SIDE 双子
エフェリオ遺跡はかつて「エフェリオ聖神殿」と呼ばれ、とある宗教の聖地とされていた。
しかし、今はその大半が砂に埋もれその中にある美術品や宝石をダンバッハの作業員が天井に穴を開け掘り出し、その一部を美術館に寄贈している。
「しかし、ダンバッハは運が良いね、麻薬や銃の密輸で稼いだ金で買った土地から大量の宝が出て来るんだもん」
リオンは近場の岩に座り戒斗から受けた傷を治しながら行った。
それをシオンはただ黙って聞いていた。
「おや? シオ姉はだんまりですか? 精神統一? それだけ負けた事がショックだったの?」
「黙れリオン!」
シオンは怪我を負っても平気そうに笑っているリオンを睨みつけるがリオンは尚も平然としている。
「怖い怖い。僕はただリラックスさせようとしただけだよ」
リオンは怪我をある程度治すと自分の隣に置いた。
「でも、シオ姉。彼を舐めていると痛い目を見ると思うよ」
「あぁ、分っている。だから俺もアイツには全力を出す。リオンお前は手を出すな」
リオンにそういうと自分は愛剣を目の前に構え、一度目を閉じ再度開けると勢い良く剣を振るう。
「だから俺に力を貸してくれアルヴァイオ!」
『承知。私はその為にお前の元に居る。例えこの身が朽ち様とも私は――シオン、お前に力を貸し続けるのみ』
シオンはその言葉に頷きアルヴァイオを大事そうにしまう。
「アルヴァイオもやる気みたいだね、シオ姉。だけど分ってるよねアルヴァイオの封印を解くたびにアルヴァイオの命が減る事」
「あぁ、忘れはしないさ、しかしあのディライアには使ってしまうかもしれない。アルヴァイオは良いと言ってくれたが出来れば使いたくはないな」
シオンはアルヴァイオを撫でながらいう、その目には決意の炎が灯っていた。
「そう、……あっ、シオ姉来たみたいだよ」
リオンが言われそちらを向くと遠くにこちらに向かってくる人影が見えた。
SIDE 戒斗
戒斗は二人の人影を見つけ足を止めた。
「何のようだ? わざわざこんな所に呼び出して」
シオンに向けて言うが、黙ったままアルヴァイオを手にし、戒斗へ剣先を向ける。
「……だんまりか」
戒斗も日本刀を構える。
その後はお互い言葉はいらない。
二人は向き合い、自然とその刃が交わる。
キィンと金属音が鳴る。
二対一で不利かと思った戒斗だがリオンと名乗る少年は全く手を出そうとはしない。
シオン自身がそれを望んだのか、それともシオン一人で倒せるほど弱いと思われているのか、前者はともかく後者だった場合、絶対に負けられないと戒斗は思った。
(どちらにしろ、負けるつもりはないけどな)
以前会ったときよりも、強く……と言うよりも隙は無くなっていた。
だが、倒せない相手でもない。
戒斗は走りだしシオンの懐へと刀を振るう。
「クッ――!」
ギリギリの所でシオンは刀を止めるが、剣を通して振動が手ヘと伝わり顔を歪めた。
「これで終わりだ」
刀でシオンの大剣を押さえ付け、空いた左手をシオンの腹部に当てる。
チクリ、と小さな痛みと共に、シオンは意識が遠くなるのが分かった。
アルヴァイオを握る手すら力が入らず震えてしまう。
シオンに薬が効いてきたのが分かると戒斗は後ろへと飛びシオン距離を取る。
「眠くなってきただろ、日本でしか育たない薬草から出来た即効性の睡眠薬だ。体には害は無いから安心しろ」
「負ける……わけには……いかないんだ……」
ボソボソとシオンが何か言っていたが、戒斗は言葉まで聞き取れない。
「リオン!」
「わかってる」
不思議に思っていると、シオンが弟の名を呼んだ。
リオンが戒斗の分らない言葉で呪文を唱えるとシオンの持つ大剣が光を放つ。
慌てて左腕で目を庇う。
やがて光りが治まり腕を下げてみるとそこには一人の男が立っていた。
(コイツは!?)
「悪い、アルヴァイオ」
「気にするな。それよりお前は自分の心配をしろ」
アルヴァイオは血に染まるシオンの手を見て優しげに言う。
「眠気を飛ばす為に自分で切ったの!? 無茶しすぎなんだよ。シオ姉」
リオンは傷の手当てをしようとシオンへ近づくが、シオンに睨まれ近づくのを止めた。
“お前は手を出すな!”とシオンの瞳が物語っていた。
リオンは仕方ないなぁ……と肩をすくめて三人から離れた。
|