戒斗が歩き出したのを見てシオンは慌てて立とうとするが、体重をかけると激痛が走る。
何とか踏ん張って立ち上がろうとすると戒斗に止められた。
「無理するな。悪化させて、使えなかったら困る」
「だ、大丈夫だ。これぐらいの怪我たいしたこっ!? いっ……!?」
「軽く触っただけでも相当痛そうだな。応急手当だけでもしておこう」
エリックが手当てをしている間、リオンは戒斗と話をしていた。戒斗の家にある隠し部屋についてどこにある、どんな大きさだの質問は止まらない。
「じゃあさ、最後に一つ聞くけど、どうやって帰るの?」
思っていた以上に遠くに着てしまい、今から歩いて帰るのは正直な話キツイ。
「はい、おわりだ。戒斗、シオンは私が連れて行こう。あまり動かさないほうがいい」
エリックは「失礼」と一声かけるとシオンの返事を聞かずに左手を膝へ、右手を背中へとやり抱き上げた。プリンセスホールド……俗に言うお姫様抱っこ。
「な……なにするんだエリック! 今すぐおろせ!」
顔を赤くしながらシオンは怒鳴りエリックの腕の中で暴れだす。
「おとなしくしてくれ。睡眠薬飲まされたくないだろ?」
「う……」
「そういうことだ。戒斗、私達は先に行くぞ」
「あぁ」
エリックはおとなしくなったシオンを抱き、空へと飛びだった。だんだんと小さくなっていく姿を見ながらリオンが一言。
「シオ姉に春が来た」
紅一点のシオンがエリックに連れて行かれて戒斗とリオンだけになった野郎組みではどうやって帰るのか、リオン一人で悩んでいた。
「僕、歩いて帰るのは嫌だよ。今日はいろいろあって疲れたし……。戒斗さんも一緒に考えてよー」
ぶーぶーと文句を言うリオンを一目見てから、戒斗はすぐに視線をそらす。夕日が沈み地平線をみながらタバコを一本。
「戒斗さーん、聞いてるの? おーい、バカイト!……いったぁーい!」
ゲシッ!と容赦なくリオンの背中に戒斗の蹴りが綺麗に入る。
「聞いてるなら返事してよ……」
乙女座りに口元に手をあて泣きまねをするリオン。そのうち白いハンカチを咬みだすんじゃないのかと、戒斗は思った。それは絶対に遠慮したい。
「もう少し待て、すぐに来る」
そして戒斗は返事をした。何が来るかはもう言わなくていい。
「あ、あれって……」
それはすでにリオンの視界の中に入っていたからだ。エンジン音を鳴らしながらこっちへと向かってくるのは一台のバイク。ただし無人。
「オバケーッ!?」
「違う。あれは鍵のある場所へ自動運転で来るアルタイル制のバイクだ」
「アルタイル制? それなら無人でも動けるよね……なんだオバケじゃないのか」
「残念だったな。お化けに会いたいなら日本の幽霊スポット連れて行ってやろうか?」
「う〜ん。機会があれば行ってみたいかも……」
バイクは戒斗の前で止まる。戒斗は鍵をさしてエンジンをかけなおした。ヘルメットをリオンへと渡して、バイクへと乗る。リオンはヘルメットを被ってから戒斗の後ろへと座った。
そしてバイクは帰路を走り出す。
SIDE:???
「……消えた」
人間三人と鎧武者が戦っていた方向を見つめ、ぽつりと呟いた。消えた物が再度無へと飲み込まれた間隔が”世界の中”で感じられた。
『……消、えた?』
ごろりと岩が転がるような声が胸の中で問う
「僕の世界の中から……消えていたモノが消えた」
ゆっくりと歩きながら答えた。
『……や、く……立たず……めが……』
声は言う。
「……役?」
男は聞くが声は答えない。男は仕方なく進む。
目指すは神。
「……ん……おぉ?」
ヨーロッパのとあるカフェの一角で男は紫煙をくねらせていた。
「……消えたかね。煉獄」
男は特に気にした様子も無くコーヒーを口にした。
ACT.33 見つけた、獲物 END |