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小説(魔法少女リリカルなのは:二次創作)
第3話『部長の正体 1』





「あの、高峰部長?」

「ん? どうしたよティアナ」


 自分の前を歩く隼人に向けて、ティアナが不安そうな表情で問いかける。
 問われた隼人は足は止めずに首だけを動かして後ろを振り返り、ティアナに声をかけた。


「あの、本当に保健室に行くんですか? 近くのショップとかじゃなくて?」

「保健室だな。ショップは人多いから待たなきゃならんだろ、俺待つの嫌い」

「いや嫌いとかじゃなくて、保健室でブレイブデュエルなんて出来ないじゃないですか」


 ブレイブデュエルを行うためには、大型のシミュレーターが必要となる。広さも相当なものが必要となるため、とてもではないが学校の保健室で行えるようなものではないのだ。
 そのためブレイブデュエルを行えるのは大型のゲームショップなどに限られており、全国のブレイブデュエル部に所属する高校生が練習をする時は最寄りのブレイブデュエルができるショップに行ってやるのが普通である。


「それが出来るんだよなぁ」

「保健室は前に見たことありますけど、ブレイブデュエルのシミュレーターなんてどこにも……」

「あー……なんつーかな。アレは見た方が早いんだよなぁ……ま、とにかくついてくりゃわかるから」

「えぇ〜……」


 見た方が早いと言いつつも、どちらかと言えば説明が面倒臭いというのがありありとわかる隼人の言葉に、ティアナは不信感を浮かべた顔で声を漏らし、自分の隣りを歩くチンクに視線を向けた。隼人はともかくとして、チンクならばきちんと説明してくれるだろうと思ってのことだ。
 しかしチンクはティアナの期待に反して、苦笑と共に肩を竦めるだけだった。


「すまんが、私も口で言うより見た方が早いと思うぞ。ちょっと口では説明し辛いのでな」

「そう、ですか。まぁチンク先輩がそう言うんだったら」

「なぜチンクにばかりそんな信頼を置くのか。部長として遺憾の意を表明せざるを得ない」

「……お前はまず普段の行動と言動を思い返しておけ」

「にょろーん」


 自分の時にはあれだけ反論したというのに、チンクに同じことを言われるとあっさり引き下がるティアナに隼人が抗議の声をあげるがチンクに一言で封殺される。
 そうこうしている間に隼人達ブレイブデュエル部一行は、部室棟を出て校舎1階にある保健室へとやってきた。


「うーし全員いるなー。それじゃ入るぞー」


 隼人が後ろに全員ついてきていることを確認して、軽く保健室のドアをノックしてから開く。


「しっつれーしまーす」

「失礼します」

「……あら、いらっしゃい」


 気楽すぎる隼人の挨拶と真面目なチンクの挨拶に、保健室の中にいた人物が入口を振り返る。
 その動作に合わせて、緩いウェーブのかかった薄い紫色のロングヘアーが風になびき、夕日に照らされて美しくきらめいた。そして自分たちを見つめる切れ長の目と金色の瞳に、思わず隼人とチンクを除いた新入部員たちは息を呑む。


「ウーノ先生こんちゃーっす。今日は新入部員つれて遊びに来ました」

「うふふ、新入部員だなんて斬新な嘘ね高峰君」

「いやホントですから。ほら、ちゃんと連れてきてるでしょ!」


 隼人の挨拶に美しい微笑みを浮かべて毒を吐く女性。彼女の言葉に、隼人は不満そうな顔をして自分の後でいまだに女性に見惚れているティアナ達を指し示す。


「……誘拐?」

「してねーですから!」

「冗談よ。昨日チンクから聞いていたもの、よかったわね高峰君」

「ぐぬぬ……」


 からかわれてムキになって反論する隼人にクスクスと小さく笑いを零しながら、女性は立ち上がってティアナ達の前へと進み出る。比喩表現でなく、文字通りモデル顔負けのスタイルをした女性が近寄ってきたことで、見惚れていたティアナ達が気圧されたように一歩下がった。
 しかし女性はそんなティアナ達に気を悪くした様子もなく、再び微笑んで口を開く。


