SIDE:シオン 「……うああっ!!」 発声とともに深く踏み込み鎧武者の脇腹を抉る。だが、抉ったと思ったその刃は瞬く間に二発同時に放たれた斬撃によって弾き飛ばされてしまった。 『……はぁ……!』 一瞬よろめくシオンに吐く息とともに切りかかる鎧武者。シオンの周囲を浮遊する刃は、本体と距離をとりつつシオンを守護していた。 その刃から2本剣をとると大振りの日本刀をいなし、回避した。一回転、たったそれだけでは取れる距離がたかが知れている。 緊迫した状態がかなり長く続いている。 実力が同程度であるからこそ続くのだが……リオンはわかっていた。姉が押されていると……。 “死円舞”は剣の数を誇る刃による連続攻撃が本来の姿――戦闘形態である。もとの巨大な剣を自身の魔力で13本に分け、常に己の周囲で浮遊させている。それは並みの――下手をすれば上級者並みの魔術を行使するよりも多量の力を要するのだ。 魔力も精神力も。ゆえに長時間の戦闘にも滅法不向きなのである。 シオンは身体強化にもその力を分けているのだからさあに長時間の戦闘を困難にさせているのだ。すなわち、この均衡はつかの間。しばらくすればシオンは窮地においやられるだろう。 使ってる本人は文字通り身にしみて解かっている筈だ。 (このままいけば……負け確定か) ぽつりと思うシオン。決着がつかぬままずるずると時間は過ぎていく。 嫌な均衡を保ちながら。 SIDE アレイ ヨーロッパでの事をどこからか聞いた隣国のロシア軍では上層部による会議が行われていた。渋い顔をしながら語り合う者達を、さらに別室から見ている者達がいた。 「自分の予想では87%の確立でアレイ殿は面倒だと思っている……とでました」 「まぁ、そうなんだけどね。それよりもここではカレンって呼びな」 情報屋”炎来”として名高いアレイ。そんな彼女のもう一つの顔は、ロシア軍の科学班チーフであるカレン。 「申し訳ありません。カレン殿」 「気をつけてよ、バレたらアタシの人生の100分の1ぐらいが失敗するんだからね」 『それって……まったく関係ないってことだよ。もう、ノークスにあまり迷惑かけないでよね』 机の上に歩いてあるノートパソコンがカタカタと自動的に動き出す。その画面には男の子が写っている。アレイのパソコンを管理しているデータのジェイクだ。 「はいはい、アタシが悪かった。近辺には誰もいないからアレイって言ったんだろ」 「はい。自分は人の気配を感知しておりません」 「まぁ、アタシの研究室に好きで来る奴なんていないだろうね」 アレイはニヤリと笑いながら室内を見回す。窓一つなくさまざまな実験用の機械が電気の明かりを怪しく反射していてはっきり言って不気味だ。 「だからこそ自分も気兼ねなくカレン殿に見ていただける」 台の上に横になっているノークスの腕には赤や青、さまざまな色のコードが繋がれている。そして血や肉があるべき場所……ノークスの肌の下にあるのは鋼の骨組みだった。 「あたりまえだろ。アルタイルでも最新型のラージ型アンドロイドを機械の”キ”の字も知らない連中にメンテナンスさせるなんてもったいない」 『もったいないって……仮にも上司でしょ』 「地位があっても実力がなきゃ意味がないじゃないか。それになによりもアタシにとってちょうどいい暇つぶしさ」 鼻歌まじりでアレイはノークスの腕をいじり始めた。もう完全に上層部の会議は彼女の興味を引かないらしい。 「うんうん、やっぱアルタイル製の機械はいい仕事してるなぁ〜」 『あ、ねぇ、カレン。会議が終わったみたい。結局、調査班は送られないね。変な菌を持ち帰ってこられたら困るからって話だよ』 ノークスのメンテナンスで目を輝かせているアレイにはジェイクのタイピングの音さえ届いていない。夢中にになってノークスの腕をいじくり始めた。ノークスも何も感じていないようでおとなしくじっとして動かない。 『いいの? その虫ってのもアルタイルから来たみたいだよ……ねー、カレンー』 カタカタと意味のない言葉を打ち続けるジェイクだが、結局アレイがノークスのメンテナンスを終わらせるまで一度も振り向いてもらえなかった。 「はい、終わりだ。これでまたしばらくは大丈夫だろう」 コードを全て外されたノークスは腕を動かし不具合がないかを確かめる。 「ありがとうございました」 「こっちこそ楽しかったよ、ありがと。それでジェイク、会議の法はどうなんだい?」 アレイがいつのまにか真っ黒になっている画面へと声をかけると寝ているジェイクの姿が写し出された。 『ん? ……ふ〜ぁ〜。もう、とっくに終わったよ。調査班は無いよ』 目をこすりながらジェイクが答えた。 「そうか。少し気になるけど虫が居るところに行きたくないな……」 『戒斗に話を聞けばいいんじゃないかな?』 ジェイクの出した提案にアレイは思いっきり嫌そうな顔をする。 「情報屋が客から情報を買うなんて馬鹿げた事出来ない!アタシのプライドに傷がつく。……こうなったらヨーロッパのギルドにハッキングして……」 怪しい笑いをするアレイにジェイクはあきれ返った。 「それでは自分はそろそろ失礼します」 『それじゃあね、ノークス』 ノークスを見送ったのはジェイクだけで、アレイはどこかへぶっ飛んでいた。 ACT.32 各国の、情勢 END |