小説(魔法少女リリカルなのは:二次創作) ex8話 『ファースト・アラート 2』 自分だけの専用デバイス。 嗚呼、なんと甘美な響きだろうか。 管理局に大勢在籍している魔導師の中で、自作だからという意味で専用デバイスを使っている人を除けば、専用デバイスを持っている人間はそう多くない。 エースと呼ばれる人たちでも、支給品のデバイスを使っている人は多い。 そのくらい、専用デバイスってのは貴重で珍しいモンなのだ。 特に俺みたいな射撃型の魔導師は、ティアナみたいに自作デバイスでも使ってない限りは、管理局を引退するその日まで、支給品のデバイスを使い続ける場合が多い。 頼めば作っては貰えるんだが、金がかかるし、何より支給品で十分戦えるから作る意味が無い。 だから、専用デバイスに憧れている魔導師は多くても、実際に使っている魔導師は少ないわけだ。 そんな理由もあって、俺もまた、引退のその日まで支給品を使うんだろうと思っていた。 だがしかし。 だ が し か し !! 俺の手の中には今、支給品のストレージデバイスとは違う、赤い宝石の嵌った銀色の指輪がある。 つい先ほど、目の前で機械を操作しているシャリオ=フィニーノ陸士に渡された、俺だけの、俺専用のインテリジェントデバイス。それがこの指輪だ。 「ふおぉぉ……」 思わず俺の口からそんな奇妙な声が漏れたのも、致し方ないというものだろう。 憧れていた自分専用デバイスが、今この瞬間、俺の手の中にあるのだ。 こんな状況で、ニヤニヤすんなってのが無理な話だっつーの。 「ちょっとハヤト君。そのニヤニヤ笑いやめて、気持ち悪いから」 隣でギンガが何かほざいてるが、今の俺には全く気にならない。 そのくらい、俺の頭の中は『専用デバイスを手に入れた喜び』というモノで一杯になっていた。 憧れだった自分専用の……しかも、支給品と同じストレージデバイスじゃなくて、超高級品と誉れ高いインテリジェントデバイス。 本来なら、俺みたいに普通程度の実力しか持ってない奴には、一生お目にかかれない代物。 それが、今この瞬間俺の手の中にある。 嬉しくない訳ねーじゃん。……嬉しくない訳ねーじゃん。 大事なことだから2回言いました。 「だから、ニヤニヤしないでってば。ホント凄い気持ち悪いから」 「うるさいギンガ。胸が3センチでかくなったからって、あんましいい気になるなよ」 「な、何で知ってるの!?」 「見りゃわかる」 「どうしてそれで分かるの!? 普通わかんないよ!?」 うるっさいな。他の人はともかく、俺は分かるんだよ。 だって俺はおっぱいマイスター(自称)だからな。普通はわからなくとも、俺にはわかるのだ。 ……いや、今それはどうでもいいか。 「はーい。皆自分のデバイスは受け取りましたか〜?」 気を取り直し、トリップするのをやめて視線を上げる。 その視線の先では、水色のロングヘアーを揺らす人形サイズの人――八神部隊長の融合騎である、リインフォース曹長が空中に浮かんで俺達の顔を順に見た。 「この6機は、前線メンバー隊長陣とメカニックが、経験と技術の粋を集めて造った最新型です。 スバル、ティアナ、エリオ、キャロ、それとハヤトにギンガ。それぞれの個性に合わせて、各自が自分の力を100%発揮できるように造られた、文句無しに最高の機体なのです」 ちょっとだけ得意気に胸を張りながら、リインフォース曹長は俺達が自分の手に持っていたデバイスを自分の周りに円を描くようにして浮かべた。 あぁん、折角もらった俺のデバイスぅ……もうちょっと感触を楽しみたかったのに。 「すぐに返しますから、そんな顔しないで欲しいですよ〜」 「あ、すんません。顔に出てましたか」 「ハヤトは正直さんですね」 「そんな誉めないでくださいよ。照れますって」 「ハヤト君、誉められてない。誉められてないから」 「知ってるっつの」 人のボケに大真面目に返してくるギンガを適当にあしらって、もう一度曹長の言葉に耳を傾ける。 曹長は気を取り直すように、可愛らしく「こほんっ」と咳払いをしてから言葉を続けた。 「この子達はまだ産まれたばかりですが、色んな人の思いや願いが込められてて、一杯時間をかけてようやく完成したです。ただの道具と思わないで、大切に……でも、性能の限界まで思いっきり、全力で使ってあげて欲しいですよ」 「うん。