「いらっしゃい、ブレイブデュエル部新入部員の皆。私はウーノ=スカリエッティ。見ての通り保険医で、ブレイブデュエル部の顧問をさせてもらっているわ。これからよろしくね」

「は、はひっ!」

「……って、あれ? スカリエッティ?」

「それってチンク先輩たちと一緒ですよね?」


 女性――ウーノの微笑みに緊張のあまり変な返事をしたティアナ達新入部員。
 だが、ウーノの名前に聞き覚えがあることに気付いたのか、チンクの方へと視線を向けながら声を漏らした。その視線を受けたチンクは聞かれるのがわかっていたのか、苦笑を浮かべてそれに答えた。


「ああ、私達の姉さんだよ」

「似てないよな。身長とか胸とか」

「よし隼人、あっちで少し話をしようか。大丈夫だ歯の2本くらいで許してやる」

「こえぇよ!」


 漫才をやっている隼人とチンクはさておいて、驚きと緊張で固まっているティアナ達に苦笑を浮かべ、とにかく話を続けようと問いかけた。


「ここに来たってことは、今日は皆で練習かしら?」

「えと、はい。高峰先輩にここでやるって聞いたんですけど……」

「シミュレーターとか、ないですよね?」

「それはそうよ。ここは保健室だもの」


 くすくすと笑うウーノに、ティアナ達は困惑とやっぱりなという色を隠せない。恐らく顧問への顔見せが目的で、このあショップに移動してそこで練習するのだろう。なにせブレイブデュエルをやったことのないエリオとキャロがいるのだから、ショップに行った方が正論というものだ。
 そう彼女たちが納得しかけたところで、ウーノの言葉が続く。


「シミュレーターがあるのはここの下よ。保健室にシミュレーターがあったら邪魔じゃない」

「……え?」

「チンクも高峰君も、ちゃんとした説明をしてないのね……困った子たちだわ」


 ため息をついてまだ漫才を続けている2人を見つつ言葉を漏らし、まぁいいかとウーノはティアナ達に視線を戻す。


「まぁここに来たのだし、見てもらったほうが早いわね。それじゃあ皆、そっちに集まってくれるかしら?」

「そっちって……あのベッドのところですか?」

「そうそう。そっちよ」


 混乱したままウーノの指示に従い、ティアナ達は保健室の隅――2つ並んでいるベッドの右側へと集まる。それを確認するとウーノは保健室にある自身の机から何やらボタン取り出し。


「それじゃあ、行ってらっしゃい」


 という言葉と共にボタンを押す。
 その瞬間――


「えっ!?」

「わぁっ!?」

「うっひゃあああぁぁぁぁぁぁ……!」


 ――ティアナ達のいる場所の床が、ガコンッ! という音を立ててすっぽ抜けた。




●魔法少女リリカルなのはInnocent 〜デュエルの王女様〜
 第3話 『部長の正体 1』




「ぁぁぁぁぁあああああ……ぎゃふんっ!」


 すっぽ抜けた穴の下は滑り台となっており、叫びながらその滑り台を落ちるだけ落ち、女の子らしくない叫び声と共に最初に着地したのはスバル。悲鳴を上げてはいるものの、着地点にあったクッションがかなり高性能なものだったのか、衝撃はほとんど感じずまるで羽毛に包まれたような感触で彼女を受け止めている。
 そしてスバルに続き、ティアナ・ノーヴェ・ウェンディ・シャーリー・エリオ、キャロの順で順番に新入部員達が上から滑り落ちてきた。


