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短編小説
恋愛交響曲
お前が好きだったこの曲は、俺が一番最初に覚えた曲だったな。
今じゃもう当時ほど上手くは弾けないけど、一生忘れることのない

俺たちのラブソングだ…。

彼女と出会ったのはいつ頃だっただろうか。
気がつけばいつもお前のことばかり気にしていた。
お前のことばかり眼で追っている自分がいた。
どんな人ごみの中であろうと、お前だけは一瞬にして見つけられる、そんな自信さえあった。

だが、今となってはそんな自信、何の役にも立たない。

3年前、彼女こと俺の幼馴染で恋人の本宮梨香は
この世を後にしたのだから…



―その日は朝から大雨が降っていた。どす黒い雲が空を覆い、今にも嵐が起こりそうな奇妙な静けさが漂っているそんな中、あの事故は起こったのだ。
都内交差点での自家用車と大型トラックの衝突事故。
ハンドル操作を誤ったトラックが、突然彼女の乗った車に突っ込んできてしまい、二台とも横転。梨香は即死に近い状態で近くの大型病院に運び込まれた。

俺がその事実を知ったのはその日の昼間、ちょうど昼休みを終え、会社に戻ろうと食堂から出た時のことだった。めずらしく高校時代からの友人から着信があったのだ。何事かと思い、電話に出ると相手は声を荒げてこう言った。

『泉崎君!!梨香が、梨香が大変なの!!今すぐ○○交差点の近くの大型病院へ行って!!』

いきなりのことすぎて何が何だか全く分からなかったが、変な胸騒ぎがジワジワと俺を蝕んでいく。

「わかった、連絡ありがとな…」

そう言った俺の声は小刻みに震え、掠れていた。


部長にに一言告げ、会社からすぐにタクシーを拾い、都内で一番大きい森園病院へと急ぐ。
大きく森園総合病院≠ニ書かれた看板のある正面玄関に到着し、猛ダッシュで梨香の病室へと向かう。

先程ナースセンターで聞いた、302号室に入ったと同時に俺は愕然とした。

彼女の両親と、中学2年に上がったばかりの弟が一つのベッドを囲むように立ち尽くしている。そして、その真ん中には…


顔にまっさらな白い布をかぶった俺の愛しき人が、安
らかに眠っていた。


「………!!」
声が出せず、足の震えが止まらない。全身の血の気がスゥッと引いていくのが自分にもわかる。

(…夢だ、俺は今悪い夢を見てるんだ…違いない…
だってそんなのって、あまりにも残酷すぎるじゃねーか…早く、早く冷めてくれ)

俺は一心不乱に彼女が眠る病室から離れようと、震えた足を前へ前へ踏み出す。
病院から歩いて20分ほどのところにある自宅マンションへ急いで駆け込む。玄関を閉め、ショックのあまりその場に崩れ落ちる。

知りたくもないのに知ってしまった…
人を…いや、愛する人を失う絶望感、失ったものの重さ、重さ、大切さ…
そして、それを知ってしまった後のやりきれなさを…。―


あれ以来、幼少の頃から習っていたピアノに全く触れていない。部屋の片隅に置いてあるアップライトピアノにはうっすら埃が積もっており、哀愁が漂う。そんなピアノを横目に、俺はそっと彼女が優しく微笑んでいる写真をなでた。

「梨香が死んでから、もう3年になるのか…
なんかあっという間に過ぎちまったな」

あの日、梨香がこの世を去った日に俺は彼女のことで、もう泣かないと心に決めた。なぜなら、俺がいつまでも女々しくうじうじしていたりしたら、姉貴気質のあいつが安心して成仏できなくなってしまうかもしれないから。
もちろん悲しくないわけではない。でも、彼女に悲しい顔はさせたくない。だからそう誓った。

梨香のことを思い返したからだろうか、俺はなんだか無性にピアノに触れたくなった。
いや、数か月前の俺だったら、たとえ思い返したとしてもそんなこと思わない。ピアノの前に座るだけでもあの時の喪失感を思い出し、悲しみに打ちひしがれていることしかできなかったであろう。でも今は違う。自分の中の何かが確実に成長を遂げようとしているのが分かる。
久しぶりに蓋をあけ、恐る恐る鍵盤に触れる。
最初は一音一音おぼつかない指取りでどこかぎこちなかったが、次第にそれが旋律を奏で始める。

