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真皇帝物語
3
やがて笑いが引いた頭目は、ゆっくりと大剣の柄に手をかけた。

「抜かねぇのはぼうず、お前も…」

一旦言葉を切って駆け出す。対峙する少年は相手を睨みつけたままその場から一歩も動かない。
彼の鼻先で、頭目は大剣に触れていない方の手を振りかぶった。

「一緒だろ!」

怒号と共に岩のような拳が降り落ちる。
すんでのところで後ろに飛びすさって回避しつつ、少年は右手を勢いよく突き出して抜剣した。頭目の拳に追従して打ち降ろされた大剣は、剣の刀身でなんとか受け流しつつ横っ飛びに回避する。
そのまま頭目の脇腹目掛けて横薙ぎの斬撃を仕掛けるが、その巨躯には似合わない敏捷さで避けられた。
その隙に一旦大剣の間合いから抜け出すと、少年はたまらず叫ぶ。

「…っ、ちょっと大人げないんじゃねーのおっさん!」

「わりぃな。やり合うと加減ができねぇんだよ」

恐らく両手剣であるはずの得物を片手で担いでいる頭目は戦いを楽しむかのように笑っている。

(馬鹿力にもほどがあるだろ…)

先ほどの一撃を受け流した時の衝撃で、両腕が未だに痺れている。正面からまともに防御なんてすれば、こちらの得物は簡単に砕かれてしまうだろう。
しかし、この狭い通路で戦えば、大剣の動きを多少阻害できる。それを利用すればなんとかなるかもしれない。
そんな少年の思考を見透かしたかのように、頭目は石壁をみつめてうっそりと目を細めた。

「……ちっと邪魔だな」

「…え?」

何が、と尋ねる間もなく、重い風切りの音と共に大剣が石壁を薙ぎ払った。

「うお!?」

少年の驚愕の声を背中で受け、頭目は自分で作ったいびつな穴から廃墟を抜け出した。
天井の穴と即席の穴とで通り道ができたのか、通路を風が吹き抜ける。
それを合図に、通路全体がみしみしと音をたて始めた。

「…ったく、デタラメなおっさんだな!」

一度剣を納めた少年は急いでもと来た道のりを駆け戻り、外へと避難する。
途端に廃墟の一部が轟音をあげて崩れ去った。生じた砂埃を見て薄ら寒さを感じ、手首で冷や汗を乱暴に拭う。
間髪入れずに砂埃の中から大男が現れ、少年は思わず舌打ちした。本当に大人げないやつだ。

「これで俺もお前も存分に暴れられる。…さぁ来いよ。お前の実力を見せてみろ」




風が吹いている。
心地良くはあるが、髪を掻き回すのが少々欝陶しい。

「……どうしたのだ、そのような渋い顔で。機嫌が悪いように見えるが」

足元から聞こえた声にそっと息をつき、闇に佇んでいる少年は見た目にそぐわぬ口調で表情通りの声を出す。

「ここにはあまり来たくはないからな。悪い記憶しか残っていない」

「我とてそれは同じだが、仕方あるまい。あの廃墟から『感じる』のは間違いないのだ」

そう言われて少年は崖下の半壊した建物に視線を投じる。その途端、形の良い眉が僅かに寄せられた。

「どうした」

「……いや、女性が襲われているのかと思ったのだが……」

「どれ…」

足元の声の主が様子を見るために崖の端まで移動する。
しばらくの後、猜疑に満ちた声があげられた。

「……あれは何だ? 我の美意識を崩壊させるつもりか」

なにもそんな言い方をしなくてもと少年は思ったが、そこまで酷い評され方をするに値する光景が、崖下で繰り広げられていた。
とても美しい女性…ではなく男性が、群がる猛者どもをちぎっては投げちぎっては投げ。得物を持つ相手にも臆せず素手で立ち向かっているのは勇ましいが、外見が外見だけにその豪快な戦闘はもはや暴力である。

「……助太刀する必要は…」

「ない。あんなのに構うな。さっさと行くぞ」

にべもない。
少年は再び息をつくと、軽い音を響かせて跳躍し、数十メートルはあろうかという崖から飛び降りた。

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あきゅろす。
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