その日の夕方、アフリカ遺跡に一匹の鳥が降り立ち、人間の姿へと変わった。
男が呪文を唱えると男の前に扉が現れ、男は扉に手をあて先程とは違う呪文を口ずさんだ。
すると扉が開き、男はゆっくりと扉をくぐっていった。
男がくぐり終えると、また扉は閉まり音を立てずに消えた。
男は自然豊かな地に立っていた。
そこには野生の動物たちが地を走り、空を飛び、水中を泳いでいた。
そんな、風景に男は懐かしむよううに見ていた。
「おい! そこの貴様、どうやってこの地に来た!」
景色に気をとられていたせいか、後ろの者に剣を突き付けられるまで気がつかなかった。
「その声は……フォードか久しぶりだな」
「そ、その声はエリック? 何でここに居るんだよ。地球に行ったんじゃないのか?」
突き付けていた剣を下ろし、フォードと呼ばれた青年は嬉しそうに笑った。
「族長に呼び戻されたんだ」
「そっか。なら、早くエルス殿の元に行った方が良いんじゃないのか? じゃ、またな」
そう言ってフォードは陸族特有の足の速さであっという間に行ってしまった。
それを見送った後、エリックも背中の翼を広げ空へと舞い上がった。
アルタイルに住む獣人の民は当たり前だが部族によって暮らし方が違う。
陸族は広大な大地を駆け回るために集落を転々と移動する。
なので、住宅は直ぐ移動できるように自然とテント暮らしとなる。
逆に水族は水に住む者が多いため住居が水中になる。
そのため客人が来たときだけ陸に出るのだ。
そして、空族は岩壁や大きな木を切り抜きそこに住んでいる。
エリックは懐かしい景色を上空から眺めていると空族の集落が見えてきた。
故郷は相変わらず何も変わってなく思わず見とれてしまったがふと我に返り自分の家に向かった。
「おや? 義兄上。お戻りになられたのですか?」
扉を開け中へ入るなり、階段からシェリルにそう声を掛けられた。
「シェリル……」
「父上でしたら部屋にいると思いますよ」
シェリルはそう言って微笑みを浮かべエリックに道を譲る。
エリックはそんな義妹は微笑を怪訝に思いながらも二階へと上がった。
義父の部屋の前で深く深呼吸した。
昔から義父は苦手だった。
両親が地球に行く為に父の弟であるエルス族長に預けられ、ここまで育てて貰ったが、今まで私をシェリルと同じように見られたことがない。
ましては、私を使用人として育てた義父を好きになれるはずもない。
それでも意を決し義父の扉をノックした。
「義父上、エルリックです」
「エルリックか、入れ」
部屋から威厳のある声が掛けられゆっくりと部屋に入る。
「エルリック、良く帰ってきた。早速だが、会議に付き合え。これは命令だ」
すれ違う瞬間にそう告げられ、慌てて義父の後を追った。
獣人の民がいつも会議を開く集いの場に着くとエリックは義父の後ろに立った。
「さて、では会議を始める。水族、陸族ともに結論を言ってもらうか」
義父のその声で会議が始まり水族、陸族が共に人との交流を求めるという結論をだした。
後は空族が同じ答えを出せば獣人のエリアとアフリカを繋ぐ扉が開放される。
エリックは義父の答えを息を飲んで待った。
「やはり、そなた達はそういう結論を出したか。私たち空族は三同盟から抜け……新たなる指導者の下につくことにした。もうこの地にいる空族は私と息子だけだ」
エルスの言葉に水族と陸族は思わず立ち上がった。
エリック自身、顔には出さなかったが驚いた。
エルスはその反応を予測していたかのように、状況を掴みきれず立ち尽くしているエリックを置いてその場を去っていった。
暫く立ち尽くしていたエリックはふと、水族と陸族の長の冷たい視線に気付き、それから逃げるようにエルスの後を追った。
「義父上! どうゆう事ですか、同盟を抜けるとは……」
エリックはエルスの前に降り立ち翼を仕舞いエルスに問い掛ける。
「聞いての通りだ、エリック。お前も空族の一員なら私たちと共に来い。その為にお前を呼び戻した。どうした、私達と共に来れば両親の敵討ちが出来るのだぞ」
そう言ってエルスはエリックに手を差し出す。
今ここでエルスの手を取れば、両親の仇が取れる……が、エルスの手を取ることは今まで世話になったダンバッハ総帥を裏切る事になる。
エリックは悩んだ末、エルスの手を払った。
「……お断りします。私は水族、陸族と同じように人間と共に生きたい……それで裏切り者と呼ばれようとも、私はそれを喜んで受けます。それが私の意思だから」
そんな息子をエルスは冷めた瞳で見ていた。
「愚かな……どのみちお前は他の部族でも裏切り者だ。そんなお前が空族から離れて何が出来る? それにお前は居なくてはならないのだよ。あの方の元に行く時にな……エリックを捕らえよ!」
エルスの合図で物陰に隠れていた空族の戦士達がエリックを捕らえようと襲いかかってきた。
それをエリックは上手くかわしながら翼を広げ空へと逃げた。
その後を空族の戦士達が追う。
戦士達はエリックを殺さないように翼だけを狙い攻撃していた。
やがて、エリックは地球とアルタイルを繋ぐ門に辿り着くと、その門に来た時と同じように早口に呪文を紡ぐと扉へと突っ込んだ。
そして、エリックを追っていた戦士達の目の前で扉は閉まった。
「早くここから離れなければ! もう、ロシアには戻れない……ヨーロッパにでも身を隠すか……」
エリックは完全な鳥になりヨーロッパへ飛んでいくが、仲間の攻撃のせいで体の所々が傷つき血が滲んでいた。
何日か休まず飛んでヨーロッパに辿り着いた、その事を安堵した瞬間、エリックは気を失い本来の姿である獣人の姿で倒れた。
そんな体を冷たい雨が打ちつけた。
ACT.15 一時の、帰還 END |