SIDE 双子 感染者の世話をシオンに任せたリオンは目を閉じ意識を集中させる。そして意識を拡散させる。ドーム状に広げ人や『それ以外』のモノの気配を感じ取る。 (ニ・三区画くらい向こうにまだ人がいる……感染者かな?) 片眼だけをうっすらと開きシオンを見る。 「あらかた治療はすんだ。……ま、このあたりだけだが」 シオンはリオンが何かを言う前にリオンが望んでいるであろう答えを返す。 「そう、あっちの方に人がいるみたいだよ。……倒れてるのか、身動きできないのか知らないけど、さっきからまったく動いてない」 普段のリオンなら決して見せないような表情―――怒りとも、なんとも表現しにくい―――を浮かべながら呟いた。 「人か……他は?」 呟きに呟きで返すと、立てかけてあった剣をつかんだ。 「いるよ……何だかわからない気配を発しながら移動してる」 今度はシオンが、目を閉じた。 「敵さんのお出ましだ……しかも」 「戒斗さん達とは正反対の方向から来てるね」 柄を強く握り締め意識を研ぎ澄ませる。 (何なんだ? この異様な雰囲気) 研ぎ澄まさせた先、向けたはずの意識がぽっかりと抜けた感覚に捕らわれる。 「なんとなく、わかるんだけど……」 リオンそれを感じたのか、シオンに言おうとする。 「こいつはやばいな。相手がどう出るかわからない以上。迂闊な行動はできんぞ」 それを先取りリオンに告げる。ぽっかり空いた気配は、ゆっくりとした歩調で戒斗達の(双子はそう思った)方へ進んでいる。 「見るだけならいいんじゃないかな? 偵察程度なら問題ないと思うよ」 ぽつりと呟く。 見ている前方、そこにすべての気配をぽっかりと喪失したモノが視界に入ってきた。古めかしく重厚な東洋鎧―――俗に言う武者装束―――を身にまとった抜き身の刀を手に持った異様な物体。 「と、思ったら、向こうからお出ましか……どうしようかぁ、シオ姉」 トンと地面に杖を突き立てる。 「……今のところは手はださん。出方を見る、そう言っただろ」 シオンは剣を、地面に突き刺す。 『……神……』 低く、とどろくような音が鎧武者の口にあたる部分から漏れ出した。 『神ノ……気配』 かろうじて聞き取れる程の音としか表現できない奇妙な声。鎧武者の有する特殊な領域の中に入ったためか、それの発する強烈な負の力が人を包んでいく。 「ヤバイねぇ……どうしようか〜」 発せられるのは殺意。 「狙いは『神』か」 それを受け鎧武者を睨み返した。 『食ラウ!!』 音と共にまっすぐ飛んだ鎧武者が刀を振るう。 ガキィッン!! 「来るかっ!?」 上段からの一撃と横薙ぎの一閃。それが同時にシオンを襲った。 刀撃を斜めに大剣を傾けることでガードするが、すぐさま重厚な鎧の拳が右わき腹に叩き込まれた 「がっ……グゥッ…!」 一瞬、シオンの意識が飛びかかったが 「シオ姉!」 リオンの叫びで意識をつなぎとめた。反転して距離をとると、剣を構える。 「チィッ!?」 肩をしかめ、敵を睨む 『私が出るか?』 と、シオンのもつ大剣から声が発せられる。 「ダメだ! そんな連続で出すわけにはいかない……」 それを受けたシオンだが前にリオンを使わずに具現したことに加え、ここで具現してしまうとアルヴァイオが失う命の量も計り知れない。 『しかし……』 「今出せばどうなるぐらい分かるはずだ。……それに、お前無しでも俺はいける」 そう言うや否や身の寸ほどもある大剣を軽々と回転させる。回転させる度に剣が細くなっていき、それにともない剣の数が増えていく。強大な力の流れがシオンを中心として集まっていく。 円家に並ぶ計十三本の剣。 「奥義”死演舞”」 その声とともにシオンは飛んだ。 SIDE:戒斗 「確かに勇者には見えないな」 声を発せられるまで、戒斗はその気配にまったく気がつかなかった。廃墟とかした民家の塀から顔を出したのは、鳶色の長い髪を持つ男。 「エリック、いつの間に……」 戒斗は立ち上がり、こちらへと歩いてくるエリックを出迎えた。そこらの軍人や賊よりも人の気配を読むことに長けていると思っていた戒斗ですら、エリックの気配が分からなかった。 「ふふっ、『邪魔者はいなくなった』あたりからかな?」 たいしたことでは無いとでも言うように、エリックはのほほんとそう答えた。 (獣人だから気配を消すのが人間よりも上手いのだろうな) 自然を切り開き生活をする人間よりも、自然を利用しながら生きる彼らのほうが気配をいうものに敏感なのだ。 「気配ぐらいだせ」 「今度からは気をつけよう」 自分の力ではどうにも出来ない種族の違いから来るものとはいえ、手加減をされることが戒斗には悔しかった。そして、それを受け入れることしか出来ない自分の力不足に嫌気がさす。 負けず嫌いで素直なシオンならば、ここで「今に見てろ、お前の気配なんてすぐに分かるようになるからな!」と啖呵を切っていただろう。しかし、戒斗は彼女のように負けず嫌いではあったが、素直では無かった。 (いつか、こいつの後ろに悟られずに立ってやる) 内心では熱い思いを燃やしつつ、口では「あぁ、そうしてくれ」と裏腹の言葉を発した。 「それで、私に聞きたいことがあるのだろう?」 「人の過去に首をつっこむようで悪いが……」 戒斗はそう前置きをし、語尾を濁した。 「……構わない。とはいえ、話せるものならばな」 エリックは一度考え込むと戒斗に視線を合わしてそう答えた。戒斗だって触れられたくない過去はある。 戒斗はどういった経緯【いきさつ】で彼が地球に来たかは知らないが、異界から来たエリックならば、自分以上にその思いが強いだろうと推測する。 しかも、家主と居候とはいえども、会って間もない赤の他人に話せというのは、自分が同じ立場だったら即座に断るだろう。 そこまで考えていながらも、戒斗とてそれを聞かずにはいられない。ディスオーガナイツの仕事として、神については調べなくてはいけないのだ。嫌な立場になったものだ、と自嘲する。 「そう言ってくれると助かる。グリフィードという名前を知っているな」 「あぁ、グリフィード様は私たち空族の守護神だ」 「空族の長が守っていると聞いたが、本当か?」 「空族の長が護衛の役割をはたし、彼の方が宿木としているペンダントは長の証としてその家系の長男が継ぐことになっている」 「そうか。ならば、グリフィードは空族の長が持っていると?」 エリックはその問いに首を横に振った。グリフィードは、探している戒斗が驚くほど近くにある。今、彼の前に立つ自分の首に下げられているのだ。 「違う、族長はペンダントを持っていない」 「お前が、持っているからか?」 けれど、驚いたのは彼ではなく、エリック自身だった。 そんなエリックを見て、戒斗はニヤリと笑みを浮かべた。 |