小説ZS<海賊> 約束はダンスの後で6 座ったままでサンジは二人を見ていた。見たくないのに目が離せない。 ミヤビちゃん、やっぱりゾロのこと、す、き、なんだ。ずっと待ってたんだ。夢見るほどに。これは恋慕の告白だよなぁ・・・。 純粋なんだな。会ったこともない、この島に来るかもわからない、そんな男をずっと想い待っていた。なんて素敵な可愛いレディなんだろう。 ゾロもこんなこと言われて悪い気はしないはず。今日だって彼女に呼ばれて来たくらいだ。 ゾロは旅の途中だから、ミヤビちゃんの想いが成就するとは言い難いが、出航は明日の朝。思い出を作るには十分な時間もある。 い や だ ・ ・ ・。 巡らせる思考が身体中にも回ったかのように、カクカクと震えだした。いやだ。ミヤビちゃん、やめてくれ。ゾロにそんなこと言わないでくれよぅ・・・。 目が回って吐き気もしてきた。いやだ、ゾロ。二人でどこか行ったりしないで・・・。サンジは膝に顔を埋めて蹲った。 「麦わらの一味のみなさんの手配書を手に入れてから、ますます思いの丈が募りました。」 嬉しそうにゾロに話だすミヤビ。ゾロの疑うような様子は未だ変わらない。 「でも、ルフィさんも違う。ウソップさんも。当然、フランキーさんも。チョッパーさんはペットじゃなかったんですねぇ。ナミさんやロビンさんが想像通りの素敵なお姉さま方で、感激しました。」 ゾロは相変わらず黙って聞いている。蹲り聞いていたサンジは話の流れが見えず、しかし、いつ核心に入るのかと怯えていた。 ミヤビはチラリと視線を外してから、ゾロを見やって言う。 「サンジさん、可愛いですよねぇ。」 「あぁ?」 初めてゾロが口を挟んだ。サンジも自分が話題に出され、ピクリと跳ねた。 「想像はしてたんです。でも、あの手配書じゃ限界があって・・・。本物のサンジさんに会えてびっくりしました。絵と同様、眉毛はくるりんとされていましたけど、あの可愛らしさは犯罪級ですわ。制服もよく似合ってらしたし、それでお料理も驚くほどお上手で・・・。」 ミヤビはいつの間にかサンジについて熱く語っており、ゾロもサンジも呆気にとられていた。 「それで、やっぱりサンジさんだわ!って思ったんです。」 結論を出してミヤビは満足そうにうなずくが、サンジには全く分からない。「やっぱりサンジさんだわ!」って何がやっぱりなんだろう? 「・・・おまえ、コックが好きなのか?」 ゾロが低く堪えるような声でミヤビに問うと、にっこり笑って答える。 「ゾロさんも、サンジさんも大好きです。」 ますます、ミヤビの本心がわからずサンジは困惑した。ゾロに恋焦がれた想いを伝える今、なぜこんなことを言い出すのか。 「私は後夜祭に戻ります。」 「え!!?」 思わず声を上げてしまってサンジは両手で口を押える。しかし、出てしまった驚きの言葉はすでに2人の耳に入ってしまった。 「サンジさん!」 迷う様子もなく、ミヤビがサンジに近づく。サンジの手を取り、立ち上がらせると引っ張ってゾロの元へ戻る。 ポカンとしているゾロと、慌てているサンジとを並ばせてミヤビは嬉しそうに笑う。 「すべては理に基づいて進んでいます。おふたりが出会って仲間になり、この島にいらしてくださったことも理の流れです。今のままでも良いのかもしれません。けれど、もう一歩進めば、今よりも素晴らしい未来が必ず訪れます。」 そういうと、ふたりの手を交互に握り、では・・・。と去って行った。 ミヤビちゃん、おれ、全然わからねぇ。何が言いたかったのかも、何がしたかったのかも、理の流れって何? 「おい、てめぇ、今のミヤビちゃんの話わかったか?」 「いや、わからねえ」 ゾロは握った拳を見つめていた。 「なんだよ。手なんか見ちゃってよ。ミヤビちゃんの手の余韻を楽しんでんのか?エロマリモ!」 結局、てめぇフラれたんだよ。そういいつつ、サンジはようやく安堵の息を吐いた。イヤでイヤでたまらない想像は回避できたのだ。 「別にフラれてねえ。アッチもコッチも、互いにどうも思ってねぇんだからよ。」 「え?そうなの?てっきりてめぇはミヤビちゃんみてぇのがタイプなんだと・・・。」 少し遠くにあの大男が見えた。