「……なんなのよ、もぉ」

「痛……くはないけど、びっくりしたッスねぇ」

「ウーノ姉、ぜってーわざとやったろコレ」

「めがねめがね……」

「けっこう楽しかったね、エリオ君」

「そうだね、キャロ」


 思い思いの感想を言いつつ立ち上がるティアナ達。そしてあたりの様子を見ようと視線を移し――


「う……わぁ……」

「すっげぇ……」


 全員が、そこに広がる光景に感嘆の声を漏らした。
 そこにあったのは、一般的なショップと比べても決して見劣りしない……どころか、むしろショップより充実しているんじゃないかと思うほどの数が揃えられたブレイブデュエルのシミュレーター。
 ティアナ達が全員で使ってもまだ余りがあるほどで、それが体育館と同じくらいの広い空間に所狭しと並んでいる。
 彼女たちでなくとも、この光景を見たら似たような声を漏らしていただろう。


「チンク先輩の言ってたのって、コレだったんだ」

「いくらなんでも、こんなの凄すぎ……」

「こりゃ確かにショップに行く必要ないね〜」


 シミュレーターに目を輝かせるスバルとシャリオに、いまだ目の前の光景が信じられないのか茫然としたまま呟くティアナ。ノーヴェとウェンディも似たような反応で、エリオとキャロの2人に至っては、まるで初めて玩具を買ってもらった子供のように目を輝かせて凄い凄いと飛び跳ねていた。
 そして、彼女たちの反応を待っていたかのように、今度はチンクと隼人の2人が滑り台を降りてくる。


「ぐぇっ」

「……なぜお前は毎回着地をミスるんだ。もう3年目だぞ」


 きちんとスカートを押さえて綺麗に着地したチンクとは対照的に、隼人はさっきのティアナ達のように潰れたカエルのような悲鳴を上げて頭からクッションにつっこんだ。
 それを見てチンクは呆れたようにため息を吐くものの、すぐに隼人を無視してティアナ達への向き直る。


「さて、手荒い招待ですまなかったな新入生諸君。
 その顔だと、すでに見てもらえたようだが……ここが我ら海聖高校ブレイブデュエル部が誇る、超巨大シミュレータールームだ。どうだ? 言葉で聞くより、実際に見た方がよかっただろう?」


 悪戯を成功させた子供のように笑うチンクに、ティアナ達は並ぶシミュレーターを眺めながら「はぁ」と気の抜けた返事を返すだけで精いっぱいだった。
 それだけ目の前に広がる光景は凄いもので、彼女たちはただただ圧倒されるばかりだ。


「実はウーノ姉さんの旦那様――うちの高校の教師なんだが、この人がブレイブデュエルシミュレーターの開発者をやっていてな。その人がブレイブデュエル部のためにと、このシミュレーターを作ってくれたんだ。
 ああ、性能については心配しなくていいぞ。最新のシミュレーターと比べても見劣りはしないからな。今日は来ていないがその人もブレイブデュエル部の顧問でな、そのうち会うこともあるだろう」


 いくら古豪と呼ばれた海聖高校とはいえ、ショップ顔負けの設備がこれだけ揃っている理由をチンクがどこか楽しげに解説するものの、ティアナ達は話半分だ。
 キャロとエリオは単純に充実した施設に圧倒されているものの、ブレイブデュエルをやったことがないので、このシミュレーター群の凄さはいまいち理解できてないらしい。


「いつまでも見ているだけというのも楽しくあるまい。
 どうだ? せっかくだ、ティアナ達経験者は歓迎会も兼ねて一戦やってみないか?」

「いいんですか!」

「マジで!? いいのか、チンク姉!」


 自分の話がほとんど聞こえていない様子の彼女らに小さく笑いながら、シミュレーターを使ってみないかとチンクが持ちかける。すると、その言葉に誰よりも早く飛びついたのはスバルとノーヴェ。とはいえ、キャロとエリオ以外の新入部員たちもチンクの提案に目を輝かせている。
 ショップならば並ばないと使えないような豪華なシミュレーターを貸し切り同然で使える、というのだからその興奮もわからないではない。


「それから、そちらの2人は私が簡単にブレイブデュエルを解説しよう。
 うちの馬鹿な部長は何も説明していなかったようだからな。入部するかどうかは、それから決めてくれて構わない」

