではなく、保護するべき"女の子"止まりって事でもあるから。

「怒ってくれてありがと、ロニ。…でも、後でちゃんと骨っこと仲直りしてね」

「わぁってるよ。…あぁクッソ、恥ずかしい野郎じゃねぇか、これじゃ」

「そうでもないよ、そういう気遣い、気持ちとしては嬉しいから。そういう真っ直ぐな優しさは、ロニのいいところ」

とはいえ。私の中のちっぽけなプライドとはまた別の話。彼のいいところとして素直に誉めてみれば、彼は照れたのか少し頬を染めて「う〜るせぇよ」と背中を向けてしまった。

「あら、ロニってば照れてるの?」

「可愛いとこあるじゃないですかぁ〜…この、この」

私の隣で、口元を隠しながらくすくすとリアラが笑う。フィオはロニの背中を肘で突っつきながらニヤニヤとからかって、照れ隠しの拳骨を脳天に頂戴していた。カイルはそれを見て明るい笑い声を上げる。

……あったかい、私の仲間達。
彼らを守る力が、私は欲しい。
彼らの笑顔を守る、強さが。
……彼の隣に立てるだけの、強さが。


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