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真皇帝物語
4

「〜ぅあっくしゅ!」

外見と絶対結びつかない盛大なくしゃみが夜空に響き渡る。
くしゃみをした勢いのまま繰り出された拳に不運にも当たってしまった野盗は、彼方へとふっ飛ばされて木に激突し、そのままのびてしまった。

「…やーね、風邪かしら」

軽く鼻をすすって呟いたアルベラは、残りの野盗に目を向ける。
彼の想像以上にわらわらと出てきた野盗達は、今や片手で数えられるほどの数になってしまった。残っている者も次々に倒されていく仲間を見てほとんど戦意を喪失している。
それならば別にわざわざ手を下す必要はないのだが、アルベラはそんなに甘くはなかった。

「さて、と。あんた達、覚悟してね。一人でも逃がしてボーヤの邪魔なんてされたらアタシが団長に怒られんのよ」

不敵な笑みと共に告げられた台詞に恐怖した野盗達は、口々に悲鳴をあげてまろぶように逃げ出す。しかし、獲物を捉えた猛獣、もといアルベラから逃げられるはずはなかった。
ある者は蹴り飛ばされ、またある者は拳で地に臥され、逃げることは夢にも叶わず散っていく。

「あんたで…最後っ!」

体重を乗せた正拳突きが逃げ惑う野盗の後頭部に命中する。いっそ哀れみたくなるほどの悲痛な呻きを漏らし、野盗は地に臥したまま動かなくなった。
涼しい表情で手を払ったアルベラは、明後日の方角に目を向ける。

「あとはあっちね…。あのボーヤのことだから死んではいないと思うけど」

なにせ団長直々に剣の教えを受けたのだ。そこいらの小悪党では相手にならないだろう。
とはいえ、ここの野盗団頭目は『そこいらの小悪党』には全然当てはまらないが。

「もう倒してたら褒めてあげて、苦戦してたら遠くからからかってやりましょっ」

軽く笑い、腕に巻きついた布片をたなびかせてアルベラは一人駆けていった。




暑い。汗が後から後から流れ落ち、時たま目に滲みて視界が閉ざされる。
攻撃の手を緩めて目を擦った少年の耳に、空気を裂くような鋭い音が届く。咄嗟に後ろへ飛びすさると、今の今までいた場所に重い一撃が叩き込まれた。

「戦ってる最中に目ぇつぶるなんざぁ、随分と余裕だなぁぼうず」

「……誰のせいだよ」

小さく呟いた少年は、汗で滑りやすくなった剣の柄をしっかりと握り直す。

(あのでかい剣、なんとかなんねーか…)

隙をみて斬撃や突き入れを仕掛けても、あの大剣が盾代わりとなって攻撃が入らない。更に、あの男自身も意外に俊敏な動きを見せるため、全くといっていいほど傷をつけられないのだ。
それに加えてこちらは大剣の一撃を喰らった瞬間に敗北が確定する。攻撃範囲も広いため、避けるのにも一苦労だ。このままでは先にこちらの体力が尽きて終わる。

(リーチも力も敵わねぇ…だったら…!)

ぐっと姿勢を低くした少年は、一度剣を納めた。
頭目はぴくりと片眉を吊り上げたが、ニィと嗤っておもしれぇと呟く。

「来いぼうず。俺に一発かましてみろ!」

その言葉を聞いた瞬間、少年は疾風のように駆け出した。
頭目は右手に持った大剣を下から振り上げるように薙ぎ払うが、少年は左前方に大きく跳躍してそれを避ける。
手から着地すると同時に素早く回転して受け身をとり、勢いを利用して両の足で地面を強く打つ。その反動で今度は右後方に振り向くように跳躍し、そのまま剣を引き抜いた。その跳躍により、薙ぎ払いに続いて真上から打ち降ろされた大剣の唐竹割りを回避する。
頭目の身体に少年の影が落ちた。空中で頭目の側面を捉える形となった少年は、月光を背にして勢いよく剣を振り降ろす。


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