「は、はい!」

「よろしくお願いします、先輩」


 半ば隼人によって無理やり連れてこられたに等しいというのに、それでも真面目にブレイブデュエルの解説を聞こうとするエリオとキャロ。非常に良い子ではあるが、同時にちょっと心配でもある。なんか将来壺とか買わされそう。


「じゃあどういう風にやろうか、5人だから個人で総当たりがいいかな?」

「2人と3人に分かれてチーム戦ってのもいいかも」

「チーム戦やるなら、あたしとノーヴェの2人がチームでいいッスよ!」


 チンクに連れられて簡易シミュレーターがある卓へと移動したキャロとエリオを見送ってから、ティアナ達はきゃいきゃいと楽しそうにこの貸し切りとなったシミュレーターで遊ぼうかと相談し始める。
 普通にショップに行ったなら、閉店までに1回か2回遊べればいい方だが、何せ今ここにあるシミュレーターは海聖高校ブレイブデュエル部の物で、自分たち以外はここにいない。どんな形でどれだけ遊ぼうと、それこそ自由……なのだが。


「このシミュレーターを使いたいのなら、まずは俺を倒してもらおうか!」


 それを阻む男が一人。誰あろう、今の今まで一言も発さずにいた高峰隼人部長その人である。
 隼人はいつの間にやらシミュレーターのひとつを陣取り、その前で腕組みをしながら仁王立ちをしているこの男、ティアナ達が新入部員であることを忘れているのだろうか。


「えぇ〜……」

「ひどいですよ部長! あたし達だって部員だから使う権利はあるはずです!」

「そーッスそーッス! おーぼーッスよー!」

「部長ひっこめー!」

「ぶーぶー!」


 当然ティアナ達からはブーイングの嵐。せっかくの玩具を目の前にして待ったをかけられているのだから、彼女らとしてはたまったものではない。


「おい、隼人」

「なんだよチンク、ンな怖い顔すんなって。冗談だよ冗談、軽いアメリカンジョークってやつだ」

「……遊んでほしいなら、きちんとそう言え。お前のはわかりづらすぎる」

「別にそーゆーんじゃねーし! 俺別にさみしくなんかねーし!」


 悪びれる様子もない隼人の姿に呆れを通り越して疲れたようなため息を吐きつつ、チンクはティアナ達に説明しなければと顔を向けた。


「あー、隼人の言いたい事を翻訳するとだな。おまえたちの実力が見てみたいから、ちょっと自分と試合をしてくれないか……と言ってるんだ。わかりづらいだろうが」

「わかりづらっ!?」

「なんですかその遠回りしすぎて明後日の方向行っちゃったみたいなセリフは!」

「……子供なんだよアレは。いい意味でも悪い意味でもな」


 まるで悪ガキを持った母親のような、なんとも言えない微笑みを浮かべてチンクはそう言葉を漏らす。なんというか、隼人と付き合ってきた年数分の苦労を感じさせる、含蓄のあるセリフである。
 ともあれ、隼人が本気で自分たちにシミュレーターを使わせないつもりではない事はわかった。
 ならば、まぁ色々と思うところが無いわけではないが、付き合ってあげるのが後輩としての礼儀というものかと、ティアナ達は半ば諦めにも似た感情と共に隼人を見た。


「えーと、それじゃあ高峰部長。どういう風に勝負するんですか?」

「えっ」

「えっ?」


 どうやらノってくるのは予想外だったらしく、問い返したティアナに素っ頓狂な声を返す隼人。いや想定しておけよと思わなくもないが、彼にそこまで期待するのは酷というものだろう。
 なので、何も考えていなかった隼人に代わり、チンクがティアナの問いかけに答えを返す。


「5対1のバトルで良いだろう。君らの実力を見るのにも、ちょうどいいだろうからな」

「5対1って……いや、いくらなんでもそれは……」

「おけおけ。俺もそうしようと思ってたんだよ、それくらいじゃなきゃハンデにならないからな」

「はぁ!?」


 5対1という変則的すぎる構成に思わず冗談だろうと聞き返しかけたティアナだったが、その言葉が終わるよりも先に隼人がそれを了承してしまう。
 それに対して苛立ちを隠しもしない声を上げたのはノーヴェだ。