Nocturne, op. 9-2
(ノクターン 作品9の2)

日本語では夜想曲≠ニいう意味のあるこの曲は、ショパンの代表曲のうちのひとつであり、和声的な低音部の伴奏にのって、高音部が夢見るような旋律を優雅に奏でる手法が印象的なクラッシック。

彼女が一番好きだった曲だったので俺はこの曲だけは完璧に暗譜してある。俺のお気に入りの一曲。

たんだ。」曲も終盤になり、フィナーレを迎える。そんなとき、まるで俺が弾き終えるのを待っていたかのようにインターフォンが鳴った。

「…誰だ?新聞の勧誘かなんかかな?」

何気なく玄関モニターを覗く。するとそこには珍しい客人が立っていた。
急いで玄関に向かい、扉を開ける。

「久しぶりだね、耕平君」
「おぅ、数年ぶりだな、浩太」

彼は梨香の弟の本宮浩太。今は県内の有名な進学校の高校2年生だ。
俺と浩太は本当の兄弟のように仲が良かった。昔はよく俺達と梨香と3人で遊んだものだ。しかし梨香が亡くなったあの日見かけた以来、彼と会うのは初めてになる。
浩太を部屋に招きいれ軽く昔話に花を咲かせていると、浩太は突然話を切り替えてきた。

「あのさ、今日はこれを耕平君に渡そうと思って来

そう言いながら彼は一通の手紙を俺へ差し出した。真っ白な封筒にまぎれもなく梨香の字で耕平へ≠ニ書かれている。

「…梨香から、俺への手紙…?」

当り前の質問を、誰にするでもなくつぶやく。

「うん、そうみたいなんだ。先週、久しぶりに姉ちゃんの部屋掃除したら、机の引出しの奥にあって…」

そう言いながら浩太は申し訳なさそうにうつむく。

「ごめん!!もっと早くに見つけて耕平君に渡すべきだったよな…ホント、ごめん!!」

何度も必死に謝る彼から、俺は手紙を受け取り笑顔を作る。

「ううん、謝らないでくれよ。
見つけてくれてありがとな!」
「耕平君…」
「だから、そんな顔すんなって!!」

彼の顔は今にも泣きだしそうだった。きっとあの時感じた絶望感がフラッシュバックしてしまったのだろうか、彼の瞳に涙がうっすら滲んでいる。
俺はまるで子供をあやすように優しく語りかけた。

「なぁ、浩太。確かに何年経とうと梨香の死は辛いと思う。それは俺も同じだ。

でもな、浩太がそんな悲しそうな顔してたら、きっと梨香まで悲しくなっちまうと思うぜ?

だからさ、後ろばっか振り返ってねーで、前向いて笑顔で歩いて行こーぜ♪」

浩太は一瞬驚いたように俺の顔を見上げた。だが、見る見るうちにその表情が微笑みに変わる。

「う、うん!そうだよな!!ありがと」

そう言って彼はこの部屋を後にした。その後ろ姿はなんだか堂々としているように思えた。

俺が浩太に言った言葉…
それは以前、いつまでも悲しみに打ちひしがれている自分自身に向けて、何度も何度も言い聞かせた言葉だった。毎日のように繰り返し繰り返し、ただひたすらに唱えていた。

エントランスまで彼を見送ってから、さっきもらった手紙を手に取る。まだ未開封のその手紙は、なんだかとても儚く今にも粉々になってしまいそうに思えてならなかった。
意を決して開封を試みる。手は震え、緊張のあまり心臓はバクバクだ。

手紙には彼女特有の丸っこくて可愛らしい字が所狭しと並んでいた。

【耕平へ

本当は口で伝えるべきなんだろうけど、なんか直接言うのと照れくさいから手紙で伝えることにするね。
耕平鈍そうだから単刀直入に書きます!

私と結婚してください!!

こういうのって男から言いたい言葉かもしれないけど、自分からプロポーズするのって私の夢なの(^^)
耕平も言いたかったかもしれないけど、先に言ったもん勝ちよ♪
それとね、もうちょっとこのプロポーズをロマンティックに演出するために、こんなもの用意しました。
今すぐ一緒に入ってるMD聴いて!!

