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小説ZS<海賊>
真冬んへ【ひとりになりました。】




おれ、ひとりになりました。


さっきまでふたりだったんだけど、アホーで迷子の緑藻の植物はどっか行っちゃいました。


別れってのはマジでツラいことだよなぁ…。



そして、心もひとりになりました。






島のちょっと品揃えのいい店で、サンジはいつまでも品物を見比べ考え込んでいる。

「おい、まだか?」
「まだだ、こういうのもきちんと選ばないとならねーんだよ。」
「どれも同じに見えるけどな。」
「ハッ!マリモにゃわかるめぇよ。香辛料の良し悪しが、料理の繊細な仕上がりに係わってくるんだよ。」

ゾロはムッとした顔を見せたが、買い出しの共に付いて来ているので勝手に帰ることも出来ない。
でっかいリュックを背負ったまま、近くの木箱にどっかりと座って腕を組む。あっという間にイビキをかいてぐうぐうと寝始めた。

マジかよ。サンジは呆れてしまったが、これ幸いと香辛料を吟味する。



くすくすくす・・・・。でさー・・・・・なんだよな。・・・・おー、わかるわかる。へへっ、気ぃ合うなー。

なんだ、コックの奴。何をそんなに楽しげにしゃべってやがる。また女か?
・・・・女じゃない!?

サンジのしゃべり方に気が付いて、バチッと目を開け正面を見据える。ゾロの視界にサンジの金髪が入り込み、すぐ隣に見知らぬ男がいた。
黒く短い髪に、精悍な顔立ち。ゾロよりは劣るが体格の良いその男は腰にエプロン、首にはスカーフを結び、コックのような風情。

男も楽しそうに話しかけ、時々サンジの肩に手を置いたりする。サンジも嫌がる風もなく、笑顔で応じた。


人を待たせておいて談笑とはいい気なもんだな。イライラしながらもしばらくは待っていたが、立ち上がりサンジに近寄ると低く唸る。

「帰るぞ。」

それだけ言うと、スタスタと店の外に出て行った。

「え?ゾロ?なに、急に?」

サンジは慌てて香辛料を購入し、店主と男に挨拶を済ませ店を飛び出した。
路上でキョロキョロと緑色を探すと、また船じゃない方に向かっているマリモを発見。走って追いついた。

「マリモ!勝手に帰るな!そして方向逆!・・・・何だよ。なんかあったか?」

サンジの問いかけにチラリと視線だけ寄こして、ゾロはブスッとしたままだ。
待たせてたのは悪かったけれど、買い出しのお供なんだからちょっとくらいは待つもんだろう?

不機嫌の理由が見当つかない。
香辛料について土地のコックと話してただけ・・・・。

道の端にずいずいとゾロを押しやって、通りから見えないようにそっと手を握る。

「よくわかんねーけど、怒るなよ。なに?もしかしてやきもち?」

ゾロの手がピクッと動いたのを見逃さない。顔は変わらず怖いまんま。
ふう〜ん・・・。サンジはいたずらっぽい顔を見せて握った手の人差し指を器用に動かす。
スリスリとゾロの手の平を指でさすり、艶っぽい目を向ける。

「ちょっと喋ってただけじゃねーかよぅ。誰も彼もがおれとやりてー訳じゃねーんだぞ?」


こう見えてもふたりは最近付き合いだした出来立ての恋人だから、ちょっとしたヤキモチなんかはしょっちゅうだ(主にゾロ)。
今日もいつものことだと、サンジは済し崩そうと甘えて見せる。
ンな?と宥めに入ったのだがゾロは納得がいかないようだ。

