SIDE:エリック 「知っていたのか!?」 エリックは隠し持っていたナイフを戒斗の喉元へ向けた。この男は危険だと、エリックの暗殺者としての人格が告げていた。 戒斗には何の話もしていない、グリフィードを知るのは人間ではただ一人、闇の神ダルクの欠片を持ってきたハングと名乗った研究者だけ。それを何故、彼は知っている。 「落ち着け、別にお前から奪うわけじゃない」 「私は落ち着いている」 そうは、言ってもエリックとて自分が焦っているのを自覚していた。本当に落ち着いているのは、今なお、命の危機に面している戒斗である。 彼の得物である紅蓮は地面に突き立てられたまま。抵抗するための武器一つ無い状態で、喉元にナイフを向けられていても、その声色は変わらない。 これほどの度胸が、自分にもあれば……あの叔父の言いなりはならなかっただろう。今更後悔しても意味の無い過去。けれど、それは無かったことには出来ぬ現実。 「いつ、気づいた?」 「疑ったのはお前が出てきたとき。確信したのはつい、先刻」 戒斗の答えが本当ならば、あの僅かな時間で何が彼の答えを出す切欠になったというのだろう。ますます、エリックは分からなくなった。この男を、信じていいのだろうか……。 そんなエリックの疑心を知ってか、それとも知らずに偶然か、戒斗はその答えを語りだした。 「お前は言ったな、俺が『邪魔者はいなくなった』と言ったところから聞いていたと」 エリックは戒斗の真直ぐな視線を正面から受けて、声を出さずに頷くことで返事を返す。 「それから、俺は誰も居ないと思い……声を出して紅蓮と話していた」 そう戒斗に言われて、エリックは初めて自分のとった行動が彼に答えを与えていたとこに気づいた。戒斗と紅蓮の会話は常人にとって、戒斗の独り言にしか聞こえない。 「普通なら、独り言を言う俺に対して、不思議におもうなり、可笑しい奴だと思うだろう」 それに疑問を抱くことなく戒斗に話しかけたエリックは、もちろん、紅蓮の声を聞いていた。 「だから、俺は気がついた。お前が何かしらの神の持ち主だとな。一番確立が高いのが、グリフィードだと思っていたが、空族の長がそれを持っていないことで確信した」 細部にまで気が回らなかったエリックの失態と、戒斗の極めて優れている観察力が重なった結果、グリフィードの持ち主が特定されたのだ。 「……すまない」 エリックはようやく、ナイフを下ろした。そして、戒斗に向ける顔が無いと俯く。 人間との共存をすると決めたのは自分だ。だが、グリフィードのこととはいえど、こうしてすぐに人を疑ってしまった。こんなことでは、自分の信念など貫きと失せない。 「気にするな……さすがに何度も体験はしたくないがな」 戒斗は左手で首をさすりながら、エリックへと近づく。通り過ぎ様に、俯いたままのエリックの肩に手を乗せた。 「お互い相手が仲間でよかったな、お前が敵だったら俺の首は繋がってないかもしれん」 エリックが驚き、振り返ると、戒斗は紅蓮を鞘に戻していた。戒斗は、彼を信じ切れなかった自分を仲間だと言う。ナイフを向けた自分を信じてくれている。 「あぁ、本当に……戒斗が敵でなくて助かったよ」 ならば、自分はそれに答えるだけだ。 「なぁ、グリフィードを見せてくれないか?」 紅蓮を腰にさした戒斗がエリックへと話しかけてきた。 「あぁ、構わない」 エリックはそう言って首からペンダントを外し戒斗に見せる。ペンダントの中央には淡い光を放つ緑色の宝石が埋め込まれていた。 「これがグリフィード……奪ったのか?」 「今の族長は私の養父だ……父方の叔父でもある」 「血筋的にはエリックが正式な後継者というわけか。だが、何故お前の父親が長にならない……まさか」 申し訳なさそうにする戒斗をみて、エリックは彼が父の死に気づいたのだと分かった。確かに、エリックの父はすでに他界しているが、族長とは関係が無い。 「私の両親はすでに他界している、けれど、それは跡継ぎ問題とは関係がない」 エリックは複雑そうに笑みを浮かべた。 「私が生まれる前に、族長は座には叔父がついていた。私の父は族長になるのを嫌がったんだ。……風の資質を持つ者は一つの場所に留まる事を嫌う……父は誰よりも留まること嫌う人だった。だから、祖父様は叔父に族長の座を父にペンダントを渡したんだ」 そして、エリックがペンダントをしまおうとすると宝石が瞬き始め、女性の声が聞こえた。 『お久しゅうございます。紅蓮殿』 『おぉ、久しぶりじゃな。グリフィードあいも変わらず兄妹そろって堅苦しいのう。しかし、珍しいこともある、おぬしら兄妹が離れているとはのう。兄のウェネストはどうした?』 「待て、紅蓮」 「待ってくれ」 二人とも同じ事を思ったのかエリックと戒斗同時に同時に声を上げた。 『どうした?』 「ウェネストとグリフィードは……」 『本当の兄妹……いや、剣と鞘の関係だ。だからこそ、お主らが別れておるのが不思議なのじゃ』 紅蓮の言葉にグリフィードは気まずそうに光を曇らした。 『紅蓮殿の言うとおり、我と兄者は鞘と剣の関係。兄者が剣、我が鞘だ。兄者は制裁神、人々に平等な裁きを与える存在。それ故に感情というものが無い』 「感情が無い、故に冷酷に裁きを与えることができるが、同時に加減を知らない。だからお前が鞘、鋭利な刃のような兄を止めるわけだな?」 戒斗の言葉にグリフィードはその通りだと、肯定した。 『だが、そんな兄者はどこか可笑しい……正直、今の兄者は怖い……頼む、もし兄者を見つけたら私の変わりに止めてくれ……』 グリフィードは神の威厳を捨て、子供が救いを求めるように戒斗達に頼み込んだ。 「……気が向いたらな……話はそれだけなら俺は行くぞ、何時までも双子に任せているわけには行かない」 「戒斗、シオン達の元に戻るなら飛んでいったほうが早い、掴まれ」 エリックは戒斗の返事を聞かぬまま背中の翼を広げ、彼の腕を掴むと双子の下へ急ぐ。 |