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見つけた、獲物

SIDE ???



「……始まったのか」

どことも知れぬ闇の中ひとつの影がはっきりと呟いた。言葉とは反対に虚ろな瞳は何も移さない。

「随分と早い。アレが早々に動いたこともあるだろう、忌々しい」

隣に立っていたもうひとつの影がそれに応じた。

「あぁ、だかそれでもこの速さは異常だ……」

まだ全員の契約が終わってすらいないのに……と、続く言葉を飲み込んで影は闇に手を伸ばす。

「しかし、俺のするべきことは何も変わらないだろう」

明けることの無い夜に恐怖することなく、安らかな終焉を……。絶望した世界に闇を持って破壊を……。この手で“きっかけ”という名のひきがねを引く。

影はぎゅっと握り拳を作った。

「フッ。話の分かる主で嬉しいことだ」

言葉とともに二人の周囲は歪み、日常の風景にまぎれる。

「とうとう、目覚めるようだな。お前達の創造主“サタナエル”が……“創られた神”は“真性の魔神”と出会いどうするのだ?」

「……」





ここは忘れられし世界の狭間の空間。

ここはどこだろう。僕は全てを失った。
自身に関する記憶さえ、解からない。分からない。判らない。

胸の中心に妙な違和感が戸惑っている気がする。

“契りとともに、創りの主は目覚め、自ら創りし神を殺す”

全てがわからない中、その一節だけが心に強く残っていた。生活には困らない。ただ、自身も関する記憶だけすっぽりと抜け落ちた感覚。

身体の中心で、何かが脈打った。地にうずくまり胸を押さえる。
だんだんそれが強くなり息も絶え絶えになっていく。

途端、それはまるで無かったように静まった。僕は立ち上がると足についた砂を払う。
うずきが収まると頭の中に一つの方向性が描かれた。

求める対象を得た。僕は神を……思い、僕は思考を停止した。

今は、まだ……と。

中心の違和感は、いつしか奇妙な調和をみせ、不可解な感じは消えていた。

僕は歩みを進める。覚えの無い神を求めて。





「動き出したよ」

片目を閉じ、どこか遠くを眺めていた彼がポツリと言った。

「……奴――サタナエルは?」

そばにいた彼女が遠くを見ている彼に問うた。

「駄目みたい。どうやらまだ本調子じゃないらしいけどね……」

首を横に振り、律儀に彼は応じた。

「これで名実共に神の“ヨリシロ”になった訳だよ」

ふん、と小さく鼻を鳴らすだけで何も返さない彼女に苦笑する。

「さて、台本が途中までしかないこの舞台は最後まで演じることが出来るかな? それとも終幕は簡単に下ろされるかな? 破壊を身に宿した……あの“リリン”に……さ」

「やめろ……アイツの名を出すな」

彼女が不機嫌そうな表情をして唸る。

「……ゴメンゴメン。じゃ、とりあえず追うとしますか……」

あやまり笑顔を彼女に向ける。一瞬だけ眉を寄せたが「…あぁ…」と答えた。





SIDE サハラ



「頼んでいたものは出来たかフィーナ」

「あぁ、ウェネスト様出来ていますよ。あぁ、このウィルスを愛しのサハラ様に直接渡せたらどれだけ良かったでしょうか」

「サハラ様は多忙なお方だ。我慢しろ」

サハラに敬愛しているのはフィーナだけではない。この城にいるすべての物がサハラを敬愛しているのだ。ただ、一人パートナーであるウェネストを除いて

「羨ましいですよ。ウェネスト様。あなたは私よりサハラ様と共に居られる時間が長いのですから…」

「……あの方は私の主、ただそれだけだ」

そう言ってウェネストはおもむろに何かを取り出すとフィーナに差し出す。

「何ですか? もしかしてウェネスト様、私に興味が……だめですよ、私にはサハラ様という心に決めた方が……」

「何を勘違いしているか知らないが、それはサハラ様からだ」

サハラからと聞くとフィーナはウェネストがいることを忘れて歓喜の声を上げた。それをウェネストはただ、無表情に見つめていた。

「フィーナ、ウィルスの方は忘れずばら撒いておくように」

ウェネストも気にせず、部屋から退室すると一度、キッチンへ向かい主が好んでいるお茶を持って主の元に向かう。

「サハラ様、お茶をお持ちしました」

「ウェネスト、ありがとう。あぁ、そうそう、地球が気になるからちょっと様子見に行ってくれないかしら?」

お茶を飲みながらサハラがウェネストに言うと彼は、無表情に「主が望むなら」と答え、部屋を出た。



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あきゅろす。
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