どいつもこいつも、おれのコックをイヤらしい目で見ていやがるんだ。同じ目線のおれにはわかる!!
ゾロは絶大な自信で確信していた。

「他の男に馴れ馴れしくさせるな。」
「だからちょっと喋ってただけじゃねーか。あんなの普通だろ?」

心底わからないといった顔のサンジはいっつも無防備だ。
さっきの男にどんな目で見られていたか、なぜ気づかない?ゾロはますますイラついた。

「わからない。」者に知らしめるのは容易なことではない。
考えあぐねてゾロがガリガリと頭をかいていると、さっきの男が店から出てきたのが見えた。こちらに気づいて歩み寄ってくる。

もう、これ以上サンジと話をさせる気はない。ゾロはネクタイをぐうっと引っ張って、きょとんとしたままのサンジの唇に吸い付いた。

「ゾ!・・・・むぅ・・・うぅぅん・・・。」

無遠慮にちゅうちゅうと吸い上げ、無理矢理舌を差し込めば、サンジは必死に抵抗しようと背中のシャツを引っ張っている。
そんなことしたってシャツが伸びるだけだ。ゾロは構わず柔らかい感触と苦甘い味覚を貪った。

サンジの腰が力をなくして落ちそうになったところを支えてやりながら、チュクチュク音を立てて男を見やる。
男は赤い顔をしつつ、ゾロの目に怯んで足早に去って行った。それを確認するとようやくサンジの唇を解放してやる。

「フン、根性のねぇ野郎だ・・・。」

ハァハァ息を整えていたサンジが突然ゾロを押しやって、腕の中から飛び出した。

「誰が根性ねーってんだよ?!クソ野郎!こんなこんな、往来で急にキ、キ、キス、スしやがって!エロマリモ!!」
「あ?何言ってんだ、てめぇのことじゃねぇよ。」

「うるさい!いちいち嫉妬深いんだよ!良いじゃねぇか、おれが誰と喋ったって勝手だろ?!」
「おれが嫉妬深いんじゃねぇ!てめぇの尻が軽いんだ!!」

「!!!!」

サンジは謂れなき暴言を吐かれて言葉がない。ゾロもしまったと思っても、零れた言葉は喉の奥には戻らない。
チッと舌打ちをすれば、サンジは一瞬、目を大きく見開いてから睨みつけてきた。

「尻が軽くて悪かったな!わかったよ!どーせ、おまえにとっておれは軽い奴なんだろ。」
「・・・いや、・・。」

違うと言いたいが、今、自分が言ってしまったことだ。尻が軽いのと人懐っこいのが違う事はゾロにもわかっている。
ほんとはその人懐っこいのも控えて欲しい。おれだけ構って欲しい。・・・と言えるほど柔な男ではない。
押し黙って、どんどん顔が怖くなってゆくゾロにサンジはブチ切れた。

「もういいよ!!ゾロなんか、もう!・・・・もう!もう!ぜってーやらしてやんねぇ!!」

でっかい声で叫んでしまってから、うっと口を噤んだが、通りのみんながふたりに注目していた。

「ふざけんな、てめぇ・・・。」

ゾロの声は低く、腹の底から怒っている声音で、サンジの身体はヒクリと強張ってしまう。
変なこと大声で言っちゃったから、すっげぇ怒ってる。・・・・・・でもでもおれだって怒ってるんだ!

「おれのこと尻軽だなんて言うヤツとは付き合ってけねぇ!」

思ってもいない言葉ばかりが口から出てしまう。

「勝手にしろ!」

ゾロがさらに怖い顔で吐き捨てた言葉を聞いて、サンジはショックが隠せない。
勝手にしろって言われた。それってお別れを認めるってこと?…だよな。

続けてゾロが何かを言おうと、口が動くのを見るや否やダッシュで逃げ出した。

「あ!待てっ!」

もう、これ以上聞きたくない。ゾロの口から明確なお別れの言葉が出されたら、泣いてしまう。
すでに泣きながら走るサンジの後ろをゾロが追いかけていたのだが。いつの間にかサンジはひとりぼっちで走っていた。