きっと、この子達もそれを望んでるから」 リインフォース曹長の言葉に、今まで少し離れた場所でキーボードを弄くっていたシャリオ=フィニーノ陸士が、顔を上げて俺達を見ながら頷いた。 勿論、曹長に言われるまでもなくそうするつもりだった。 デバイスは道具じゃなくて相棒。それは、訓練学校を出た奴なら誰でも教わる事だ。 とはいえ、そう思わない奴だって沢山いるけどな。 108部隊にだって、そういう考えの奴は結構居た。ま、そこら辺は個人の自由だろう。 少なくとも俺は、デバイスは相棒だと考えている。デバイスは友達だね! 「それでは、これから皆のデバイスの機能説明をするですよ〜」 そんな曹長の言葉と共に、曹長の周りに浮かんでいた俺達のデバイスがそれぞれの手元に戻ってくる。 おおぅ、俺のデバイス〜……俺専用デバイス〜。 「ごめんごめん、お待たせー」 戻ってきたデバイスに大喜びしていると、メンテナンスルームのドアを開けて、制服姿の高町一尉がそう言いながら入ってきた。 「ナイスタイミングですよ、なのはさん。丁度今から機能説明をするところでしたから」 「そっか、間に合ってよかった」 高町一尉は、フィニーノ陸士の言葉を聞いて朗らかに微笑んだ。 相変わらず綺麗なお人だ……マジで結婚してくれねーかなぁ。 ●魔法少女リリカルなのはStrikerS 〜とある新人の日常〜 ex8話 『ファースト・アラート 2』 「――という訳だね。皆、大体は理解できたかな?」 「うぃっす!」 フィニーノ陸士と高町一尉、そしてリインフォース曹長の3人による、俺達全員の新デバイスのおおまかな機能説明を聞いた後、俺は元気よく手を上げて答えた。 3人の説明を簡単に纏めると、スバル達のデバイスには何段階かに分けて出力リミッターがかけられているらしい。最初に最新型とリインフォース曹長が言ったように、最初からリミッター無しだと、流石に今のスバル達には手に余る代物らしい。 そのリミッターは、訓練が進んで各自が扱いきれると判断されたら、順次解除されていく。 ただし、俺とギンガはまた別で、最初から第2段階までのリミッターは外されている。 これは俺達がスバルやティアナ達に比べて実戦慣れしているから、というのが主な理由らしい。 ――つっても、格闘主体のギンガはともかく、射撃主体の俺は要練習ってコトらしい。 ギンガみたいに殴ればいいって訳じゃなく、色々と繊細な操作が必要だからな。 まったく脳筋は単純明快で羨ましいぜ。 「ハヤト君。今失礼な事考えたでしょ?」 「考えてねーし。言いがかりはやめて頂きたく思う」 「……怪しい」 となりで唸るギンガは無視して、スバル達の顔を見る。 スバルとチビっ子2人はもちろんはしゃいでるとして、普段は冷静な風を装ってるティアナも、心なしか嬉しそうな顔で、フィニーノ陸士から渡された待機状態のデバイスを眺めていた。 まぁ、あの4人だってティアナが一番年上で16歳。 17の俺がはしゃいでるんだから、あいつらだってはしゃいで当然だよなぁ。 やっぱ、『専用』ってのは嬉しいモンだし。 「そうそう。スバルとギンガのはリボルバーナックルとのシンクロ設定も出来てるから、安心してね」 「え、本当ですか?」 「うん。もちろん違和感があれば言ってね。ちゃんと調整し直すから。 それと、持ち運びが楽になるように収納と、瞬間装着の機能もつけておいたよ」 「わあっ! ありがとうございます!」 フィニーノ陸士の言葉を聞いて、スバルが尻尾でも振りそうな勢いで喜んで、ギンガも目を輝かせた。 確かに2人とも、リボルバーナックルの持ち運びが結構面倒だったみたいだしなぁ。 アレって結構重いんだよ……前に持とうとしたら、マジで腰が「ゴキャッ!」って嫌な音を立てたくらいだしな。 ……ギンガはあんなの持ってばっかいるから、脳味噌まで筋肉になるんだよ。 あ、だから体重増えてんのか。筋肉って重いもんな。 「……やっぱり、失礼な事考えてるでしょ」 「考えてねーってば。しつこい」 事実を事実として確認してるだけだから、失礼にはあたらないよな、うん。 実際、こないだも食堂のデザート眺めて暫く悩んでたし。 「ティアナのは前から使ってたアンカーガンと同じ拳銃型。 エリオとキャロは、形状そのものは今までと同じにしてあるから、違和感なく使えると思うよ」 「あ、はい」 「「ありがとうございますっ!」」 