梨香より♪】

読み終え、同封されていた黄緑色のMDを早速プレイヤーにセットし、再生ボタンを押す。

すると、少し経ってからピアノの旋律が響いてきた。

「…!!この曲……」

スピーカーから流れてきたのは少しぎこちない
ノクターン 作品9の2
俺ら二人の好きな曲。
思えば梨香も俺がピアノを習い始めてすぐの時に、同じ教室でピアノを習っていたことがある。しかし、あまり上達しないことに癇癪を起し半年くらいでやめてしまった。
多分あれから数十年、俺の知る限りはピアノに触れていなかったと思う。なのに自力でここまで仕上げるなんて、よほど俺にばれないように陰で練習したに違いない。俺は素直に彼女の頑張りが嬉しかった。

演奏中に梨香との思い出の数々が走馬灯のように脳内を駆け巡る。もちろん、あの事故も…。
しかし涙は出てこなかった。それはそのことが吹っ切れたからじゃない。梨香のことをなんとも思わなくなったからでもない。

おそらく、俺自身が強くなれたんだと思う。

曲も終り、MDを取り出そうとしたとき、

《…耕平!私の演奏、どうだった?》

ふと聞き慣れた彼女の声がした。
慌ててあたりを見回すも、その姿はない。

「梨香…あいつ、MDに自分の声吹き込んでたのか…」

一人でそう納得し、小鳥のさえずりのような綺麗なソプラノボイスに耳を傾ける。

《耕平に比べたら全然へたくそだけど、私も結構上達したでしょ?》

そう言って得意げに笑う彼女の姿が目に浮かぶ。

「うん、かなり上達したね」

彼女に答えるように静かにつぶやく。

『良かった…練習した甲斐があったよ』

またも彼女の声が聴こえる。しかし、それはスピーカーからのものではない。不思議に思い後ろを振り返って俺は驚いた。

「梨香!?」

そこには、俺の愛しき人が…

「お前…何で?」

俺は振り絞るように声を出した。それは恐怖からではない。あまりにも嬉しすぎて、今にも涙があふれそうだったから。

『驚かせちゃってごめん。私、どうしても耕平と話がしたくて。』
「話?」
『うん。どうしても、聞いてほしいの。』

そう言って梨香は微笑んだ。

彼女はまず、この手紙だけ残して逝ってしまったことを俺に謝った。

『ホント、こんな無責任な告白しちゃってごめんなさい。こんなの、耕平を困らせちゃうだけなのに…』
「謝んなよ!!俺は嬉しいぜ?だって梨香からこんな風に演奏付きでプロポーズしてもらえたんだしさ。」

言いながら梨香に笑いかけようとする。しかし、涙をこらえるのに必死で、うまく笑えない。
そんな俺を梨香は優しく抱きしめてくれた。しかし感覚などない。なんせ彼女は霊なのだから。しかし、確かに彼女の温もりは伝わってきた。

『ねぇ、耕平?私は確かにアンタが悲しむ顔は見たくない。でもね、無理してまでも笑顔を作る必要なんてないのよ?泣きたいときは素直に泣けばいいじゃない。
耕平は耕平らしくいて…』

徐々に彼女の体は薄れていく。俺の頬から一滴の涙がこぼれる。

『そろそろ逝かなきゃならないわ。
私なんかより断然いい女見つけて、幸せになってね!!』

その言葉とともに彼女は逝ってしまった。

「待てよ!!梨香!!一人にしないでくれ!!梨香ー!!」

俺は精一杯彼女の名を叫んだ。

「梨香…」

自分の耳にも届くか届かないかくらいの小さな声でぼそりとつぶやいた。胸にぽっかりと穴が空いたような、そんな虚しさだけが残る。
ふと、再生しっぱなしのMDから声が聴こえてきた。

《耕平はひとりじゃないよ…。
ちゃんと私が見守っててあげる。
だから心配しないで!!》



それから数日後、俺は梨香のくれたMDを聴きながら手紙を書くことにした。

【梨香へ

お前が好きだったこの曲は、俺が一番最初に覚えた曲だったな。
今じゃもう当時ほど上手くは弾けないけど、一生忘れることのない

俺たちのラブソングだ…。

なーんて、ちょっとクサいかな(^^;)