少しずつペースを落としてトボトボ歩き始め、ポケットからタバコを出して咥える。
しばらくはゾロは追いかけてきてくれた。何を言われるかわからなかったけれど、それでも追ってくれることは少なからず嬉しかった。
でもどこら辺からか、ふと振り返ったらそこにゾロはいなかった。


途中でイヤになって追うのをやめてしまったのかも。勝手にしろって言ってたし。

もう、本気でお別れなのかな。
やっとやっと想いが通じてお付き合いが始まったのに。

とてもあの魔獣とは思えないほど優しいキスをしてきたり、後ろから優しく抱きしめてくれたり。
すごーくたいへんだったけど、セックスだってするようになった。最近では気持ち良く感じることも出来るようになってたのに。

あんなつまらない口げんかで。
ってか、あのクソマリモ、おれのこと尻軽って言ったんだ。おれのどこが軽いんだよ!
あーんなことも、こーんなことも、ゾロにしか許してないのに!
ゾロのバカヤロ。

怒りよりも悲しい気持ちが強くて涙が溢れる。

陽が傾きかけても、ベソベソと泣きながら煙を吐いて歩き続けたら、小高い丘に辿り着いた。
港が一望出来るそこに、どっこらしょと腰を下ろす。

港にはメリーも見える。もうマリモは帰り着いただろうか。

これから先もあの船に乗り、旅を続けるのだ。

どんなに毎日が同じパターンでも、食うことを初め、生きていくためには何かしら動き回らなくてはならない。
小さい船の上ではどこへ行っても顔を合わせるだろう。


(堪えられるかな…。)

別れた恋人と毎日顔を会わせなくてはならない。ゾロに新しい恋人が出来る可能性だってある。

(堪えられねぇよ。)

ゾロが他の誰かを恋人にすることを考えたら、ぞわりと鳥肌が立った。やだー、そんなの見たくねぇ。
かと言ってゾロともう会えないなんてのも、辛くてたまらない。

でも、もうゾロと一緒に居てもひとりぼっちなんだ。
心もひとりなんだ・・・・。



いつまでも結論の出ることのないループに捕まり、ぼたぼたと涙を流して鼻水を啜った。

「ゾロぉ・・・・。やだー。お別れしたくねぇよぅ・・・。」

膝頭に顔を埋めて泣き続け、吸われない煙草の煙がゆらゆらと舞い上がる。

「もう、他の男と馴れ馴れしくしません。買い物もさっさと終わらせます。・・・エッチも、・・・もうちょっと回数増やします・・・。」

サンジは俯いたまま必死に言葉を紡いだ。

「ごべんなざびぃ・・・。だからお別れじないでぇ・・・。」

ついっと指の間から煙草が抜かれて、サンジは顔を上げる。

「本当だな?」

見上げたそこにはリュックを背負った汗だくのゾロ。
夕日を浴びて、赤く染まって見える。
煙草を地面にぎゅっと押しつけてリュックを降ろすと、サンジを囲うように後ろに座った。
涙と鼻水を垂れ流したままのサンジの腰に腕を巻き付けて、力強く抱きしめてくる。

「今言ったこと、本当だろうな?」
「え?お別れしないでって・・・。」
「その前だ!」
「あ、他の男に馴れ馴れしくしない。・・・と、さっさと買い物する・・・・・?」
「その後も、だ!」
「・・・・なんだっけ?」

わかってたけど恥ずかしくて口に出せない。顔を赤くしてまた俯くと、襟首にちゅうとキスをされた。
くすぐったくて首を竦めると、顎を掴まれて後ろに向かされる。
相変わらず凶悪な顔してるなぁ。

「セックスの回数もっと増やすっつったろーが?」
「せ、せっくすなんて言ってない。・・・エッチって言っただけだ!しかもちょっと、だから!」
「覚えてんじゃねーか。」

