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小説(魔法少女リリカルなのは:二次創作)
第30話 『お姉ちゃん 2』





 さて、紆余曲折あって姉ちゃんの家にティアナ達4人と一緒に泊まることになったのだが。


「これは家族で遊園地に行った時の写真だな。
 ハヤトはこの時ヒーローショーが目当てだったらしくてな、ヒーローショーが休みだと知ると泣きじゃくって、可愛らしい泣き顔を見せてくれたものだよ」

「わ〜、ハヤトちっちゃ〜い!」

「お兄ちゃん、可愛いです」


 何この羞恥プレイ。
 姉ちゃんはどこからか取り出してきたアルバムをリビングの机の上で開いて、ティアナ達に昔話をしている。
 やめて姉ちゃん! 俺の精神がガリガリ削られてるからやめて!!
 このままじゃ再起不能になるから!!


「こっちは訓練校に入学する直前だな。
 ふふ、凛々しい制服姿だろう? この写真だけでご飯10杯はいけるな」

「いや……それは、ハヅキさんだけだと」


 やめてくれ! 頼むからやめてくれ!
 もう俺のライフは0よ!


「に、兄さん……大丈夫?」

「エリオ! お前最高! お前みたいな弟分がいて俺は幸せだよ!!」

「そ、そんな……大袈裟だよ」


 俺を唯一気遣ってくれたエリオを抱きしめる。
 女共は当てにならん! 弟分が居るって最高!
 今度好きなゲームを買ってやろう!!


「あぁっ!? ハヤト、何故エリオを抱きしめている!?
 お姉ちゃんも抱きしめてくれ!!」

「やべっ、見つかった!」

「エリオずるいぞ! どうやってハヤトに抱き着いて貰ったんだ!?
 私は今日一度も抱きしめてもらっていないのに!!」

「え、いや、僕は別に……」


 そうやってエリオに詰め寄る姉ちゃんから黒いオーラが立ち昇る。
 いかん、姉ちゃんがジェラシー全開になったら、いくら俺でも止められんぞ。
 そうなるとエリオが危ない。主に生命的な意味で。
 仕方ない、ここは恥ずかしいのを我慢して……。


「わかった。姉ちゃんも抱きしめてあげるから、おいで」

「ハヤト……ようやくデレてくれたんだな!
 お前の絶妙なツンデレに、お姉ちゃんはメロメロだ!」

「ツンデレじゃねぇよ……」


 単純に恥ずかしいんだよ。
 お願い、そこんとこわかって姉ちゃん。
 俺は、抱き着いてきた姉ちゃんを抱きしめつつ、諦観の息を漏らした。


「さあ思う存分お姉ちゃんを抱きしめてくれ! それはもう背骨がへし折れる位に!!」

「死んじゃう、いくら姉ちゃんでも死んじゃうから」

「お前に殺されるなら、お姉ちゃんは本望だ!!」

「もう、嫌だ……(泣)」




●魔法少女リリカルなのはStrikerS 〜とある新人の日常〜
 第30話 『お姉ちゃん 2』




「姉ちゃん、もういい?」

「駄目だ! もっと! もっとキツく抱きしめてくれなくちゃ駄目だ!」

「いや、もう何だかんだで30分近くこのまんまなんだけど……」


 姉ちゃんの暴走を抑える為に抱きしめて早30分が経過した。
 正直つらい。
 何がって、さっきまでアルバム見て人の過去を肴にワイワイやっていたティアナ達が、今は全員そろって生温かい目でこっちを見てることが。
 何この公開処刑。いっそ一思いに殺せ。

 ていうかそろそろ冗談抜きで精神的に死ねる。
 ここは交換条件を出して離れてもらおう、そうしよう。


「姉ちゃん、恥ずかしいから離れてくれ。代わりに言う事一つ聞くから」

「ならばこのまま抱っこを継続だ」

「それ以外で」

「むぅ……わがままだなハヤトは。だが、そんなところも愛おしいぞ!」

「はいはいありがとう。それで何にする?」

「そうだな……なら、明日帰るまで、昔みたいにお姉ちゃんと呼んでくれ!」


 何だ、その程度ならば問題ない。
 どれ早速……ってティアナ達は興味津々の目でこっちを見るな。
 うわ、なんだか恥ずかしくなってきたじゃねぇか……だけど、このまま抱き着かれてるよりはマシなのか?
 えぇい、ままよ!