もしまたこの曲を弾く時、お前は俺のそばで聴いていてくれるだろう。
俺のそばで微笑んでいてくれるだろう。
ずっと、見守り続けてくれるだろう…。

梨香、お前は最後に私より断然いい女見つけて幸せになれって言ったけど、それは無理だ。
お前よりいい女なんかいねーよw
お前と出会えて良かった。

愛してくれて、ありがとう…。

耕平より】「…誰だ?新聞の勧誘かなんかかな?」

何気なく玄関モニターを覗く。するとそこには珍しい客人が立っていた。
急いで玄関に向かい、扉を開ける。

「久しぶりだね、耕平君」
「おぅ、数年ぶりだな、浩太」

彼は梨香の弟の本宮浩太。今は県内の有名な進学校の高校2年生だ。
俺と浩太は本当の兄弟のように仲が良かった。昔はよく俺達と梨香と3人で遊んだものだ。しかし梨香が亡くなったあの日見かけた以来、彼と会うのは初めてになる。
浩太を部屋に招きいれ軽く昔話に花を咲かせていると、浩太は突然話を切り替えてきた。

「あのさ、今日はこれを耕平君に渡そうと思って来

そう言いながら彼は一通の手紙を俺へ差し出した。真っ白な封筒にまぎれもなく梨香の字で耕平へ≠ニ書かれている。

「…梨香から、俺への手紙…?」

当り前の質問を、誰にするでもなくつぶやく。

「うん、そうみたいなんだ。先週、久しぶりに姉ちゃんの部屋掃除したら、机の引出しの奥にあって…」

そう言いながら浩太は申し訳なさそうにうつむく。

「ごめん!!もっと早くに見つけて耕平君に渡すべきだったよな…ホント、ごめん!!」

何度も必死に謝る彼から、俺は手紙を受け取り笑顔を作る。

「ううん、謝らないでくれよ。
見つけてくれてありがとな!」
「耕平君…」
「だから、そんな顔すんなって!!」

彼の顔は今にも泣きだしそうだった。きっとあの時感じた絶望感がフラッシュバックしてしまったのだろうか、彼の瞳に涙がうっすら滲んでいる。
俺はまるで子供をあやすように優しく語りかけた。

「なぁ、浩太。確かに何年経とうと梨香の死は辛いと思う。それは俺も同じだ。

でもな、浩太がそんな悲しそうな顔してたら、きっと梨香まで悲しくなっちまうと思うぜ?

だからさ、後ろばっか振り返ってねーで、前向いて笑顔で歩いて行こーぜ♪」

浩太は一瞬驚いたように俺の顔を見上げた。だが、見る見るうちにその表情が微笑みに変わる。

「う、うん!そうだよな!!ありがと」

そう言って彼はこの部屋を後にした。その後ろ姿はなんだか堂々としているように思えた。

俺が浩太に言った言葉…
それは以前、いつまでも悲しみに打ちひしがれている自分自身に向けて、何度も何度も言い聞かせた言葉だった。毎日のように繰り返し繰り返し、ただひたすらに唱えていた。

エントランスまで彼を見送ってから、さっきもらった手紙を手に取る。まだ未開封のその手紙は、なんだかとても儚く今にも粉々になってしまいそうに思えてならなかった。
意を決して開封を試みる。手は震え、緊張のあまり心臓はバクバクだ。

手紙には彼女特有の丸っこくて可愛らしい字が所狭しと並んでいた。
【耕平へ

本当は口で伝えるべきなんだろうけど、なんか直接言うのと照れくさいから手紙で伝えることにするね。
耕平鈍そうだから単刀直入に書きます!

私と結婚してください!!

こういうのって男から言いたい言葉かもしれないけど、自分からプロポーズするのって私の夢なの(^^)
耕平も言いたかったかもしれないけど、先に言ったもん勝ちよ♪
それとね、もうちょっとこのプロポーズをロマンティックに演出するために、こんなもの用意しました。
今すぐ一緒に入ってるMD聴いて!!

