SIDE:悪戯小僧 微かに光がある薄暗い地下室に一人の青年が眠りこけていた。そんな青年の背後に忍び寄る一つの影 「珍しい、エリックが他人の気配に目を冷まさないなんて」 影、ヴィオはエリックの頬をムニッと掴みながら呟いた。 「本当に珍しいな、エリックのこんな姿……」 珍しげにエリックの髪に触れていると緩んでいたのかシュルと彼の髪を纏めていた紐がとけ癖一つついてない彼の髪はサラリと頬を撫で落ちた。 「エリック、男なのに髪サラサラ。旦那の髪よりもスゲー。あ、そうだ」 子供が悪戯を考えた笑みを浮かべいそいそと準備をするヴィオ。エリックは結局悪戯が終わるまで目を覚まさなかった。 SIDE:買出し組 戒斗とリオンは買出しが終わり家路を歩いていた。 「戒斗さん、ついてなかったですね。あんな物に襲われるなんて」 「まったくだ。しかもあいつら俺のほうを見ていたな……」 そういって戒斗は少し不機嫌そうに家の前で言った。 ことの出来事は数分前……。 「家、結構壊れてましたね。戒斗さん」 「そうだな」 日が沈み辺りが紅に染まった頃、大量の荷物を抱えて戒斗とリオンが店から出てきた。手提げに入っているものは大体が食料だが、リオンの袋には理解できないものが見え隠れしていた。 「リオン、一体何を買った……」 (むしろ、何処で売っていた) 三年ほどこの街に住み、なおかつ仕事柄街の隅々まで知っているつもりだった。そんな戒斗でさえ、リオンが手にしているものを売っている店は知らない。 「やだなぁ、そんな野暮なこと聞かないでよ。もちろん秘密だよ」 リオンはニッコリ袋を手にしながら笑う。 「だろうな」 そんなリオンに戒斗も半ば呆れながら答えた。 「ところで戒斗さん。心当たりはある? このウザイ気配にさぁ……」 「分からんな。数え切れないほどの恨みは買ってきたからな。そう言うお前は?」 「僕は知らないよ。以下同文」 自分の家を出てからずっと感じていた殺意のない薄気味の悪い視線。ディライアである自分も、義賊とは言え盗賊であったリオンも少なからず人の恨みを買う。 最初はその類かと思い警戒していたが、視線の持ち主は何もする訳ではなくついて来るだけ。それに気づき何度か巻こうとしたが“ソレ”はつかず離れず自分たちについてきた。 「少し散歩でもして帰るか」 「えー、男二人で? 花が無いとつまんないよ」 「文句を言うならお前一人で片付けろ」 余裕ありありと返事する双子の弟に呆れながら俺達は路地裏へと入っていく。 「戒斗さん、誘き寄せられると思う?」 「誘き寄せるんじゃない。誘き寄せたんだ」 遠くからヒタ……ヒタ……と歩く音が聞こえ、眉潜めた。薄暗い路地裏どこか引きずるような足音。ソレはまるで……。 「ゾンビ映画だね」 リオンの楽しそうな声色に正直頭が痛くなった。無意識に頭を抑えた同時にドサッと音を立てて背後に何かが落ちてきた。あぁ、お約束だと心の中で思いつつも振り返るとやはり明らか体が辺に曲がっている人間が変な音を立てながら起き上がろうとしていた。 「やるべきことは分かっているな」 「分かんなーいから、火葬しちゃおっと」 楽しそうに杖を抱えて詠唱を開始するリオンに、戒斗は半ば呆れながら起き上がろうとしている人ならざる者を切り捨てた。 そして、冒頭へと戻る。 「まったく、今年は運がない」 「そのうちに幸福が舞い込むよ、きっと……多分、おそらく」 にっこりとした笑みを浮かべたままリオンは扉を開けそのまま固まった。 「おや、おかえり」 「エリック、なんだその頭……」 戒斗は硬直状態のリオンを押しどけ、中に入るとヴィオに悪戯されたエリックが出迎えた。 「え、なにか変ですか……って、いつの間に!?」 エリックは慌てて髪紐を解き、悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべたヴィオを睨み付けた。 「ヴィオ、犯人はお前だな!」 二人が買い出しに出かけたときはいつもの髪型だった。自分でこんなことをするはずがなく、シオンは安静にさせるために軽い睡眠薬を飲み眠っている。犯人は残る一人のヴィオしかいない。 「気持ち良さそうに寝てたエリックが悪いんだ!」 「さて、あいつらはほっといて飯の準備をするか」 大人気ないエリックと、まだ固まってるリオンを尻目に戒斗は食材を持ってキッチンへと向かった。そして、戒斗はエリックの髪型を彼の名誉のためにも誰にも言うまいと誓った。 |