 そもそも、ブレイブデュエルの対戦の基本は5対5のチーム戦であり、どちらかの人数に限りがあるということはほとんどあり得ない。あったとしても、それは相手側がなんらかの理由で人数不足である場合か、ある程度実力に差があるのでハンデとして人数を減らすという特殊な事情がある場合のみ。

 仮にハンデだとしても、3対1や2対1など少人数が普通で5人――つまりは1チーム対個人などという変則マッチは聞いたことも見たこともない。
 いくらティアナ達が今日あったばかりだとしても、全員がそれなりに経験者なのだ。
 普通に考えれば、隼人に勝ち目などほとんどない。にも関わらず隼人は「ちょうどいいハンデだ」と断じた。


「あたしらのこと舐めてんのか!?」


 ノーヴェがそう結論づけてしまうのも、無理からぬ事だろう。
 もちろんノーヴェだけでなく、ティアナやスバルといった経験者は全員言葉にこそ出していないものの、明らかに気分を害したという顔で眉を寄せて隼人を見つめている。
 それぞれやっていた年数の違いこそあれど、自分の実力にはある程度自信を持っているのだ。
 それを「5対1でも勝てる」とでも言いたげな物言いをされれば、おもしろくないのは当然だろう。


「ん? 別に舐めちゃいねぇぞ。ちゃんと評価してるから、ハンデが人数差だけなんだからな」


 しかし隼人はノーヴェの言葉に悪びれる様子も自分の発言を撤回することもせず、むしろ逆に挑発するようなセリフで持って彼女の問いかけに答えた。
 それでノーヴェは隼人には言うだけ無駄だと悟ったのか、己の姉であるチンクへと視線を向ける。


「チンク姉! なんか言ってやってくれよ!」

「……ふむ」


 現状あのふざけた態度の部長に一言言える存在である姉ならば、何かしら助け船を出してくれる。そう期待してのノーヴェのセリフだったが、返ってきたのは予想外すぎる一言であった。


「いや、ノーヴェ。姉も隼人の言うとおりだと思っているぞ」

「チンク姉!?」


 自分の言葉を肯定してくれるとばかり思っていたノーヴェは、あっけらかんと言われたチンクの言葉に愕然とした。
 隼人だけならば自信過剰と思うこともできたが、姉であり自分とウェンディの実力を良く知っているチンクまでが同じことを言ったのだ。その衝撃は推して知るべしと言ったところか。


「まぁ、言葉で言っても納得できはしないだろうさ。ここは姉に騙されたと思って、一度やってみるといい。
 もし勝ったのなら、その時は私も含めて自分たちを侮った馬鹿として、好きに言えばいいさ」

「べ、別にそこまで言うつもりはねーけど……」

「ふふっ、とにかくやってみるといい。お前たちの部長になる男は、そう弱くはないぞ?
 では頑張れよ、ノーヴェ。私はあちらで、初心者2人に講習をしながらお前たちの戦いを見させてもらう」

「ちょっ、ちょっとチンク姉!」


 それだけ言って去っていくチンクの背中にノーヴェが声を飛ばすも、それ以上はチンクも相手をしてくれなかった。


「というわけだ。磯野ー! 野球しようぜー!」

「あたしらは磯野じゃねぇし、野球もしねーよ!!」


 そこで間髪入れられる隼人の誘いに、ノーヴェはもはや先輩後輩という立場も忘れて思い切り怒鳴りつける。
 しかし隼人はそんな彼女の怒鳴り声にすら耳を貸さず、話は終わりだとばかりにいそいそとシミュレーターへと入って行ってしまう。
 その背中を追いかけて文句を言おうとしたノーヴェであったが、彼女の後ろからティアナが待ったをかける。