あたりをぐるりと見回している。サンジはとっさにゾロを引っ張って草叢に伏せた。 「なんだ?」 「しィっ!」 人差し指を口に当てて、黙れと伝える。ゾロは口をぎゅうと変な風にひん曲げてサンジのすぐ横に伏せた。 「あのやろう、おれに乗っかってきやがったんだ。」 「なんだと!?」 「ばか!しっ!・・・なんかあいつトチ狂って『嫁になれ』とか言い出しやがって押し倒されたんだ。」 「嫁!?てめぇに言ったのか?」 サンジは赤くなって唇を咬みながらコクンと頷いた。男からプロポーズを受けるなんて、情けなくておぞましい体験だった。しかも、嫁。 「・・・す。」 「ん?何?」 「あいつ、殺す。」 「へっ?」 ゾロが恐ろしい顔をして、本気の印の手拭いを被ろうとしたのでサンジは慌てて止めた。 そりゃ、隙を突かれて押し倒されたりしたけど、相手は普通の一般人だ。そんな男を殺させたりしたら、ゾロの沽券に係わる。 「いいから、じっとしてろって。もう俺あいつに会いたくねーし。な?」 不満げにしながらも、ゾロはまたサンジの隣に伏せた。むうう、と唸り声を漏らしている。 サンジに恥かかせた男に報復してやろうなんて。ちゃんと仲間だと思ってくれてるんだな、とサンジは嬉しくなった。あんなに冷えていた心がポカポカしてきて、へにゃんと顔が緩んだ。 何でこんなに温かいんだろ?ニマニマと顔を緩ませたまま、サンジの身体はグルンと反転し、空が見えた。空に向かって聳え立つ木々を隠すように、ゾロが視界に入ってくる。あ、緑。 サンジがポヤッとしたままゾロを見ていた、ら。ゾロの顔が近づいてきて、ちゅっ、と吸い付く音がした。 「え?!」 「静かにしとけ。あいつに聞こえるぞ。」 ゾロがサンジの唇に人差し指を当てる。黙れのジェスチャーだ。サンジはそうだった、と黙り込んだ。 でも、今、唇に、ゾロの唇が、当たって、ちゅっ、って。気のせい?サンジがそんなことを思っている間にゾロは首元に顔を埋めてきた。 「お、おい。」 「あいつが近づいて来てる。」 ゾロの言葉にサンジは再び黙り込んだ。身を隠すために被さってきたのか?そんな辻褄の合わないことを考えて、この状態を無理やり納得する。 だけど、ゾロの指は相変わらずサンジの唇に当てられスリスリとなぞるし、首元には唇を押し付けられ、少し湿った暖かい感触もする。これってこの状態ってゾロに押し倒されてる。 サンジは胸の鼓動が大きくなるのを感じた。聞こえてしまう。恥ずかしくて逃れようと身をよじったら、ぺろりと首筋を舐められた。 「ひゃあ!!」 大きな声を出してしまい、慌てて口を噤む。あの男が、サンジさん?と声を掛けながら茂みに向かってくる音がするのに、ゾロは動こうとはしない。 「ゾロ、あいつが・・。」 「おまえは黙っとけ。」 「んぅ・・。」 今度は気のせいでは済まされないほど、唇に唇が押し付けられてきた。 ゾロは唇を覆うようにして吸い付き、溝を解すように舌で辿る。荒く、滑らかな、ちゅるちゅるという音が脳に響き、サンジの唇は緩んでいく。 見逃すことなく舌は入り込み、口内を探るように動き回る。目当てのモノを探り当てると、舌先で小さく撫でる。 「ぁん。」 ピクンと身体が揺れてサンジから甘えたような声が出る。反応を確認するとゾロは舌をサンジのそれに絡めてちゅううと啜った。 痺れるような感覚にビクビク跳ねて見せながら、サンジはゾロに身を委ねていた。 (ああああぁ・・・気持ち、いい・・・) 脳みそが蕩けてもう何も考えられなくなり、ただ、もっとして欲しくてゾロの背中に腕を回した。ゾロも腕を回してサンジの頭を押し上げる。 隙間がないくらいに密着して(もっと、もっと。)とサンジが唇を突き出す。一度、ぐるんと口内を舐め、舌を強く吸うと、ゾロの唇は音を立てて離れた。 (なんでぇ?もっと・・・。) もっとして欲しかったのに唇が離れたことが悲しくて、潤む目でゾロを見上げる。ゾロの顔が近づいてきて、初めにしたみたいに、ちゅっ、と軽く唇に触れた。くすぐったくて嬉しくて、トロっと蕩けてしまう。 「これで諦めついただろ。悪いが俺の方が先に、こいつと約束している。」 ゾロが声をかける方を仰ぎ見ると、あの大男が口をあんぐり開けて抱き合うふたりを見ていた。 