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真皇帝物語
5

「終わりだ!」

月明かりを浴びてきらめいた剣は、そのまま頭目の首を切り裂くはずだった。
刹那、頭目の身体から衝撃波が発生する。

「おわっ…!」

空中では身動きがとれず、少年は衝撃波をまともに喰らって吹き飛ばされてしまった。その手から剣が離れ、回転しながら天高く飛んでいく。
背中から地面に叩きつけられた少年は思わず低く呻いたが、すぐに跳ね起きて頭目の位置を確認する。いったい何が起きたというのか。
少々離れた場所で、少年に背を向けた体勢の大男は肩を震わせていた。しばらくの間俯いて低い笑声を洩らしていたが、やがて空を仰いで豪快に笑い声をあげる。
ひとしきり笑った後、肩に大剣を担ぎ上げた頭目は怪訝な表情をしている少年に向き直った。

「いいぞぼうず…俺が『これ』を使わされたのなんざ久しぶりだ…!」

心底楽しそうな言葉と同時に、大剣が何かに共鳴するようにびりびりと振動し始める。それが激しくなってくると、剣の鍔に最も近い根本の部分から熱く燃えたぎるものが湧き上がった。

「炎…?」

鮮やかな真紅の帯が数本、絡み合うように刀身を飾る。火の粉を散らして陽炎を立ち昇らせるそれは、焔の刃と化していた。

「喧嘩はこっからだ。気をつけてねぇと消し炭になるぜぇ!」

威勢良く哮りつつ、頭目は大剣を地面に叩きつける。すると、その場所から猛々しく燃え盛る火柱があがり、天を焦がした。
呆気にとられてその様子をじっとみつめていた少年は、頭をひとつ振って現実を見据える。あれは常人の為せる技ではない、限られた才ある者にのみ許された特別な太古の技術。その種類は数あれど、扱える者はそう多くない。
あまりに理不尽な戦力差に少年は瞬間的にムカッ腹が立ち、思わず喚いた。

「ちくしょー魔法かよ! きったねー! 反則だろ!」

自身の切り札を反則の一言で片付けられたにも関わらず、頭目は気にもとめずに言い放つ。

「俺をここまで追い詰めたご褒美だ。じっくり味わえ。…ほらよっ」

言いながら背後に手をまわし、何かを引き抜く。投げて寄越されたそれはくるくると回転しながら飛来し、少年の目前に突き刺さった。

「あ、俺の剣じゃん。なんで渡してくれんだ?」

「丸腰のやつを相手にしても面白くねぇからな。さっさと拾え。俺が満足いくまで付き合ってもらうぜ」

「…そーゆーの困るってばおっさん。俺にだって都合っつーもんが…」

「るせぇ。男だったら覚悟を決めろ。…『焔刃の将』ザグラ、いくぜえぇ!」

焔の刃を高く掲げ、上段に構えた頭目はそのまま突進した。対する少年は地面に刺さったままだった剣を引き抜いて構えるものの、本気で逃げるか否か思案していた。

(どーすんだよあんなの! 今の俺の実力じゃぜってー敵いっこねーよ!)

決めあぐねているうちに、頭目は容赦なく迫ってくる。

「うらぁっ!」

焔の刃が振りかぶられた。少年は舌打ちしつつも仕方なく防御体勢に入り、回避に備える。
と、その時だった。

「が…っ、は……!」

掠れたような呻き声をあげ、頭目の動きが止まる。
その身体を貫いているものを見て、少年は瞠目した。
血に濡れながらも冷たい輝きを放つ氷の槍。両端が鋭く尖ったそれは、周囲の水蒸気を凝固させて白い冷気を放出していた。

「―――そこまでだ」

凛とした声がその場に響く。
声のした方に目をやると、そこには自分と同じくらいの一人の少年が立っていた。


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