「ちょっと待って」

「あぁ!? ンだよ、止めんな!」

「たぶん、部長をもう何言っても聞かないと思うわ。
 だから……あたし達が言うことが正しかったって、思い知らせてあげましょ」


 ティアナも不満げな顔ではあったが、それ以上に『燃えていた』。
 ブレイブデュエルをやる人間は、程度の差はあれど誰もかれもが基本的に負けず嫌いだ。あんな挑発をされて、不愉快と思う以上に燃えてくるのは、ある意味仕方ないと言えるかもしれない。


「……そうだな。あんのクソ部長、ぜってー泣き顔にしてやる」

「そうそう! あたしらを舐めた事を後悔させてやるッスよ!」

「燃えてきたー! 頑張ろうね、皆!」

「あたしはまだ初心者みたいなモノだけど、うん。頑張ろう」


 それぞれの自信にいくばくかの差はあれど、ティアナ達5人全員がその眼に闘志を宿す。
 元々、やるかやらないかは彼女たちのやる気の問題だった。それが解決されたのなら、やることは決まっている。


「それじゃ、まずは作戦会議でもしましょ。部長を完璧にやっつけるための、ね」


 そう言って楽しげに笑うティアナに、スバル達も同じような表情で頷くのであった。



 ◇◇◇◇◇



『よかったのか? お前のことを教えておかないままで』


 一方、シミュレーターに入った隼人はと言うと、シミュレーター内でデュエルを始める準備をしながらチンクと通信をつないで喋っていた。


「いーだろ別に。そんな話して楽しいような事でもねーんだし」

『きちんと話しておけば、もっとスムーズに話は終わったと思うんだがな』

「それだと、後輩連中がやる気出してくんねーかも知れないだろ。それじゃつまんねぇんだよ、俺は」


 ため息混じりのチンクの声に、相変わらずのヘラヘラとした笑いを浮かべて隼人は答える。
 隼人の言っている通り、先ほどの発言がティアナ達のやる気を引き出すモノだったとしたのなら、なるほど確かに彼の目論見は成功したと言えるだろう。自分たちの実力を馬鹿にされたと思ったティアナ達は、今までで一番やる気を出しているかもしれない。


『ま、なんでも構わんが無様に負けるような事だけはしないようにな。私まで文句を言われてしまう』

「おぉ、それ楽しそうだな。わざと負けるか」

『まったく……好きにしろ。まぁ私は、お前が負けるところなぞ想像できんがな』

「言ってくれるねぇ。そこまで言われちゃ頑張るしかねーやな」


 全幅の信頼を寄せてくれるチンクに、隼人はどこか嬉しそうに笑う。
 普通に考えれば5対1――負けが確定しているようなこの状況で、しかしそれでも2人はどちらも隼人が負けるとは微塵も思っていないようだ。


『それじゃあ、私はお前が連れてきたあの子たちに解説をしておこう。
 どうせだ、あの2人がブレイブデュエルをやりたくなるような、楽しいデュエルを頼むぞ。部長殿』

「任せとけよ副部長殿。つーか、今まで俺が楽しくないデュエルをした事あるか?」

『……そうだな。余計なお世話だったようだ。頑張れよ、隼人』

「言われんでも」


 画面越しに拳を突き合わせ、隼人とチンクは互いに笑う。
 そこには、互いに対する絶大な信頼だけが見て取れた。











・作者の一言


やめて!
高峰部長のエロい能力で、ティアナの服だけを狙って切り裂かれたら、全国ネットで放送できないモザイクだらけになっちゃう!

お願い、服だけは死守してティアナ!
あんたが今ここで剥かれたら、スバルやリニスとの約束はどうなっちゃうの?
服はまだ残ってる。ここを耐えれば、隼人に勝てるんだから!


次回「ティアナ死す」
デュエルスタンバイ!



遅れちゃって申し訳ありませんでした。ちょっと私生活でいろいろとありまして。

……違うよ。別にモンハンとかやってないよ。
ホントだよ! ホントにやってないったら!
極限化したセルレギオスめっちゃカッコいい。






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あきゅろす。
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