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夜空を纏う銀月の舞
ソロモンには届かない9

「それにしても凄いね、君!あれだけの大怪我を、あっという間に治しちゃうなんてさ!」

一方、ユカリとジューダスが微妙な空気に包まれている頃、治療が一段落したところで気が抜けてへたり込んでいたカイルはワンピースへの少女へと称賛の言葉を贈っていた。

「……凄くなんか、ないわ。フィリアさんを巻き込んでしまった上に、助ける事も出来なかった……。守るために戦ってくれた魔女さん達にも、大怪我を負わせてしまったし」

「で、でも!君が居たから怪我を治せたんだよ!そんなに落ち込む事ないって!」

「ダメ……やっぱりダメなの。わたしの力じゃ、人ひとりも守れない。こんな力じゃ……」

懸命に励まそうというカイルの声は、しかし少女には届いていない。想定外の事態が起きてしまった事で、彼女も混乱してしまっているのだろう。"英雄を狙ってやって来た"バルバトスの襲撃までもが、己の責任であると誤認してしまう程に。
狙われていたのが少女自身であるならば話は違うが、どちらかといえば巻き込まれたのは少女の方なのだから。
そんな少女に対して、カイルはふと思い出したようにこう語りかけ始めた。

「……あのさ、オレの母さんが言ってたんだけどさ。"反省はするべきだけど、後悔はしなくてもいい"って。……反省は未来に繋がるけど、後悔は過去に縛られてるだけなんだってさ」

「……?」

「だから、その、えっと……君さ、ずっと後悔してるみたいだから。それって、良くないよって……」

「その人の言う通りですよ」

しどろもどろになるカイルの言葉を受けて、静かに目を覚ましたフィリアが肯定の言葉をかける。ゆっくりと身を起こすと、彼女は自身の体験を語り出した。

「大司祭様が神の眼を奪う事に加担し、世界を混乱に陥れました。しかも、それを知らずに、私もそれを手伝ってしまっていました。……その事を知った私は、それまでの自分を後悔し、ただ、泣いていました。そんな私に、スタンさんは"泣いてるだけじゃダメだ"と言って、手を差し伸べてくれたんです。……後悔は、何も生み出さない。その事を、あの人が教えてくれたから……今の私が、あるんです」

そこまで語ったフィリアは、ふうと一呼吸の間を置いた。俯いて自らの殻に閉じ籠りかけていた少女は、フィリアの言葉からその意味を汲み取ろうと、いつしか真剣に彼女に顔を向けて聞き入っている。
そしてそれは父親の名を出されたカイル、そしてスタンを恩人・父親がわりとして育ったロニも同様であった。いつの間にか四人の側の壁に寄り掛かって様子を見守っていたジューダス、フィオの治療を終えた事でフィリアの様子を見に来たユカリもまた、語られる情感の籠る声に口を挟まずにいる。
そんな彼らに一通り視線を巡らせ、そしてまた目の前の少女に視線を戻したフィリアは再び言葉を紡ぎだす。ほんの少しだけ、申し訳なさそうに。

「残念ながら、英雄に会うための術は私にもわかりません。ですが、あなたに必要なものなら、わかります」

「必要なもの……?それは、なんですか?」

「仲間です。私にとっての、スタンさんやルーティさんのような人達です。彼らは、自分でさえ信じられなかった私の力を、信じてくれた……。そしてその中でもクノンさんは、その力を引き出す手伝いを親身になってしてくれた……。だから、私も前に進めた。……そんな人達が、あなたにも必要だと思うんです」

そう言葉を締め括ったフィリアは、「仲間……」と胸に手を当て呟く少女を真っ直ぐに見つめる。彼女はそこに何を思うのか。それを見守るかのように、優しく、温かく。
やがて目を伏せて考え込んだ少女を見かねたように、一際明るい声を上げた少年が居た。
カイルである。彼は自身が出した声に驚き目を丸くしている少女に向かって右手を差し出すと、朗らかに笑いかけた。

「オレが、君の仲間になる!ずっとず〜〜っと、一緒に居る!決めた!!一緒に居ればオレが英雄だって事、君にもきっとわかるしね!」

――それは遠い遠い運命の始まったあの日。かつて栄華を極めたあの国の、あの場所で。無垢な太陽に光を照らされた月の姿と重なった。

笑顔で明るく手を差し伸べるカイルと、驚き惑う少女を眺める者の中。その内の何人かの胸に、ふと切なさが込み上げてゆく。今はもう戻らぬ時間に、想いを馳せるかのような……微かな痛み。それぞれが、それぞれ誰にも気付かれぬようそっと、僅かな反応を示す。

「フィ、フィリアさん、私……」

「答えは、もう出ているのでしょう?……なら、あとは何をするべきか。わかっている筈ですよ」

フィリアに背中を押された少女は再びカイルへと向き直り、

「……わたしと、一緒に来てくれますか?」

「もちろん!聞くまでもないことさ!!」

「ありがとう……」

ふわりと、安堵の微笑みを浮かべた。
そんな中、カイルはふと思い出したように困ったような顔をすると、少女の名を問う。確かに、「いつまでも君」では不便だ。

「リアラ」

「リアラか……改めてよろしく、リアラ!」

「うん!よろしくね、カイル!」

そうして、リアラと名乗った少女は差し出されていたカイルの手を取った。……少しだけ恥ずかしそうに、遠慮がちなやわらかさで。


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