「……お、お姉……ちゃん」

「ぶはっ!!」

「うおぉぉっ!?」


 呼んでみたら姉ちゃんが鼻血を噴出しながら吹っ飛んだ。
 え!? ちょっ、何コレ!?


「ハ、ハヅキさん!?」

「どうしたんですか!?」

「姉ちゃん!?」


 慌てて駆け寄ると、姉ちゃんは滝のように鼻血を流しながらポロポロ涙を零していた。
 何それ気持ち悪っ!?
 ティアナが慌てて姉ちゃんを膝枕して話しかける。


「大丈夫ですかハヅキさん!?」

「な、なん、何という破壊力!
 私は今至高の快楽に襲われている! 言葉に出来ん! 何だこれは!?
 名前を呼ばれただけでコレだと言うのか!?」

「意味わかんねーっ! と、とりあえずキャロ! 治癒魔法! 治癒魔法を早く!!」

「は、はいっ!!」


 失血死しかねない量だったので、とりあえずキャロに頼んで治癒魔法をかけてもらう。
 そして鼻血が止まったところで鼻にティッシュを詰めて、頭に冷えピタを貼り付ける。
 服とか床が血まみれじゃねぇか。
 ここに管理局来たら確実に事件だと思われるぞコレ。

 落ち着いた姉ちゃんはヨロヨロと立ち上がり、俺を恐ろしいモノを見る目で見てきた。


「恐ろしい、いくら久しぶりとはいえ萌え死にしかけるとは……。
 さすが我が愛しの弟だ……。
 まさに天にも昇る気持ちになってしまったではないか、この萌え萌えハヤトめ」


 萌え萌えハヤトって何ですか。俺はただのハヤトですよ。
 姉ちゃん、鼻血と一緒に脳味噌も出ちまったか?


「すまないハヤト、自分から言い出したことだが、もうお姉ちゃんはやめてくれ。
 これ以上は本当に死んでしまう……。
 その変わり、ティアナとスバルを“愛しい俺の”を付けて呼んでやってくれ。この2人にも、愛しいお前の素晴らしさを教えてやりたい。
 あと、呼べなかったら抱きしめさせてください」

「「「はあああっ!?」」」


 まさかの二次災害。
 てか姉ちゃん、何故にティアナとスバル?
 しかも“愛しい俺の”とか付けるとかマジあり得ないんですけど。
 そんなのティアナ達だって嫌に決まって――


「ま、まぁ、この状態のハヅキさんに負担をかけるわけにはいかないしね。
 べ、別に呼んでも構わないわよ?」

「そ、そうだね。しょうがないよね」

「何で乗り気やねん!」


 反対すると思っていた2人は顔を赤くしてこっちに期待した視線送ってるし。
 なんなのホント。馬鹿なの? 死ぬの?
 
 だが……俺の横には、いつでも抱きつく準備をしている姉ちゃん。
 はァん、俺が絶対にできそうに無い事を言って、それを理由に抱き着くつもりか。
 そうはいかねーってばよ。
 何、一度呼ぶだけ。それに深い意味なんぞねぇんだから楽勝に決まってる。

 そう自分に言い聞かせて口を開く。


「い、愛しい俺の……ティアナ。それと、愛しい俺のスバ……ル」


 ごめん、俺が甘かった。
 軽く死ねる程に恥ずかしい。


「「愛しいッ!?」」

「うぼぁっっ!?」


 そしたら、今度は2人も意味不明な声と共に鼻血を出して吹っ飛びやがった。
 何なのソレ流行ってんの!?


「あわわわわ……」

「うわわわわ……」

「メディック! メディーック!!」

「は、はいぃぃぃっ」


 ボタボタと鼻血を垂らしてる2人に、キャロを呼んで治癒魔法をかける。
 お前らも姉ちゃんもなんなの!? 鼻血で失血死するのが流行なの!?
 普通にこえぇよ! キャロとかちょっと半泣きじゃねぇか!!


「ちぃっ!」


 そんで姉ちゃんは舌打ちしてるし!
 俺に抱き着く気マンマンでしたね!?
 てゆーか鼻血塗れで抱き着こうとすんなよ! 俺の服まで汚れんだろうが!