梨香より♪】

読み終え、同封されていた黄緑色のMDを早速プレイヤーにセットし、再生ボタンを押す。

すると、少し経ってからピアノの旋律が響いてきた。

「…!!この曲……」

スピーカーから流れてきたのは少しぎこちない
ノクターン 作品9の2
俺ら二人の好きな曲。
思えば梨香も俺がピアノを習い始めてすぐの時に、同じ教室でピアノを習っていたことがある。しかし、あまり上達しないことに癇癪を起し半年くらいでやめてしまった。
多分あれから数十年、俺の知る限りはピアノに触れていなかったと思う。なのに自力でここまで仕上げるなんて、よほど俺にばれないように陰で練習したに違いない。俺は素直に彼女の頑張りが嬉しかった。

演奏中に梨香との思い出の数々が走馬灯のように脳内を駆け巡る。もちろん、あの事故も…。
しかし涙は出てこなかった。それはそのことが吹っ切れたからじゃない。梨香のことをなんとも思わなくなったからでもない。

おそらく、俺自身が強くなれたんだと思う。

曲も終り、MDを取り出そうとしたとき、

《…耕平!私の演奏、どうだった?》

ふと聞き慣れた彼女の声がした。
慌ててあたりを見回すも、その姿はない。

「梨香…あいつ、MDに自分の声吹き込んでたのか…」

一人でそう納得し、小鳥のさえずりのような綺麗なソプラノボイスに耳を傾ける。

《耕平に比べたら全然へたくそだけど、私も結構上達したでしょ?》

そう言って得意げに笑う彼女の姿が目に浮かぶ。

「うん、かなり上達したね」

彼女に答えるように静かにつぶやく。

『良かった…練習した甲斐があったよ』

またも彼女の声が聴こえる。しかし、それはスピーカーからのものではない。不思議に思い後ろを振り返って俺は驚いた。

「梨香!?」

そこには、俺の愛しき人が…

「お前…何で?」

俺は振り絞るように声を出した。それは恐怖からではない。あまりにも嬉しすぎて、今にも涙があふれそうだったから。

『驚かせちゃってごめん。私、どうしても耕平と話がしたくて。』
「話?」
『うん。どうしても、聞いてほしいの。』

そう言って梨香は微笑んだ。

彼女はまず、この手紙だけ残して逝ってしまったことを俺に謝った。

『ホント、こんな無責任な告白しちゃってごめんなさい。こんなの、耕平を困らせちゃうだけなのに…』
「謝んなよ!!俺は嬉しいぜ?だって梨香からこんな風に演奏付きでプロポーズしてもらえたんだしさ。」

言いながら梨香に笑いかけようとする。しかし、涙をこらえるのに必死で、うまく笑えない。
そんな俺を梨香は優しく抱きしめてくれた。しかし感覚などない。なんせ彼女は霊なのだから。しかし、確かに彼女の温もりは伝わってきた。

『ねぇ、耕平?私は確かにアンタが悲しむ顔は見たくない。でもね、無理してまでも笑顔を作る必要なんてないのよ?泣きたいときは素直に泣けばいいじゃない。
耕平は耕平らしくいて…』

徐々に彼女の体は薄れていく。俺の頬から一滴の涙がこぼれる。

『そろそろ逝かなきゃならないわ。
私なんかより断然いい女見つけて、幸せになってね!!』

その言葉とともに彼女は逝ってしまった。

「待てよ!!梨香!!一人にしないでくれ!!梨香ー!!」

俺は精一杯彼女の名を叫んだ。

「梨香…」

自分の耳にも届くか届かないかくらいの小さな声でぼそりとつぶやいた。胸にぽっかりと穴が空いたような、そんな虚しさだけが残る。
ふと、再生しっぱなしのMDから声が聴こえてきた。

《耕平はひとりじゃないよ…。
ちゃんと私が見守っててあげる。
だから心配しないで!!》



それから数日後、俺は梨香のくれたMDを聴きながら手紙を書くことにした。

【梨香へ

お前が好きだったこの曲は、俺が一番最初に覚えた曲だったな。
今じゃもう当時ほど上手くは弾けないけど、一生忘れることのない

俺たちのラブソングだ…。

なーんて、ちょっとクサいかな(^^;)

もしまたこの曲を弾く時、お前は俺のそばで聴いていてくれるだろう。
俺のそばで微笑んでいてくれるだろう。
ずっと、見守り続けてくれるだろう…。

梨香、お前は最後に私より断然いい女見つけて幸せになれって言ったけど、それは無理だ。
お前よりいい女なんかいねーよw
お前と出会えて良かった。

愛してくれて、ありがとう…。

耕平より】

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