ソレにはエレンが怒る理由も、アルミンが自分を庇いながらも泣きそうな顔をしている理由もわからなかった。 白い毛の塊から、犬の形状に[進化]しただけでこんなにも人間に与える印象は変わるのかとソレは少し呆れにも似た[感情]を抱いた。 …もしもコレが犬の形状に[進化]したことが原因なのだとしたら、とる行動は1つだった。 「……ッ?!エレン!!」 「?……!??」 [進化]する前のコレの行動を再現すればいいだけの話だ。案の定2人は良かった、良かったと言いながら泣き出してしまった。 喜んでいるのに涙を流す理由をソレはまだ、理解できなかった……。 ーー 「…‥にしても、どうやったら一晩で犬になっちまうんだ?元々犬だったのか?」 「さぁ…‥もしも、昨日までの形状が周りの環境に適応できる体を作る途中段階だったのだとしたら、一番適していたのがたまたま犬の形だった……のかもしれない。」 「…‥アルミンの言ってることってたまにワケわかんねぇな。」軽く心に刺さるようなことを言ったエレンは胡座をかいて、その上で子犬になったソレの前足をつかんで、肉きゅうをいじったり、左右に揺らしたりして遊んでいた。 ……エレンの遠慮のない物言いは今に始まったものではないから気にはしていなかった。 否、寧ろソレよりもアルミンには気になることがあった。 …‥巣穴の前にあったこの子犬よりも2まわりほど大きい犬の足跡 その足跡の周りに遺された血痕 一晩で犬になったこの奇妙な生命体 「……ッ」 嫌な仮説が浮かんでしまい、アルミンは唾を飲み込んだ……。 もしも、自分が出した仮説が正しいのだとしたらこの子犬は…… 他者を捕食することによってその形質を取り込んでいる。 ーーだとすれば、この子と一緒にいるのは非常に危険なんじゃないだろうか…‥ かと言って、今更この子とさよならするにはエレンもアルミンも遅すぎた。 ーー 「#name#ーーー!」 ーーボフッ! 走ったまま、勢いを殺すことなく白い塊に飛び付いたエレン…‥その後ろではアルミンが、もはや日常と化した光景に苦笑しながらその一人と一匹に走りよっていた。 …‥その白い犬のような獣は#name#と名付けられ、半月であっという間にエレンとアルミンを追い越すほどに大きく成長したのだ。 お陰で何時からかエレンは#name#のもとに着いたときその毛並みに向かってダイブするのがお決まりになった。 親に内緒で二人一緒に#name#の背中に乗ってあちこち移動するのが最近エレンとアルミンのもっぱらのブームとなった…‥だが、変わったのは#name#だけではなかった。 「にしても、この辺りの丘…‥半月で大分風変わりしてないか?」 「?」 「アハハハ…‥」 エレンの呟きに首をかしげる#name#、そんな一人と一匹にアルミンが苦笑してしまうのも無理はないだろう……半月前までこの丘には森や林と言うほどではないが、それなりにたくさんの木が生えていたというのに、今となっては#name#の寝床であった木しか残されていなかった。 代わりに見晴らしが良くなり、綺麗な花もあちこちに咲き乱れていた。 …‥エレンは首を傾げるだけで終わったが、アルミンには丘の景色が風変わりした理由がハッキリと分かっていた。 ーーまさか半月でこの辺りの木、全部食べちゃうなんて…‥ …そう、犯人は言わずもがな#name#だった。 何を隠そうこの半月の間#name#は周りの木を捕食することによって飢えを凌いできたのだ。 そして喰らったものの性質を取り込む特性により、#name#は見事植物による光合成を身に付けたのだ。 そのお陰か#name#の傍は新鮮な空気で溢れている…‥恐らくエレンが抱きつく理由もそれにあるのかもしれない。 「そうだ!喜べ#name#!今日のお昼、母さんがお前の分まで作ってくれんだぞ!」 「!わん!!」 嬉しそうに報告するエレンに、同じく嬉しそうに返す#name#。 無理もないだろう…エレン達としては犬の形をした#name#なら家族にも受け入れてもらえるだろうと思っていたのだが、いかんせん#name#は親に報告する前に大きくなりすぎたのだ。 おまけに普通の犬よりもガッシリした肢体、口はエレン達くらいの子供の頭なら丸かじり出来そうな程だった。 ーーこれは報告しても逆に会うのを禁止されてしまうのではないか? まず二人が心配したのはソコだった。 そして自分達(主にエレン)が#name#がどれだけ安全かを語り倒した。 元々外の世界の本を所有していたアルミンの家族は広い視野と思考をしており、案外あっさりと#name#の事を受け入れてくれたのだ。 …しかしやはりと言うべきかエレンの両親…特に母カルラはなかなか#name#の事を受け入れてくれなかった。 母としてたった一人の息子を守るべきだというのは分かるのだが、親の心子知らずとはよく言ったもの…エレンが盛大に拗ねてしまったのだ。 半ば強引な気がしなくもないがエレンは家出を決行し、カルラを盛大に困らせた…エレンが家出することは予想通りだったのか、父グリシャもカルラを説得し、渋々とはいえ#name#と共にいる許可を得られたのだ。 #name#はそんなカルラに誠意を見せることによって受け入れてもらったのだ。 たまにエレンと共に薪を拾いにいったり、 喧嘩っ早くてよく怪我をしてしまうエレンを連れて帰ったり、 寝床の近くに咲いている花をあげたり…… (アルミン策) 等々、そんなことを繰り返す内にカルラはすっかり#name#への警戒を解いていったのだ。 今となってはエレンとアルミンだけでなく#name#の分のお弁当を用意してくれる程… 「なぁ、アルミン!今日は限界まで行ってみないか?」 「限界って…エレン、それだとどこまで遠く離れることになるか分からないじゃないか。 あまり無茶はしない方が……」 「大丈夫だって!#name#がいればどこまで行っても必ず帰ってこれるさ!な?#name#!」 ーーワオォーーーーン…… エレンの期待に満ち溢れた瞳に応えるように、空に向かって遠吠えをする#name#。 そんな姿にアルミンも高揚し、苦笑しながらもエレンに賛同する。 そうと決まればと2人は昼飯をちゃっちゃと済ませ、#name#の背に乗って秘密の冒険へと出掛けた…… |