「ああもう! 姉ちゃんもティアナもスバルも着替えてこい!
 こっちの掃除は俺がやっとくから!!」

「「「ふぁい」」」


 3人は頷いて、鼻にティッシュを詰めるという情けない格好で姉ちゃんの部屋の方へと消えていった。
 年頃の女の子がする格好じゃねぇよ。
 何で俺の周りはこう……変な奴ばっかなんだ。


「類は友を呼ぶ、だと思います。お兄ちゃん」

「キャロ、お前酷いな」


 妹分の辛辣な言葉に、心が折れそうになった俺である。


 ◇◇◇◇◇


 姉ちゃん達が帰ってくるまで、床に飛び散った鼻血の掃除をする。
 何で折角の休日にこんな事してるんだ俺は。
 やっぱり来なけりゃよかった。


「はぁぁぁぁ……」

「兄さん、その、気を落とさないで」

「お兄ちゃん、元気出してください」

「お前らはホントいい子だな。俺は嬉しいよ」


 一緒に掃除をしてくれているエリキャロの優しさに涙する。
 俺はいい弟と妹を持った。
 姉ちゃんの気持ちがちょっとだけわかった気がするよ。


「それにしても、ハヅキお姉さんて、いつもあんな感じなんですか?」

「そうだなぁ。俺に関する時だけはいつもあんなかな。それ以外じゃすげー優秀な人なんだぞ」

「へぇ」

「101部隊でも『女帝』なんて呼ばれてるくらい厳しい人なんだ……俺が絡まなきゃ」

「あ、あはは……」


 キャロとエリオに苦笑いされながら、姉ちゃんの評判を語っていく。
 基本的に人にも自分にも厳しくて、かつ誉めるべき時は手放して誉めるってんで人気は高いんだよなぁ。
 AAAって魔力ランクを鼻にかけることもないし、何より部下の面倒見がいい。
 本当ならもっと上に行っててもいい人なんだけど、「現場がいい」って断り続けてどんどん部下に階級を抜かされてるらしい。まあ、そのせいで一部の上官は姉ちゃんに頭が上がらないらしいけど。


「ホント、俺には出来すぎた姉ちゃんだよ」

「ふふ。お兄ちゃんは、ハヅキお姉さんのこと好きなんですね」

「ん? そりゃそうだろ。俺の姉ちゃんだもの、何されたって嫌いにはならねぇよ。
 キャロだって、ハラオウン隊長に何されても嫌いにはなれないだろ?」

「勿論です」


 誇らしげに笑うキャロ。
 うんうん、愛されてますねハラオウン隊長。
 帰ったら報告してあげよう。きっと泣いて喜ぶだろう。
 今気付いたけど、ハラオウン隊長と姉ちゃんて同じ種類の人間だよね。程度の違いはあるけどさ。

 ……くぅ


「「「あ……」」」


 そこで、小さくて可愛い音がキャロのお腹から響いた。
 あー、そういやもう7時か。いつもなら晩飯食ってる時間だもんなぁ。
 とはいえキャロも年頃の女の子、腹の虫が鳴ったのを聞かれたのは恥ずかしいだろう。
 俺はエリオとアイコンタクトをして、お互いに無視することを決めて口を開く。


「な、何か腹減ったなエリオ?」

「そ、そうだね兄さん。ちょっとお腹すいたね」

「じゃあ俺が何か作ってやるよ。どうせだし、今日の晩飯は俺が用意するからさ」

「あ、それなら僕も手伝うよ」

「どうせならちゃんとツッコミしてください! 逆に恥ずかしいですぅっ!!」


 2人でキャロに怒られた。
 その後、エリオと協力してなんとかキャロに機嫌を直してもらい、3人で晩飯の用意をすることに。
 さて、何を作ろうかねぇ。



 side:ティアナ=ランスター


 ハヅキさんの部屋で、血まみれになった服を脱いで、ハヅキさんから借りた服に着替える。
 不覚だったわ。まさかハヤトに“愛しい俺の”を付けて名前を呼ばれただけで、鼻血を吹くことになるなんて。
 でも、あれは反則だと思う。


「服はキツくないか?」

「あ、はい。大丈夫です」

「むしろ胸の辺りが余って……」


 言うなスバル、悲しくなるじゃない。
 実際、ハヅキさんの服はどれも身体にピッタリ張り付く感じの服ばっかりで、しかも胸の辺りだけがかなり伸びてたりしていて、あたしやスバルが着ると微妙にダブついてしまう。
 く、屈辱的だわ。

 ハヅキさんは、そんなあたし達をYシャツ一枚を羽織っただけの格好で見ている。
 Yシャツ一枚だけになると、ますます胸が目立つわね。あんなに大きいくせに、下着無しでも全然垂れてないし。
 …………悔しくなんか、ないんだから。


「えぇと、ハヅキさん。他の服は……」

「私の服でティアナ達が着れそうなモノは、あまり無いぞ?」

「あ! ならハヤトの服を――「却下だ」――そうですか」


 スバルの提案は光の速さで却下された。
 少し残念……なんかじゃないわよ!?
 別にアイツの服なんか着れなくてもいいんだからねっ!?