ふむ、まぁ長年使った得物の形状が変わったら扱い難いよなぁ。 特にティアナなんかは拳銃型だし、いまさら通常通りの杖とかになったら、逆に扱いきれなくて戦力的にはマイナスになりそうだしなぁ……当然、そこら辺は考えてあるんだろう。 エリオとキャロのも槍とグローブ型で特殊な形状してる訳だし、良く考えると、ウチのチームって結構面白いデバイス揃ってるな。ティアナ、スバル、エリオ、キャロにギンガ。 なんだ、一般的な形状のデバイス使ってるのは、このチームだと俺くらいか。 「それからハヤト君」 「うぃッス。俺のはどんなでしょうか?」 「ハヤト君のは特別製だよ。ちょっと自信作だから、期待してね」 「おお! ドリルでもついてんですか!?」 「いや、それはないけど……」 俺の言葉に苦笑して頬を書いたフィニーノ陸士は、俺の前にモニタを開く。 モニタには支給品の魔導師用杖に良く似た形状をした、杖型のデバイスが映っている。 「ハヤト君のデバイスは、なのはさんのデバイス、レイジングハートを基本形としてハヤト君が今まで使っていたストレージデバイスのデータを基に、ハヤト君専用に調整したデバイスだよ。 レイジングハートっていう基礎がある分、他の皆のデバイスよりも完成度は高いと思う。 構造とかはかなりレイジングハートに似せてるから、姉妹機ってことになるのかな?」 「高町一尉のデバイスと姉妹機……って、マジすか!」 それを聞いて、俺のテンションはさらに2段階ほど上がった。 そりゃそうだ。エース・オブ・エースと言えば俺達魔導師の憧れ。その人のデバイスが、これから自分が使うことになるデバイスが、その憧れの人のデバイスを基にしていると聞いて、テンションが上がらない奴なんざいねぇ。 「おいおい聞いたかギンガ!? 俺のデバイス、高町一尉とお揃いだってよ!」 「ひゃあぁっ!?」 「うっはーっ! マジ嬉しいんですけど! 超テンション上がるわーっ!!」 「ちょっ、は、離してハヤト君! 恥ずかしいってば!」 「うっひょひょーい!」 上がったテンションに身を任せて、隣に立っていたギンガを思わず抱きしめる。 ギンガが何か言ってるけど、全然気にならねぇ。もうアレですよ、新しい自分専用のデバイスってだけでもテンション上がるってのに、それが“あの”高町一尉が長年相棒として使っている最高ランクデバイスの姉妹機! これはもう、俺に運が向いてきたとしか思えないね! 「やっべ、すげぇ嬉しいんだけど! ギンガ、チューしていいですか!?」 「今は嫌! ハヤト君今日はまだ歯を磨いてないでしょ!?」 ちっ、人の好意を無碍にしよってからに。 まぁいい、どうせ本気でやるつもりは無かったしな。 「それでフィニーノ陸士! このデバイス、名前は何て言うんですか!?」 「え、あ……えっと、名前は『ブレイブハート』だよ。レイジングハートの姉妹機だから、似たような名前がいいかなって思って。もちろん、ハヤト君が気に入らなかったら変更して構わないからね」 「いえいえ変更なんてそんな! カッコイイじゃないッスか!」 「てゆーか、いい加減離れ……てっ!」 「あひゃんっ」 ギンガに無理矢理引き剥がされながらも、俺はフィニーノ陸士から名前を聞いた、右手に握っている赤い宝石の嵌った新デバイス――ブレイブハートを眺めた。 凄く綺麗で、傷一つ無い俺のデバイス。 多分これから長い間、一緒に戦うことになるデバイス。 「――よろしくな。ブレイブハート」 感慨深さを感じながら、そうブレイブハートに声をかける。 そんな俺の声に応えるように、掌の中にある指輪の宝石が煌いた。 「そうそう。ブレイブハートには、ハヤト君が今まで使ったことが無い『カートリッジシステム』が搭載してあるの。だから、後でなのはさんやスバル達から使い方の説明を聞いてね? 初めて使う機能だろうから、説明無しだと勝手が分からないと思うし」 「了解ッス」 なんとまぁ、おニューのデバイスってだけでも有難いのに、まさかのカートリッジシステムまで。 何つー至れり尽くせりな展開。機動六課凄すぎて濡れる。 「他に質問はあるかな? あるなら、今の内に聞いちゃおうと思うけど」 「ドリルはついてますか?」 「ついてません」 「変形合体は?」 「しません」 「ナイスバデーなお姉ちゃんに変身したりは?」 「あり得ません」 「俺の事を『ご主人様(はぁと)』と呼んでくれたりは?」 