そこから覗いたちいさな本当
俺様、なぁんか違和感感じちゃうんだけど。







「あ、名前ちゃん。頬どうしたのさ」
「……いきなり叩かれた」
頬を赤くして教室に入って来た名前ちゃんに聞けば叩かれたの一言。
「叩かれたって…誰に?」
「後輩。呼び出されたから行ったら何も言わずに叩いてきた」
淡々とした口調で説明をしてくる名前ちゃんは叩かれた事にも、誰が叩いたのかも興味がなさそう。
「なんて勇気ある後輩なんだか。ほら、名前ちゃん。保健室で氷貰って来よう」
呆れた。本気で。
俺様は苦笑しながら席から立ち上がる。
「名前ちゃん?」
ぼんやりと考え事をしている名前呼び掛ければはっと意識を呼び戻す。
「…あ、ごめん。でも痛くないから平気」
「痛くないからってほっといたら駄目だからね」
釘を刺して俺様は保健室へと向かう。
「あれ?先生は居ないみたいだねー」
「……なら戻る」
「駄目だってば。ほら此処座って」
ふい、と帰ろうと足を翻そうとした名前ちゃんを引き止めてポン、と椅子を叩いてみせる。
それを見て渋々座った名前ちゃんは何だか注射をされる前の子供みたいだ。
「ほら、見せて」
「……………」
そっぽを向いている名前ちゃんの顎をぐいと引っ張る。
ムスッとした顔。
無表情で、表情が変わらない名前ちゃんが見せたもの。
「……名前ちゃん」
「………!」
小さく囁けば目を見開いてガタンと立ち上がる。
「………ごめん」
そう小さな…消え入るような声で言ったかと思ったら走って保健室を出て行った。
呆然とその姿を見送った俺様を残して。







階段の元まで辿り着いて、私は足を止め息を整えた。
「違う、違う違う違う…!猿飛は、あいつじゃないんだ…重ねたく、ない……」
だって、あんなにも優しいじゃないか。
冷たい態度の私に笑顔で世話を焼いてくれる。
ただ自分さえよければ良い…そんな考えのあいつなんかとは比べものにならないくらいに優しい。
なのに、何で……。
「あいつを、重ねるんだろう……」
その声は反響して、私へとただ虚しく返ってきた…。
「……おい」
「…?」
不意に、声がした。
「大丈夫か…?」
階段の上から銀の髪が見えた。
「おい、ホントに平気なのか?」
反応の仕方が分からずに固まっていれば銀の髪はふっと見えなくなった。
見えなくなった途端、足音が上から近付いて来た。
「……怪我でもしたのか?」
首を傾げて聞いて来たのは、この学校に居る不良達を束ねる二大勢力の一つ…その頭である長曾我部元親。
銀の髪に左目に紫の眼帯…間違いはないだろう。
「おい…ホントに大丈夫か?」
「……平気、だから」
「そうか。なら良かった」
ニッと笑って頭をわしわしと撫でてきた。
そんな事されたのはいつぶりだろうか。
「お前、元気ないな……よし、これやるよ」
ポンと手に置かれたのはイチゴキャンディ。
デザインは可愛らしいウサギの絵が書かれているものだ。
「何があったかは分かんねぇけどよ……難しく考えてっと疲れるぜ。もっと気楽にしときな」
そう言って長曾我部元親は歩いて行った。
たった一言で…私の認識をぶち壊して。
「……それもそうだったよね。気楽に…か」
手に残った飴を見詰めて笑みを零して。
私は本当の彼を探す事にした。


小さな事でも良いから知りたい。


あきゅろす。
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