「それとも、おれと勝負するか?」 腰の刀に手を当てて鯉口をガチャリと言わせる。男は青ざめて震えだした。 「ロロノア・ゾロ!?ほ、本物・・・。」 落ち着きのない、怯えた様子を見せる癖に立ち去らないのでゾロは強い口調で言い放つ。 「てめぇの嫁にはならねえ。俺のもんだからな。おれの嫁にする。」 ゾロの言葉に驚いてサンジはちょっとだけ我に返る。 (俺のもんって何?ていうか俺たち、キスした?いっぱいした?・・・気持ちいいって・・もっと、って) 唇が離れて悲しくて、またキスされたら嬉しくて。自分の在り様が信じられない。 「サンジさん、ほんとですか?ほんとにロロノア・ゾロのモノなんですか?」 サンジは何と答えていいか逡巡した。ゾロのモノになった覚えはないが、ここで否定すれば話が複雑になるのは目に見えている。 意を決して問いかけに答えた。 「・・・うん・・・。」 小さく、でもはっきりと、顔を赤らめながら答えて、ゾロの肩口に顔を押し付ける。 (恥ずかしー。こんなことを認めさせられるなんて・・・。) ゾロはサンジの頭と腰に手を当て、きゅうと抱き寄せる。 「これからイイとこなんでな。早いとこどっか行け!」 もうこれ以上は我慢してやらないことを伝えると、男はダクダクと涙を流し踵を返した。 「さようなら、サンジさん。本当にす」 「いいから早く失せろ!!!」 ゾロがイライラして怒鳴ると、男は飛び上がって逃げて行った。 「あの女の・・・通りなのか・・・ちくしょう〜!」 去り際に遠吠えを叫んでいたが、よく聞こえず。ただミヤビのことを何か言っているのだけがわかった。 サンジは一難去ったことに、ため息を吐く。よかった、のかな? 「・・・もう、どけよ。」 いつまでもサンジに覆いかぶさって抱きしめているゾロに促す。 「あいつ、しつけぇ。また来るかもしんねーぞ。」 悪そうに笑うゾロの言い分に、ちょっと同感な部分はある。サンジはそうか、とされるがままになっていた。 ゾロの手はカサコソと首や腰を這い、サンジの喉元に唇も押し付けてきた。 「ちょっと・・」 「奴がまた来た時に、何もしてなかったら疑われんぞ。」 ううっ。サンジは抵抗できない。嫌だったらいつもみたいに蹴り上げて、乱闘すればいいのに何故か力が入らなかった。 あの大男に好きだ嫁になれだと、圧し掛かられて迫られて、すごく気持ち悪くて仕方なかった。嫁だなんてバカにしてると腹も立った。 なのにゾロに「俺のもんだ」って言われた時の感情は、紛れもなく喜びだった。おれゾロの嫁になるの?って思ったけど腹は立たなかった。・・・おれ、ゾロのこと、す、好きなのかな? 好きの言葉に異常に反応してしまう。サンジは、この気持ちが恥ずかしかった。だから、ずっと認められなかった。ゾロへの想いを。 (だって、男同士なんだぜ。ゾロ、迷惑だよな。) いろいろしちゃったけど、これはあの大男を納得させるための芝居なわけで・・・。でも、いいや。 嘘でも、おれのもんだ、嫁にするって言ってもらった。気持ちのいい蕩けるキスももらった。これを胸に秘めて仲間でいればいい。 「おい、もよおした。」 急なご不浄への申し出にサンジは呆れる。人がセンチメンタルに浸っているときに、こいつは。 「勝手にその辺でやりゃいいだろ?」 「していいのか?」 「ドーゾ。ご自由に。」 ゾロの身体が離れると、サンジはさっきよりも深いため息を吐いた。腕を目に当て、疲れた身体を投げ出していた。 カチャカチャとベルトを外す音に気付いて、ますます呆れる。 「まさか、おっきい方がしてぇのか?もっと離れてやれ・・。」 そう言うのにゾロの手はサンジの太ももにかかり、スカートを捲った。 「ゾロ!てめぇ!おれは便所か!?」 首をもたげると、サンジの足の間でズボンをずり下げたゾロが見えた。ご丁寧にもいきり立ったペニスにはゴムが付けられている。 「―――――――――――?!!!」 声も出ないサンジの足を上げ、尻の方からヒップハングに指を掛けるとグリッと剥いた。 「便所のわけあるか!」 ゾロはサンジに優しく、深く口付けた。 <7へ続きます♪> [*前へ][次へ#] [戻る] |