「全く。いくら私の愛しいハヤトに恋しているとはいえ、私相手にハヤトの物を借りようなどと命知らずな」

「いえそんな……って、えぇぇっ!?」

「な、ななななぬを、じゃなくて何を!?」

「うん? 何を慌てている?」

「だ、だってハヅキさん、今……あたし達がハヤトにこ、ここ恋してるって!?」


 不思議そうな顔をしているハヅキさんを、あたしとスバルは揃って赤い顔をして見つめる。
 な、何でバレたの!?
 別にバレるような事は何も言ってないし、やってないわよね!?


「ああ、私の“弟に近寄る女レーダー”に反応したのでな」

「「レーダー!?」」


 ちょっ、ハヅキさんて人間よね!?
 レーダーって何よレーダーって!!


「本来なら、是が非でも妨害するところなのだが……アイツが気に入っている君達2人ならば、まぁ、大目に見てやらんこともない。ハヤトもそろそろ彼女が欲しい年頃だろうしな」

「えっと……」

「その、いいんですか?」


 カラカラと笑うハヅキさんに、恐る恐る問いかける。
 今日一日のハヅキさんが取った行動からすれば、ちょっと信じられない。
 てっきり「弟に近付く悪い虫は駆除しなければな」とか言って、ボコボコにされるかと……。


「私は弟を愛しているが、縛り付ける気はないからな。
 ハヤトが嫌がっているならともかく、嫌がってもいないのに君達を妨害する意味もないだろう」


 笑ったままそう告げるハヅキさんを見て、敵わないなぁ、と思う。
 あたしがもしハヤトと恋人同士になったら、こんな風に思えない。
 これが、姉弟と他人の“愛”の違いなのかな……ちょっと、悔しいかも。
 あたしはハヅキさんを見て、そんな自分の気持ちを誤魔化すように苦笑した。


『姉ちゃ〜ん、ティアナ、スバル、飯出来たぞ〜』

「なにぃぃぃっ!? ティアナ、スバル! 服はそこいら辺の物を適当に着てこい!
 私はハヤトが私の為だけに作ってくれた料理を堪能せねばならん!!
 あ! だからと言ってハヤトの服は着るんじゃないぞ!?」


 そうしていると、ドアの向こうからハヤトの声が聞こえてくる。
 途端にハヅキさんは喜色満面になって、あたしたちに吐き捨てるように言ってから、Yシャツ一枚を羽織ったままで部屋を飛び出していく。
 ……なんで、この姉弟はこうギャップが激しいのかしら。
 ちょっと尊敬した途端にこれだもの……はぁ。


「ティア〜。服、適当にって言われたけど……どうする?」

「どうって……大きめの服を借りて着ましょ。あんまり身体のラインが目立たないのを選んでね」

「そう、だね。あんまり惨めな思いはしたくないし……」


 なんだか、酷くテンションが下がったあたし達であった。
 くっ……なんで服を借りるだけでこんな思いしなきゃいけないのよ!


『ハヤトハヤトハヤトハヤト〜〜〜っ! お姉ちゃんの為に愛情を込めて手料理をつくってくれたんだなぁっ!
 お姉ちゃんは嬉しさのあまり死んでしまいそうだ!
 あぁ、ハヤトハヤトハヤトハヤト〜〜〜っ!!
 もう辛抱たまらんもじゃーーーーーっ!!!』

『うぉぉぉぉっ!? ね、姉ちゃんなんでそんな格好な訳!?
 ちゃんと着替えてからにしてくれよ! エリオとキャロの教育に悪いだろうが!!』

『ハ〜〜〜ヤ〜〜〜ト〜〜〜〜ッッ!!!』

『聞いてねぇぇぇぇぇっっっっ!!?』

『兄さーーーんっっ!!』

『お、お兄ちゃんが大変なことにっ!?』


 ドアの外からは、物凄く酷い声が聞こえてくる。
 ホントにあの姉弟は……。
 あたしは深い溜息を吐いてから、なるべく大きめのサイズの服を選ぶ。
 とりあえず、ハヤトを助けてあげなくちゃ。


 side:ティアナ=ランスター 了






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