真皇帝物語 4 恐るべき地獄耳にシアも蒼鳥も警戒を強めた。二人の間でしか聞きとれないくらいの音をどうやって聞きとったのだろうか。いやそれよりも、つい最近こんなやりとりをしたことがある気がする。 猜疑心の塊となった二人に構うことなく、団長らしき女性は淡々と言い継ぐ。 「そこの喋る鳥、女性のエスコートの仕方を勉強した方がいいわ。それから見知らぬ少年、女性の顔をじろじろ見るなんて失礼よ」 言われてシアはハッとし、慌てて目を逸らした。 「あ…ああ、悪かった。どこかで会ったことがあるような気がして…」 「古臭い口説き文句ね。あなたかなり可愛いけど、それだけじゃ私は落ちないわよ」 「なっ……違…」 「はーいはいそこまでっ」 手を叩いたアルベラが仲裁に入る。顔を朱に染めたシアは、そのまま押し黙ってしまった。 「まったく、のっけからややこしくしないでちょうだい。ともかく、ちょっと団長に話があんのよ」 「…話?」 「そ。ヴィオの初任務の結果報告を、ね」 アルベラがちらと視線を向けた先では、表情を堅くしたヴィオが拳を握りしめていた。覚悟を決めると言っていただけあって、なかなかいい面構えだ。 団長はおもむろにテーブルの上から紅茶の入ったカップを取り上げ、一口飲んだ。空いている方の手をくいくいと動かし、話せ、と合図を出す。 「…アタシが見届け人としてヴィオに付き添った結果、彼は見事に目標をうち倒したわ。でも、完全に一人で倒すという訳にはいかなかった」 「…あなたの手を煩わせたの?」 静かな声音でアルベラに問いかけるが、鋭い視線だけは瞬時にヴィオを射抜く。ヴィオは目を逸らすことなく、それを真っ直ぐ受けとめた。 その表情を横目にしたアルベラは薄く笑い、団長の言葉を静かに否定する。 「…いいえ。アタシはこの子が目標にとどめを刺した後、足掻いた目標を黙らせたに過ぎないわ。命も危なかったし、そういう場合は助太刀の許可が下りるでしょ?」 「…そうね。続けて」 「問題はボーヤがとどめを刺す前。確実に仕留められる一撃をボーヤが放ったと同時に、目標が想定外の魔術を発動、そのせいで目標は一命を取り留めた。その後、両者が再び切り結ぼうとした矢先に、この子、ティオガルシアが目標を攻撃。私はこれらの場面を目撃した訳じゃないけど、第三者の証言は取れてるわ」 「…第三者は?」 短く聞かれ、アルベラはシアの肩を指し示す。 「そこの喋る小鳥」 「…貴様、我の名を忘れたとでもいうのか」 「喋る小鳥さん、お名前は?」 団長が尋ねると、蒼鳥は誇らしげに答えた。 「レイゼノーガだ。そして、今の我の姿は偽りのもの。断じて喋る小鳥などではない」 「では本性を見せてくれるかしら。あなたが知性ある生き物だという目視可能な証拠が欲しいの」 蒼鳥は快く了承した。おそらく『知性ある生き物』という言葉を『聡明な生き物』という意味に勝手に解釈したのだろう。 蒼鳥はテーブルに飛び移ると、翼を広げた。その身体の周りで粒子のような光が渦を巻き、たちどころに竜身へと変化する。 それを目の当たりにした団長は眉一つ動かさなかったが、一言だけ感想を述べた。 「…可愛いわ」 蒼竜が額にしわを刻んだ。 「………貴様は我を馬鹿にしているのか」 「馬鹿ね。褒めてるんじゃない」 「やはり馬鹿にしてい…むぶっ」 蒼竜の怒声が途中で遮られる。アルベラが蒼竜の口を指で挟んだのだ。 むぐむぐ言いつつ指を外そうともがく蒼竜だが、上手くいくはずもなく地団駄を踏む。 「悪いけどちょっと黙っててもらえるー? それで団長、これで理解してもらえたかしら」 「そうね。諸悪の根源はその子、ティオガルシアということで良かったかしら」 「そういうことになるわね」 [*前へ][次へ#] [戻る] |