「なのはさん。ハヤト君ぶん殴っていいですか?」 「落ち着いてシャーリー。気持ちは何となく分かるけど、とりあえず落ち着いて」 むぅ、残念だ。アニメとかなら、間違いなく俺のデバイスは美少女に変身するか、ドリルとかがついてる筈なんだが……現実はアニメとは違うということか。 無念でござる。 「ハヤ兄! 後であたしがカートリッジシステムの使い方、教えてあげるね!」 「いや、スバルには無理だろ。お馬鹿ちゃんだもの」 「いやいやハヤトさん? スバル、訓練学校では主席でしたよ?」 「でも、馬鹿だろ?」 「…………否定できませんね」 「ハヤ兄もティアも酷いっ!?」 そんな風にスバルを弄って遊んでいた時だった。 突然、耳障りな警報音と共に、デバイスルームの中にある赤いランプが明滅する。 デバイスルームに並んだモニタに俺たちが視線を向ければ、その全てにランプと同じ赤い色で書かれた『ALERT』の文字。 「このアラートって――」 「一級警戒態勢!?」 「グリフィス君!」 いち早く反応した高町一尉がモニタに向かって呼びかければ、その声に反応したのか、モニタの一つにやや険しい顔をしたロングアーチ部隊のロウラン准陸尉が映る。 あの顔を見る限り、どうやら間違いって訳じゃなさそうだ。 ……出来れば、間違いであってほしかったけどな。 「今のって――」 『はい。教会本部から出動要請です!』 『なのは隊長、フェイト隊長、グリフィス君? こちらはやて』 『状況は?』 一尉の質問にロウラン准陸尉が答えた直後、准陸尉が映っているモニタの両隣のモニタに、八神部隊長と、ハラオウン執務官が映った。映っている背景が違うってことは、どうやら既にハラオウン執務官は現場に向かって移動中らしい。 この部隊が発足してから初めての正式な出動ってこともあり、モニタに映る部隊長と執務官の顔にも少しばかり緊張が見て取れた。まぁ、当然と言えば当然だろう。 スバル達も、ある程度慣れてる俺とギンガも、デバイスルームに居る全員が、緊張した面持ちで八神部隊長の言葉に聞き入っている。 『教会の調査団が追っていたレリックらしき物が見つかった。 場所は、エイリの山岳丘陵地区。目標は山岳リニアレールで移動中』 『移動中って……』 「まさか!」 部隊長の言葉に、高町一尉とハラオウン執務官が驚いた顔をする。 ――あー、何か展開読めてきた。 『そのまさかや、内部に侵入したガジェットのせいで、リニアレールのコントロールが奪われてる。 リニアレール車内のガジェットは、最低でも30体。他にも、大型や飛行型の未確認のタイプが出てくるかも知れへん』 ですよねー、と言いそうになって慌てて口を噤む。 恐らくは移送中かなんかだったんだろう。移送中の対象を確保する場合、一番手っ取り早いのは移送手段ごとの強奪だかんなぁ……。テンプレっつーかお約束っつーか。 まぁ、とりあえず初出動にしちゃ、ちょっと難しい任務か。 高町一尉だけじゃフォローの手が回らんだろうし、俺とギンガである程度はやるとして――。 『いきなりハードな初出動や、なのはちゃん、フェイトちゃん、いける?』 『私は、いつでも』 「私も!」 考えているうちに、部隊長と高町一尉、そしてハラオウン執務官の話は進む。 そして、高町一尉達の返事に満足そうに頷いてから、部隊長の視線が俺達に移った。 『スバル、ティアナ、エリオ、キャロ、ハヤト君、ギンガ。皆もええか?』 「「「「「「はい!」」」」」」 『よし。いいお返事や、シフトはA−3、グリフィス君は隊舎での指揮、リインは戦闘管制。 なのはちゃんとフェイトちゃんは現場指揮』 『わかった』 「うん」 『ハヤト君とギンガは、スバル達のフォローをお願いや。ホントはなのはちゃん達にお願いしたいんやけど、手が回らへん場合の保険やね』 「了解ッス」 「わかりました!」 『ん。頼りにしてるで、2人とも』 言われなくてもするつもりだったけど、こうやって部隊長直々に頼まれたからには、半端な事は出来ねぇか。ま、出来る範囲でフォローしてやりましょうかね。 これでも一応、年長者ですから。 『ほんなら、機動六課フォワード部隊……出動!』 「了解!」 部隊長の声に敬礼と共に返事をしながら、俺達は一斉に走り出した。 さてさて、六課発足以来、初めての本格任務だが……どうなりますやら。 [*前へ][次へ#] [戻る] |