SIDE 戒斗 ハングレイブ・ディオタールの仕事を終わらせてから、一週間。戒斗はリオンから渡されたダンバッハの二本の短剣をどうするか迷っていた。 いつもなら直ぐに渡しに行っただろうが、こうも日数が経っていると渡しづらくなっていた。その上、連合から来たレナ=リーベの話を聞いてしまったため、この短剣につく宝石が『神』に見えてしまう。 (仕方がない、一度連合に行ってみるか……) 翌日、戒斗は短剣を持ちワープゲートを使い連合の本部、太平洋にある人口島へとやってきた。門前に立つ兵士にディスオーガナイツの証である逆十字にメビウスの輪を彫ってあるブレスレットを見せる。 「どうぞお入り下さい」 門を通りぬけ受付へと行く。 「ディスオーガナイツ、ID01639鳳戒斗だ。科学班の鳳桜、レナ=リーベのどちらかを呼んでくれ」 「畏まりました。少々お待ち下さい」 受付に用件だけを言い、暫く待っていると白衣を着た桜とレナがやって来た。 「よく来たわね、とりあえず移動しましょ」 戒斗は母である桜の後ろをレナの視線をヒシヒシと感じながらついていった。 「それで、いきなりどうしたの? 貴方が自分から来るなんて……」 ソファーに座り、出されたコーヒーを飲みながら戒斗はカバンの中から二本の短剣を取り出しテーブルの上に置いた。赤と青に輝く宝石を見て、桜とレナは驚いた。 「これは、もしかして例の……。アンタが持ってたの?」 どうして自分が来た時に渡さなかったのか、とでも言いたいのかレナは戒斗を睨みつける。 「お前が帰ってから手に入った」 レナに睨まれても怖くもなんともないが、本当のことを言うと後々面倒そうなので戒斗は嘘をついた。 「これが例の物なのか調べて見ましょ。レナ、手伝ってちょうだい」 「わかりました」 桜とレナは短剣を持って部屋を出た。 しばらくして戻ってくると、なんとも言えない顔をしていた。 「本物だったようよ。ただ……神の意志を聞くことができる契約者がまだ見つかってないから、何の神か分からないのよ。神の力だけは感じるけど、ここから先は私達には無理ね」 腰に手を充てながら桜は困ったように溜息をついた。 「そうか。それでその二本はどうするんだ? いつまでも俺は持っていられない」 「分かってるわよ。戒斗が短剣を使うのが苦手なぐらい。その二本はこっちで管理するわ。他のやつも頑張って集めてちょうだいね」 ニコニコと笑いながら桜は手を振った。今度は戒斗が溜息をつく番となった。 「それじゃレナ、戒斗を入口まで送ってあげてね」 桜は二人を残しさっさと部屋を出ていってしまった。残された二人は無言のままだったが、戒斗はコーヒーを飲み終えると、立ち上がり部屋を出ようとする。 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」 「何だ」 レナに呼ばれて振り返った。 「桜さんに頼まれたから、仕方ないから送っていくわよ! 迷子になって、機密が知られたら困るしね。ちゃんとついて来なさいよ」 怒鳴るだけ怒鳴り一人部屋を出ていくレナの後を戒斗は大人しくついていった。 「言っとくけどね。アタシはアンタが嫌いなんだからね。あの優しい桜さんからアンタみたいな奴が生まれなんて……」 (俺が母親を選んだわけじゃない) こういうタイプは返事をすると、また何か言ってくるのだ。戒斗は口にせず、黙って門まで歩いて来た。 「ここまで来ればいいでしょ。後は一人で帰ってよね。それからあの短剣、持ってきてくれて……その、ありがと。さっさと他の『神』も見つけなさいよ」 「言われなくても、俺は自分の仕事をするだけだ」 「アンタやっぱムカツク」 レナは怒ってさっさと奥へと入ってしまった。戒斗も門を出て、ワープゾーンを使いヨーロッパへと帰って来た。 「お帰り。遅かったんじゃん、せっかく人がお仕事持って来てあげたのに」 「なぜお前がいる、ノエル」 ドアを開いて待っていたのはノエルだった。 「だから仕事だって、私の本職の魔法学校でちょっと問題があってね。校長先生が戒斗に依頼したいんだって」 「そうか……それで依頼人は来ているのか?」 「そうだよ、だから早く入って」 ノエルに背中を押され戒斗は家の中に入る。 事務所の方へと行くとソファーに威厳のある初老の男性が座っていた。 「遅くなって悪い。俺がディライアの鳳だ」 「私はレヴァス魔法学園の校長、グロス=ワーズです。本日は我が学園において少々問題がありまして…」 グロスの話によると、レヴァス魔法学園の北にあるもう使われていない教会に魔が住み着いているということだ。 害を与えて来なかったので結界を張っていたそうだ。だが最近、結界を壊され近くにいた生徒が怪我をしてしまったため、流石にこのままではいられなくなった。 しかし学園としてはあまり大袈裟にしたくないということで、騎士団ではなくディライアの方へと来たということだった。 「わかった。その依頼を受けよう。それで俺はどうすればいい?」 「鳳さんには我が学園にノエル先生の補佐としていただきたいのです。三日後からお願いしたいのですが……」 「わかった。三日後だな、武器の持ち込みは?」 「えぇ、ご自由になさってください。ただし、薬品の持ち込みはやめてください」 「大丈夫だ、薬は使わない」 「よろしくお願いします」 グロスは頭を下げ、事務所を出ていった。 「戒斗がわたしの補佐か、考えられないな。でも、楽しみだな〜ちゃんとこき使ってあげるからね〜。じゃあ、三日後の朝に迎えに来るからね、バイバイ」 ノエルは言うだけ言って嵐のように去っていった。 |