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真皇帝物語
10

帝都オスフェリア東部。
帝都で最も活気のあるその区画に、中央部の城にもひけをとらない巨大な施設がある。
おとな五人分ほどの高さを持つ中規模の古い石の砦を中心に、大小様々な大きさの家屋のようなものが寄り添い合って成り立つ、良くいえば懐古感溢れる、悪くいえばつぎはぎで造ったようなみすぼらしい建物。
それが、世界最大級のギルド拠点『ガオルネ』である。
古代語で『無法者』を意味するその施設は、貴族以外の全ての種類の人間がその場その場のノリと暇、需要と供給で運営している。冠した名に相応しい、雑多な相互扶助組織、いわゆるギルドの巣窟なのだ。一般小市民から流浪の傭兵、果ては帝国軍人まで、ありとあらゆる人間が日々を生きるために躍している。
ギルドを利用することに関しては貴族も例外ではないどころか、ギルドに寄せられる依頼の三分の一が中央部、つまり貴族からのものである。その内容は護衛がほとんどで、難度は高いが報酬がそれなりなため、腕のたつ者はこぞって貴族からの依頼を受理したがる。平民の依頼にはごくたまに護衛も含まれるものの、基本的には難度も低く、比較的手間がかからない。報酬は現物支給されることが多く、手軽だという理由でこちらも定評がある。
だが、それはあくまで平時の場合。
誰からの、どんな依頼だったとしても、支払われる報酬が尋常ではなく法外なものだったなら、誰もがその依頼に飛びつく。依頼の受理は早い者勝ちなので、掲示されている用紙が奪い合いになることもある。
例えば、報酬の金額にゼロが八個ほどくっついていたとか。

「いち、じゅう……まん……お、お、億だとぉ―――っ!?」

その依頼を最初にみつけた誰かの叫び声で、常に騒がしいギルド内は更に沸き立った。一斉に人が動いてひしめき合い、大規模な人だかりをつくった。
その依頼を目にした者は皆一様に驚愕の声を発するが、誰も用紙を即座にむしり取ろうとはしなかった。
うまい話には裏がある。そんな常識は今までの経験で身に染みている。きっと依頼の内容は何かとんでもないことなのだろう。どうせどこかの馬鹿な貴族が思いついた暇つぶしに違いない。
誰もがまずそう思い、依頼の詳細に目を移す。
そして、誰もが顎を落とした。
本当にとんでもない内容だった。ざわめきが波のように広がっていく。何度も目を擦る者もいた。頬をつねる者も続出した。
明瞭な視界と頬の痛みを手に入れ、夢でも幻でもないことが判明すると、続いて依頼主の名を確認する。
そして、誰もが完全に言葉を失った。
件の掲示には、こうあった。

“歓談の一時を”


※我らが国セファンザを治めます者と言葉を交わしてはいただけぬか。公務の合間の一時に、些細な安らぎを供する相手を募る。

条件:
言葉を解せし健康な者。他は不問とす。

必要人員数:
一名。

報酬:
ルース
100000000
とす。現金にて。

備考:
受諾者はしばしの間、城に滞在。食事、寝室等、生活に必要な諸々はこちらにて用意。心ある者は進んで受けられたし。
以上



依頼者名
ラメルト・グラン・バスカンドラ・セファンザ





「……なんだ…?」

普段と明らかに違うギルドの雰囲気に、最初に足を踏み入れたヴィオは怪訝に辺りを見渡した。妙に静かな内部。壁一面に取り付けられた掲示板の中で、とある一点に集まる黒山の人だかり。何かあったのだろうか。

「…どうした、気になるものでもあったのか」

ヴィオの後に続いて老朽化のひどい木戸を押し開けたシアは、内部の様子を目にしてヴィオに倣った。

「……あそこの掲示に何かあるのか?」

「多分な。ちっと行ってみるか」

言いつつ足を進めるが、シアが急に立ち止まるのを見てヴィオはたたらを踏む。

「ん、なんだよ?」

「あ…いや、レイガの爪が…」

そう告げたシアはなにやら痛みを感じているのか、少々顔をしかめて左肩に乗った蒼鳥をみつめている。
何かを警戒するような険しい表情をみせる青い小鳥は、蒼竜が人間の目を欺くために化身した姿である。珍しい竜族の姿のままでは人目を引き過ぎるのだ。
手の平にすっぽり収まってしまう小さな身体は力を込めるように震え、身体に相応のごく小さな鉤爪がシアの肩に食い込んでいる。

「痛い。なんだレイガ」

「……お前はあまり見に行かぬ方がよいだろう。依頼ならば他の掲示で探せ」

「………? 何か私に都合の悪いことでも書いてあるのか」

蒼鳥は答えようとしない。

「…レイガ、お前あそこに何が書いてあるか見えるのか?」



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