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真皇帝物語
7
瞬間、室内に沈黙が流れた。
指を差された二人はただただ呆然とし、蒼竜は状況が呑めていないのか渋面をつくって首を捻る。アルベラは何故か一人肩を震わせて笑いを堪えるようにしており、団長に至っては沈黙のあまりの長さに品よく欠伸をする始末だ。
五呼吸分ほど続いた恐ろしく長い静寂は、突如として喧騒に包まれる。

「どーゆーことだよ! それ理由になってねーじゃん!」

「ちょっと待て! 何故私が傭兵団に入らなければならないんだ!」

「貴様は何様のつもりだ!? 我を振り回すなど言語道断!」

三人一斉に喚き始めたため、ぎゃおぎゃおと騒々しいことこの上ない。その喧しさにか、団長は俄に眉をひそめた。
おもむろにテーブルの上に手を伸ばし、食器ケースからフォークを三本取り出したかと思えば、投げナイフの如くそれを三本同時に投げつける。
鋭く空を裂いたフォークだが、三人はそれぞれ弾いたり避けたり凍らせたりして凌いだ。命中する位置ぎりぎりの所に飛来してきたのではなく、容赦なく顔面ど真ん中目掛けて飛来してきたからである。
しかしフォークは凌がれたものの、一瞬だけ三人を黙らせるには十分だった。

「…うるさいわね、同時に騒ぐんじゃないわよ斬られたいの。そこのお子様二匹、私が決めたことなんだから文句言わずに黙って受け入れなさい。それでレイゼノーガ、あなたの質問に対する答えだけど、 私は『団長様』よ」

(女王……っ)

蒼竜を除いてその場の誰もがそう思った。なんだこの私中心世界は。
皆が畏れおののいている中、蒼竜は一人奮闘する。

「たかだか人間の集まりの長ごときが何を戯けたことを。我は青鱗竜、貴様など我からしてみれば愚かしく短命な生き物に過ぎん」

「ではあなたは聡明で長命な生き物ってことかしら」

「まぁそうだが。いやしかし、貴様にそれを言われたところで我は…」

「長い時を生きているあなたの素晴らしい知恵と力を少しだけ借りることができたら凄く便利よね」

「……そこまで言うのであれば一時、ほんの一時、我が助力してやっても構わんぞ」

女王が蒼竜を味方につけた。更に、一度も力を貸せとは言っていないので後からいくらでも言い逃れができる状態だ。もはや鬼に金棒と飛び道具である。
その恐ろしい状態にヴィオは唖然とし、蒼竜の単純かつ素直過ぎる所業にシアは額を押さえた。

「そ・れ・で。早速だけど任務をあげる。中央の貴族街、その中でも一番大きくて邪魔くさい屋敷に行きなさい。先にイザロを向かわせてあるから、依頼内容は彼か依頼人から直接聞いて。それから、あなた達は二人一組で行動すること。半人前でも二人いればどうにかなるわ。レイゼノーガがついてくれればなおいいわね。そして何より、任務は迅速に確実にこなすこと。今回のは結構大きいからバックアップはつけるけど、油断はしないで。もし失敗したらどう転んでも明日はないと思いなさい。いいわね」

一気に一方的に話を押し進めた女王もとい団長は、さっさと行けとでも言うように手を払う仕種をする。
少なからず不満を覚えたシアだが、ヴィオに腕を引っ張られて文句を言いつつも階段を上がっていった。テーブルから飛び上がった蒼竜も追従する。
後に残されたアルベラと団長は、互いに悪戯っぽい笑みを浮かべた。


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