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真皇帝物語
明日の行方
アスカド大陸東方セファンザ帝国領、帝都オスフェリア。
帝国の中枢となる、世界最大規模の都市であるここは、中央部、東部、西部の三箇所に分かれている。
中でも東部は海に面している港区画で、城のある中央部とはまた違った賑わいが街を飾る。新鮮な魚介が並ぶ市場はもちろん、他国から輸入されてきた珍しい商品を専門に扱う店や、航海士達の集う酒場などが立ち並び、帝都の中で最も人が行き交う場所である。
呼び声も豊かな大通りでは日没まで人の往来が激しいが、路地を一つ入ってしまえば途端にそれは激減する。そのような場所には古びた魔導用品店や裏事情に接点のある店など、いわゆる穴場とでもいうべき店が太陽の光を避けるようにひっそりと存在している。
ただ、乾物屋と雑貨屋の間にある路地を進んだ先にある酒場『黒羽』は、更に一風変わった店だった。
緩やかな下り坂になっている細い路地を進めば建物の裏壁に囲まれた少々拓けた空間があり、所々に転がった木箱を避けて短い階段を降りていくと、やっと店の入り口にたどり着く。古ぼけた木の扉の脇には、暗くなると点灯するささやかな照明と、若干崩した公用語で『黒羽』とだけ書かれているプレートが備わっている。

「……何回見ても悪党の巣窟っぽいよな」

真っ昼間だというのに薄暗いことこの上ない入り口を見て息をついたヴィオが誰にともなく呟いた。陰湿な扉を開けたが最後、中で良からぬ相談をしている裏家業の人間をうっかり目撃してしまい、口封じのためにお命頂戴が決定しそうな雰囲気である。

「…おい、アルベラとか言ったな。お前達は本当に傭兵団なのか? 実は盗賊ギルドだったなどというふざけた話ではないだろうな」

「だいたい合ってるけど一応傭兵団よ」

「そうか。もう会うこともないだろう」

とっとと踵を返したシアに何故かヴィオが追従する。しかし、数歩も歩かないうちに双方の肩にアルベラの手ががっちりとかかった。

「まあまあそう言わないで寄っていきなさいって。そんでボーヤはなぁにどさくさに紛れて逃げようとしてんのかしら」

「ぐ……っ、見逃してくれ頼むから」

「逃げても無駄だと思うわよ。団長がありとあらゆる手段で地の果てまでだって追ってくるわ」

「………………覚悟決めりゃいいんだろ……」

力無くうなだれた少年にそうよと頷く。シアに再度視線を向ければ、渋々の体で戻ってきた。
眉をひそめている彼の右肩に、どこからともなくやってきた一羽の小鳥がとまる。
鮮やかな青い羽が美しいその小鳥は、小さなくちばしを動かして人語を話し出した。

「この騒がしい街の中にしては落ち着く場所だな。陽光の具合もちょうどいい」

「……俺、レイガの感覚ちょっと間違ってると思うぜ。昨日だってパチパチうるさいとか言って焚火凍らせるし」

お陰で寒くて見張りもろくにできなかったとヴィオが愚痴を零す。レイガと呼ばれた小鳥は、翼をしまい直すと不機嫌そうに一声鳴いた。

「…夜の静寂に焚火などという無粋なものを持ち込む方が間違っている。あれほど心安らぐ時は他になかろう」

訳の分からない言い訳に息をついたシアが首を少し動かして自らの肩に視線を寄越す。

「だからいつも言っているだろう、許可なく焚火を消すなと。お前はそれで問題なくとも、私達は不便極まりないんだ」

ここでさりげない発言に気づいたヴィオが口を挟む。

「…なぁシア、『いつも』ってことは…」

「ああ、常習犯だ」

告げられた事実にやっぱそうかと返す。張本人に目をやれば、身体全体を使ってそっぽを向いていた。仮にも幻獣なのに、などということはもはや考えないヴィオだ。


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