フッと笑われて力が抜ける。ぎゅううっと抱き締められて安心を感じたけど。

「別れるんじゃねぇの?」
「勝手しろって言っただけだ。おれは同意はしてねぇぞ。」

変な意地を張って、勝手にひとりで盛り上がって(下がって)寂しくなっていたサンジをゾロが見つけてくれた。
迷子マリモのくせに、大事なところは外さない。

「あー、…悪かった。」
「ん?」
「尻が軽いってな、失言だ。すまねぇ。」

「うん…。おれもでっかい声でヤラセねぇとか言ってごめん。」
「大々的に宣言しやがって。ヤラねぇなんてのはありえねぇからな?」
「あー、そっちに怒ってたのか…?」
「他にどっちだってゆーんだ?」

大声でふたりはやっちゃってますってバラす前に、すでにゾロはキスを仕掛けているんだから、世界中にバラされたってどうってことはない。

とにかく必死で追っていたのに途中でサンジとはぐれてしまった。先回りしてやろうと脇道に入ったのが運の尽き。方向もわからないくせに先回りもないだろうに。
だけど、ラブコックも驚きのラブ剣士パワーでサンジを見つけてくれた。汗だくになって、息を切らして。

「おれぁ、ぜってー別れねーぞ!てめぇが、もうイヤだ、つき合えねぇっつってもな。」
「おれだって別れねー!・・・けど、おれのことがイヤになったら言ってくれ。ちゃんと身ィ引くからよ・・・。」

サンジのしょぼくれた頭にゴチンとゾロの拳骨が落ちた。

「いてぇ!何しやがる!?」
「イヤになんかならねぇ!おれはしつこいんだ。」
「・・・知ってる。」


ぎゅうと力を込めてサンジを抱きしめる。ゾロの身体は温かくて心地よい。
ほこほこと胸の中から暖かくなってゆく。

「あのな、さっきの男と喋ってたのは、さ。」
「あ?」

ちょっとゾロの声が棘っぽい。なんで、またあんな野郎の話をするのかと眉を顰める。

「すこーし見た目がゾロと似てたから。ゾロと料理の話したらこんなかなーって、その・・・てめぇとそんな話もしたいなー・・・なんて。」

ゾロが眉を顰めたまま目を見開いて黙っているから、またやってしまったのかと後悔する。
正面を向きなおし、大きく息を吸って小さく呟いた。

「ま、てめぇの方がずっと・・・・・・・イイ男だけどよ。」

精一杯の素直な言葉を贈ったら、背中を覆うゾロの身体がどんどん熱くなってきた。サンジも一緒に熱くなる。

ふたりして赤く見えるのは夕日のせいだけではないだろう。




「うっし!帰ってきっちり仲直りすっか。」
「この、エロマリモ・・・。」

熱い顔を反転させて、後ろのゾロにキスをした。
ニカっと笑うゾロの顏はすっごく嬉しそうで迷いがない。




おれ、ひとりになってました。

ひとりぼっちになったけど、ゾロがちゃんと追っかけて来てくれました。


そんで、ふたりになりました。


ゾロとおれ。
ひとつになれました。

心もひとつになりました。



【end】


〈後書き〉
お読み下さりありがとうございました。
お楽しみ頂けましたでしょうか?

珍しく海賊でおつき合い前提話です。

出来映えは、あ〜…ですが、楽しく創作致しました♪


朱の花:真冬ん宅で、世知辛い出来事に

「おれ、ひとりになりました。」

そんなことを呟く詩人に遭遇。

そこから妄想が広がり、広がりすぎてこんなお話になってしまいました。

お別れが氾濫する世の中だけど、ゾロとサンジはお別れしないぞー!って言いたかったのです。

サンちゃんがもう駄目だ…って諦めそうになっても、ゾロの強引でネチっこいしつこさで食らいついて下さい。

そんな私の願いも込めて。

真冬んに捧げます!
こんなお話ですが、どうか持ってって下さい。

ハッ!初めての捧げ小説ですよ(*^з^)!!

お題とキッカケ、その他モロモロ、ありがとうございました!


遊雲ん(^-^)

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